ヴァージニアウルフなんかこわくない

ヴァージニアウルフなんかこわくない

Who’s Afraid of Virginia Woolf ?
エドワード・オールビー 1928〜2016
1962年 ブロードウェイにて初演

ニューイングランドの小さな大学の構内にある家の居間にて、日曜日の朝から、悲喜劇が始まる。登場人物は四人。
マーサ…52歳。大柄ではしゃぎ回る女性。若く見える。
ジョージ…46歳。マーサの夫。痩せていて髪は白髪混じり。
ハニー…26歳。金髪の女性。不器量。
ニック…28歳。ハニーの夫。金髪で逞しく、ハンサム。

マーサとジョージは、皮肉や憎しみ、傷つけ合う言葉、自己嫌悪を用いて喧嘩を繰り返している。感情を抑圧された知識人にありがちなことで、「遊び」として空虚なコミュニケーションがなされている。この「遊び」に客として招かれたはずのニックとハニー夫妻も巻き込まれていく。ふざけているのか、真剣なのか。嘘をついているのか、本当のことを言っているのか。曖昧で区別がつかない。区別することを放棄しているようにも見える。「遊び」の内容がより過激になっていく。相手を脅し、馬鹿にし、嘲りながら情け容赦ない攻撃を浴びせる。ユーモアとしては残酷すぎる。それをやめさせるためジョージは歌い出す。ジョージがマーサと結婚したのは、一見財産と地位が目的だったようにみえるが、純粋な感情からだったのだ。
「オオカミなんかこわくない。ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」

お互いに同じ空想をして作り出した幻想は、絆を強める。幻想は「ゴトーを待ちながら」のゴトーのように人間が作り出した救世主になり得る。この幻想が無くなってしまうと、頼る運命も見出せず、本当の空虚となる。絶望のどん底に陥った二人は、お互いを頼りにし、慰め合う。共有された虚しさは愛を生み出した。その愛は無と紙一重。しかし決して無ではない。

ジョージは、それをわずかに信じて
「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」
と静かに歌う。
しかし、マーサは
「ヴァージニア・ウルフ」
を恐れる。

この二人の、問題を解決する知恵は「幻想」。
感情を抑圧された知識人にありがちなこと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?