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鬼平犯科帳

📘『鬼平犯科帳』
池波正太郎
「オール讀物」連載 1967〜1989
全135話(作者の死去により未完)

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江戸の火付盗賊改方の長官・長谷川平蔵を主人公とした捕物帳。配下の同心や密偵、或いは彼らと敵対する盗賊どもを、主人公と同等、もしくは時としてそれ以上の比重で描き、これまでの捕物帳にはなかったリアルな人間関係を打ち出すことに成功している。
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「むかしの女」
長谷川平蔵が、その女・・・・おろくと二十余年ぶりに出会ったのは、座頭・彦の市が行方知れずとなって間もなくのことであった。このところ、平蔵は多忙をきわめている。火付盗賊改方と〔兼任〕で、石川島にもうけられた人足寄場の〔取扱〕をすることになったからである。…おろくは胸にある傷跡を平蔵へ見せた…。「おまえ、おろくか!」…。若い頃、十九歳の平蔵は〔本所の銕〕と異名をもって呼ばれ、無類放埒のかぎりをつくしていた。そこへ近づいた女が「おろく」であった。おろくは「すあい女」という一種の娼婦であった。平蔵へ近づき、女ざかりの肌身をすり寄せ、自暴自棄で血気に膨れ上がっていた若者の躰を虜にしたのだった。平蔵は、俗にいうところの「ひも」になったわけだが…。おろくが他の男に抱かれている妬心より、罵り合ううちに怒気にまかせて、脇差をはらった。血だらけになって泣き叫ぶおろくへ「ざまあ見ろ!」と毒気づいて戸外へ飛び出したのであった。
…その時の二人。いま平蔵は四十五歳、おろくは五十二歳である。平蔵は、懐中の財布を出して、これをそのまま、おろくのふところへ押しこみ、「三両とすこし入っている。足らぬところは、いつでも清水門外の役宅へたずねておいで。出来るだけのことはしよう…。」
…しかし…
平蔵の心とは裏腹に、おろくは「強請(ゆすり)」に味を占めるのであった。

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「犯科帳」とはもともと長崎奉行所の刑事判決の記録を指す言葉。池波正太郎は新たな連作の執筆にあたり、これを用いた。意図通り「捕物帳」の刷新に繋がった。

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「…出て来て刃向うやつどもは、かまわず斬れ」と、命じた。
「かまわぬのか、平蔵」
「左馬。雷神党のような浪人くずれには打つ手がないのだよ。おそらく大丸屋へゆすりをかけたのもこいつらだろうが…・・・・そのゆすり方ひとつ見てもわかる。まるで獣だよ。世の中の仕組が何もわかっていねえのだ。獣には人間のことばが通じねえわさ。刈りとるよりほかに仕方はあるまい」

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