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パブリックピアノの記 2023年7月(1)

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 ピアノの場に到着して15分ほど待っていたら、お仕事帰りらしき方がピアノをお弾きになり始めた。有名なアニメ映画の曲。暗譜で、こつこつとした歩みで弾き進めていらした。
 その方がお立ち去りになった後に来られた方は、最近流行したテレビアニメの主題歌のポップスを、ゆっくりとしたバラード風なアレンジでお弾きになった。後ろで若い方々がちょっと立ち止まり、踊るようにしながら去って行かれた。
 その次の方はまわりを見回しながらピアノに近づいて、コピーらしき楽譜を立てて弾き始められた。素朴なメロディーを基本的な音型の低音伴奏で弾いていくアレンジ。なにか大切な曲をお弾きになっているような、上体の動きに心がこもっている感じの弾き方をなさっていた。
 それぞれの方々がお立ち去りになるときに小さく拍手をしてお送りした。最後の方は私を見て、はにかんで通り過ぎて行かれた。

 そのあと自分も弾いた。a音やh音を軸にした「ぽつぽつ即興」をひととき弾き、ショパンの夜想曲op.62-2を弾いた。弾き終えると、後ろに立っておられた方が、カノンを弾いてくれませんかとリクエストくださった。いやカノンは練習をしていないんです…と申し訳なくお話しすると、いえいえすみませんでしたとおっしゃってお立ち去りになった。
 以前に別の場所でピアノを弾いていてカノンのリクエストをいただいたことがあり、そのときもお断りをしたのだが、そのときのリクエストをくださった方は最初にプロコル・ハルムの「青い影」をリクエストなさった。私がそのとき「青い影」がわからなくて、代わりにカノンをリクエストくださったようだった。「青い影」をあとで調べたら、よく耳にしていた曲だった。伴奏の感じがカノンに似ている。リクエストくださった方はどちらの曲もお好きでいらっしゃったのだろう。
 カノンと聞いて、そのときのことをぱっと思い出した。そのためか、カノンのメロディーを思い出そうとしても「青い影」しか出てこなかった。
 それで、代わりになるかどうかわからないけれど「青い影」を弾いた。そのあいだ、カノンをリクエストくださった方は少し離れた所で立ち止まっていらっしゃったようだった。「青い影」を弾き終えた後でカノンの有名な箇所をなんとか思い出した。少し弾いてみたけれど、そちらはうまく弾けなかった。リクエストくださった方はもういらっしゃらなかった。


※ 写真は記事内容とは別のときの撮影です


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