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風の歌を聴け

『風の歌を聴け』
村上春樹 1979

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「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
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1978年に20代最後の年を迎えた僕は、アメリカの作家ハートフィールドに思いを寄せ、書くことの困難さを認識しながらも、1970年の夏休みの体験を語り出す。

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「嘘だと言ってくれないか?」と真剣に求められても訂正できなかった。
嘘が嫌いで嘘をつけない人間。正直に語ることはひどくむずかしい。
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僕は21歳。東京の大学三年生。今は街に帰省し退屈な夏を友人の〈鼠〉とジェイズ・バーでビールを飲んで過ごしている。ある晩、小指のない女の子が店で酔いつぶれていたところを部屋まで運んであげたことで、彼女から卑劣漢と誤解される。ラジオのDJからの電話で思い出せられた、高校時代の女友達から、借りっぱなしのまま無くしてしまったレコードを買いに行った店で、小指のない女の子と再会し、やがて親しくなる。

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僕が正直になろうとすればするほど、正確な言葉は闇の奥深くへと沈み込んでいく。
心に思うことの半分しか口に出すまいと決心した。
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冬に街に帰ったとき、小指のない女の子はレコード屋を辞め、アパートも引き払っていた。・・・現在の僕は結婚し、東京で暮らしている。〈鼠〉はまだ小説を書き続けている。毎年クリスマスに彼の小説のコピーが僕のもとに送られる。

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喪失感は埋められない。虚無の風は吹き続ける。
あらゆるものは通り過ぎる。
誰にもそれを捉えることはできない、と認識する。
その中で書くこと、書き続けること。
そのことでこそ、
風の歌を聴くことは果たされる。

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