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カンディード

『カンディード、あるいは楽天主義説』(Candide, ou l'Optimisme)
ヴォルテール 1759
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1755年11月1日、ポルトガルの首都リスボンを大地震と津波が襲いました。
西ヨーロッパの広い範囲で強い揺れが起こり、ポルトガルのリスボンを中心に大きな被害を出しました。津波による死者1万人を含む、5万5,000人から6万2,000人が死亡、推定されるマグニチュードはMw8.5〜9.0の巨大地震であったと考えられています。
この未曾有の災害はポルトガルの衰運を加速させただけではありません。この自然の猛威は、神によって世界は最善に創られているという世界観を揺さぶり、カント、ルソーなどの思想家に大きな影響を与えました。この『カンディード、あるいは楽天主義説』は、同じくこの災厄に衝撃を受けたヴォルテールの代表作です。人を疑うことを知らぬ純真な若者カンディードが苦難に満ちた旅をしながら人生の意味を考える、という小説です。本作でカンディードがリスボンで遭遇する大地震の場面は、リスボン大地震に基づいています。カンディード(作者)はライプニッツの楽天主義に疑問を抱きます。
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地震が与えた衝撃はヨーロッパの精神にもおよびました。当時の通俗的な理解では、災害とは自然現象というより神罰でした。しかし、多くの教会を援助し、海外植民地にキリスト教を宣教してきた敬虔なカトリック国家ポルトガルの首都リスボンが、なぜ神罰を受けねばならなかったのか、なぜ祭日に地震の直撃を受けて多くの聖堂もろとも町が破壊され、善人も悪人も罪のない子供たちも等しく死ななければならなかったのかについては、18世紀の神学・哲学では説明の難しいものでした。
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生、老、病、死、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦・・・乗り越えても乗り越えても苦難は続く。ついにカンディードは楽天主義と訣別せざるを得ないことを自覚します。
「楽天主義とは、どんな悲惨な目に遭おうとも、この世の全ては善であると、気の触れたように言い張ることなのだ!」
カンディードは労働こそ人生を耐え得るものにする唯一の方法であることに思い至り、日々の仕事とその成果の中に、ささやかな幸福を見出すようになります。

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