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シャーロック・ホームズの冒険

「ボヘミアの醜聞」
 
コナン・ドイル
 
短編小説
英国での初出「ストランド」1891年7月号
収録単行本「シャーロック・ホームズの冒険」1892年
 
・・・
「シャーロック・ホームズにとって、彼女〔アイリーン・アドラー〕はつねに『あの女性(ひと)〈the woman〉』である。
といっても、その女性、アイリーン・アドラーに対して、〔ホームズが〕恋愛感情に似た気持ちを抱いているわけではない。」
・・・
 
友人にまた会いたくなったワトソンはベイカー街221Bの懐かしい部屋への階段を上がる。ホームズは相変わらず落ち着き払ったまま、ワトソンにたいして幾つかのことを正確に指摘してみせる。何ポンド太ったか、開業医に戻ったこと、最近雨に降られてずぶぬれになったこと、出来の良くないメイドがいること。ホームズは観察に基づいているのだ、と話し、物事を正しく理解する必要があるという。そして届いたばかりの匿名の手紙についての推理を実証してみせる。そのあとすぐに仮面を付けた偽名の男が「手紙の件で」と訪れた。ホームズはその男が「ボヘミア国王」本人であると見抜く。仮面の男は、ボヘミア国王が昔の愛人「アイリーン・アドラー」と一緒に撮った写真を取り戻すよう依頼をする。
 
「シャーロック・ホームズの冒険」はこの「ボヘミアの醜聞」によって幕を開ける短編小説集です。そして、この作品はホームズの実質的な「敗北」を描いています。冷静な観察力があり、奇抜な策略をなんなく見破る推理力を持つ天才探偵ホームズ。そのホームズの周到な計画が、ひとりの女性の機知の前に敗れ去る。
 
この〈ボヘミアの醜聞〉に登場したアイリーン・アドラーという女性は、ホームズの心を強くとらえることが出来たことで、抜きんでた存在です。「この地上にボンネットをかぶる女は無数にいるが、あれほど美しい女はいない」というこの女性は、血気盛んなアメリカ人のオペラ歌手で、ボヘミア王の恋人でした。ボヘミア王は別の女性との結婚を発表するとともに、アドラーが過去の関係を暴露するのを恐れ、ホームズを雇ったのですが、ホームズが共感したのはアドラーのほうでした。
 
〈四つの署名〉(1890)という作品で「女性っていうのは全面的に信用できない。ーーどんなりっぱな女性でも」とホームズは発言しています。
ホームズのような鋭い知性の持ち主は、相手の魅力のせいで判断歪むことはありません。また、魅力的な女性に惹かれることもない。・・・筈なのですが。
 〈ボヘミアの醜聞〉のアイリーン・アドラーは名探偵を出し抜いた。

愛の情熱も、ホームズが嫌う感情。
自分を惹きつける女性こそ、自分を打ちのめすことの出来る人物。
ホームズはこう推理していたのではないか。
 
〈ボヘミアの醜聞〉ののち、ホームズは女性に動揺する事なく、いくつもの事件を解決していく。「アイリーン・アドラー」がホームズを開眼させたのです。

女性は、性的な駆け引きや情の脆さに訴えなくても、あっさり主導権を握ることがあるのだ・・・。

先入観で判断を狂わされるなかれ。

きっと僕は、名探偵になれるかどうかの境目に立ちたくて、
公園で過ごしたり、カウンターで飲んだりしている。
・・・「アイリーン・アドラー」を待ち続けて、
・・・「ジェームズ・モリアーティ」と対峙する妄想をしている。

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