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パブリックピアノの記 2023年6月(1)


いくつかの日にいくつかの場所で

※ 写真は記事とは別のときの撮影です 

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 バッハの2声のインヴェンションみたいな感じの曲を手堅くお弾きになった方が立ち去った後、連れ立って来られた御年配の方がほかの方々に待ってもらって、童謡だったか映画の歌だったか、何か懐かしい感じの曲をとつとつとお弾きになっていた。

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 このピアノの場所でたびたびお見かけする、お仕事帰りらしき方。いつものようにむかしの歌謡曲をお弾きになった後、有名なピアノ曲を途中まで弾いてお立ち去りになった。
 その後に来られた方はポップスをお弾きに。後ろで何人もの方々が立ち止まっていたけれど、それに気づいてはいらっしゃらなかったのではと思う。
 その次の方はクラシックの有名な曲の有名なアレンジなどを、続けて何曲かお弾きに。その途中、やってきた方がその方の弾いている横から声を掛けて、弾いている方がびっくりして声を上げた。どうもお知り合いの方のよう。しばらくピアノの手を止めて歓談なさっていた。声を掛けた方が去っていって、ピアノを弾いていた方がさらに少しピアノを弾き、その方もまたお立ち去りになった。自分はその後に少し弾いた。
 私の後に来られた方が、私の前に弾いてらっしゃった方と同じクラシックの曲をお弾きになった。お二方とも同じように手がきれいに動いてらっしゃって、でもそれぞれに違う質感で演奏なさっていた。

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 月例イベントのストリートピアノ、この日はなかなか弾き始める人がいなかった。だいぶ時間が経って数人のこどもさんがやってきて、どなたかの親御さんらしき方を前に、弾ける曲をぱらぱらと弾いていた。その後で別のこどもさんが手際よい感じでブルース風の曲を少しだけ弾いて、周囲の方々から拍手をもらっていた。

 前回に私がアニメの曲を弾いたとき、出店のこどもさんがその曲が好きで自分でも練習していたらしく、後で弾いたのだった。恥ずかしいみたいで、ピアノの前に座ったもののなかなか手が動かせなかったのを、横で見守ってときどき手伝って、メロディーを完奏した。そのときのこどもさんも会場に来ていたので今日も弾くのだろうかなと思っていたけれど、この日はそのこどもさんは弾き出さなかった。

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 建物に入るとクラシックのゆるやかな曲が聞こえた。たぶんこの前ここでこの曲をお弾きになっていた方だろう。自分はいつものようにピアノから少し離れた所で聴いた。楽譜を立てて丁寧に演奏なさっていた。
 その方が弾き終えると、若いお二人がピアノの前へやってきた。お一人がピアノ正面の椅子に、もうお一人が隣の椅子に腰掛ける。聞いてもらうのだろう。こうしたピアノの場で定番になっているポップスの曲を、手数が多いながらも細やかなタッチで、そのようにふだんから弾きこなしている感じで演奏なさった。
 その方に遠くから拍手を送りながら、お二人の方々がやってきた。こちらもお若い。弾いていたほうの方々が席を空けて、やってきた方々が入れ替わりでピアノに向かった。お一人がピアノの正面に、もうお一人が低音域のほうに腰掛け、正面の方がメロディーを弾いて低音の方がサポートする感じでワンフレーズを弾いた。そうしたら、いままでお弾きだった方が「○○!」と曲名を叫んで、弾いていたお二人にとてもうれしそうな声でお話し掛けになった。弾いていたお二人も声を掛けられたのが面白かった様子で、受け答えをなさっていたようだった。
 その後、残ったお二人が、曲の途中で止めたり弾くのをやめたりしながら何曲かをお弾きになった。正面の方が譜面台に置いたスマートフォンを見つめて、低音の方がちょうど同じような格好で、並んで連弾なさっているその様子を見ていると、そこにお二人が作る時間が流れているようだった。その時間がちょっととぎれとぎれながら、ひとつの音楽になって、ピアノの場のまわりへと流れ出ていたような気がする。聴きながらその場を失礼した。


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