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竹取物語

「竹取物語」(作者不詳・正確な成立年も未詳)

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いまはむかし、たけとりの翁といふものありけり・・・
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その竹の中に、もと光る竹なむひとすぢありける・・・
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竹取物語は平安時代前期に成立した、仮名で書かれた現存最古の物語です。舞台は大和国の飛鳥、藤原の地。神話や伝承であった「昔話」がこの竹取物語の成立をもって「物語」になりました。語り手の創意工夫により物語文学が誕生したといえます。
それまでの伝承では、異世界の女性が地上で数年過ごし、再び異世界へ帰るという話のが一般的でした。これを「天人女房型説話」といいます。竹取物語では完全にその話型に従っていません。かぐや姫は地上の男性と結婚をしません。飛行の道具には「車」が用意されています。「天の羽衣」は人間らしい心を無くさせるものとして登場します。さらにかぐや姫は天ではなく「月」に昇天します。太陽と違って「死」の影が色濃い世界です。
これらの違いは、伝承の枠組みを利用しつつもそこから一歩踏み出して、新しい話を創作しようとした跡と観ることができます。かぐや姫を諦めきれずに身を滅ぼす五人の求婚者たち。月への帰還を阻止しようと大軍を用意する帝や翁たち。人間模様も描かれています。

世界各地に存在している「羽衣伝説」の伝承では天女は白鳥と同一視されているものが多くあります。湖水に白鳥が降り立ち、女性の姿になり水浴びをしている間に、男性が衣服(羽衣)を隠してしまい、白鳥(天女)は帰れなくなる。人間が異界の者と結婚をするという「異類婚姻譚」「天人女房型説話」の伝説です。「羽衣伝説」と違って、かぐや姫は結婚はしませんでした。

かぐや姫が竹中から生まれた「異常出生説話」
かぐや姫がみるみる成長した「急成長説話」
かぐや姫によって富が栄えた「致富長者説話」
かぐや姫が求婚者へ難題課す「求婚難題説話」
かぐや姫が帝の求婚願を拒否「帝求婚説話」
かぐや姫が月へもどっていく「昇天説話」
富士山の地名由来を説明する「地名起源説話」

創作者は伝承を継ぎ接ぎせずに、伝承を利用しながら自由な想像力で竹取物語を誕生させたのです。現実的な貴族の求婚や帝の求愛を主軸としながらも、一方では貴族社会への批判も込められています。また、人々の性格や、心理、苦悩までもが描かれています。

かぐや姫と翁、嫗の間に流れる愛情の美しさはとても清くて胸を打ちます。かぐや姫は手紙を書き、不死の薬を添えて渡す。すると天人がさっと天の羽衣をかぐや姫へ着せる。かぐや姫はこれまでの記憶と、そして寸前まで翁、嫗を痛ましく愛おしいという感情をも無くしてしまう。

「竹取物語」では「天の羽衣」は人間らしい心を無くさせるもの。
ただの空を飛ぶ道具ではない。

僕たち地上にいる人間は、辛い世界から「天」を見上げて「天」に憧れている。
「天」に行く方法をずっと探し求めて、山の頂を目指したり、精神的な修行をしている。
世界中の宗教は、どれも「死」の不安を和らげ「天」への道を模索することから始まっている。
「天」は豊かな世界なのだろうか。「月」のように灰色の世界ではなかろうか。

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「天の羽衣」がなければ行けないところが「天」であって、
悲しいことに、「天の羽衣」が地上との繋がりを消してくれる。
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青白い月の世界に住む「かぐや姫」に会って確かめてみたい。

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