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たけくらべ

『たけくらべ』

樋口一葉
1895年〜1896年 連載

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廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行来にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前と名は仏くさけれど、さりとは陽気の町と住みたる人の申き、
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気前がよくて勝気な《美登利》は吉原遊廓大黒屋の養女で14歳。遊女の姉を持ち、自身もゆくゆくは遊女となることが決まっている。表町組の《正太郎》や子供達とよく遊んでいた。この表町組と対立しているのは《長吉》を大将とする横丁組で、その中に美登利が好意を寄せている、龍華寺の住職の息子《信如》がいた。運動会の日、躓いた信如に美登利がハンカチを差し出したところ、回りから冷やかされてしまう。信如は美登利を無視するようになり、美登利は悲しく思いながらも信如に対して冷たい態度を取るようになった。
夏祭りの夜、横丁組は表町組に殴り込みをかけ、美登利は長吉に泥草履を投げつけられた。信如の指図によるものと誤解した美登利は悔しがるが、信如への思いは断ちがたかった。
ある雨の日、信如は美登利の家の前で下駄の鼻緒を切って困っていた。布切れを持って出てきた美登利は、それが信如だと知ると顔を赤らめ、身を隠して布切れを投げてやるが、信如は恥ずかしさからその好意を無視してしまう。
時が経ち、美登利は頭を嶋田髪に変えられる。これは美登利が遊女になる日が近づいていることを意味している。それ以降、美登利は他の子供達とも遊ばなくなってしまった。

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何時までも何時までも人形と紙雛さまとをあひ手にして飯事ばかりしてゐたらばさぞかし嬉しき事ならんを、ゑゑ厭や厭や、大人に成るは厭やな事、何故このやうに年をば取る、
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霜の朝のこと、美登利の家の門に白い水仙の造花が差してあった。美登利はこれを見て懐かしくも悲しい気分になり、部屋に飾る。

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