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「天国と地獄」.3

木こりの前に現れたのは神様が作りあげ、木こりを助けるために人間の暮らす世界へ降りた幼い人間と逞しい人間でした。

彼らは言いました。
「「俺/僕 があなたを救ってみせます。」」

木こりはこれまでずっと1人で懸命に生きておりましたから。
突然に救いの手を差し伸べる存在が2人も同時に現れてどうすればよいかわかりません。

木こりは正直に思ったことを伝えました。
「気持ちは嬉しい。けれど、すまない。私はこれまで森で1人生きてきたのだ。救う、と言われても救われ方がわからないし一体全体どうすれば救われるのかもとんと検討がつかん。」

若い人間が言いました。
「僕は僕にできることをするし、神様から聞いた君の話に感動したんだ。君のことが堪らなく好きになったから、どうか僕の手を取って欲しい。」

逞しい人間が言いました。
「俺には君を救うだけの力がある。そのために神様は俺を丈夫に作ってくださった。君が俺に凭れかかったとしても起こせるくらいに俺は強い。だから、俺の手を取ってくれ。」

木こりは2人の言葉を有難く思いつつも困惑していました。
なぜなら、彼は神様が時々助けてくださって相棒の斧さえあれば1人で生き抜くつもりだったからです。

それも若い人間と逞しい人間は互いに「自分の手だけを取って欲しい」と選択を迫ってきたことで、木こりの混乱は増すばかりでした。

そんな優柔不断な木こりを見るに見兼ね、ついには若い人間と逞しい人間は言い争いを始めました。

木こりが止めに入ると「ならどちらかを選んでくれ」となお選択を迫られました。
おろおろしている木こりを見て自分をどうしても選んで欲しい若い人間はこう言いました。

「もし僕を選んでくれるのなら君に一生付き添うし、僕を選ばないのなら君を一生恨む。僕が君のそばに居たいから早く僕を選んでくれ。」

木こりはその言葉で自分がどうすればいいかさっぱりわからなくなりました。

逞しい人間はと言えば、神様を手伝うために木こりを一人残し天界へと一旦引き返しておりました。

「私はどうすればよいのだろう。神様が遣わしてくださったのだ。無下にする訳にはいかない。どうすれば。」

ふと木こりは相棒の斧さえ投げ出して逃げてこの世から消え去りたいと感じました。
己が湖に身を投げ、透明な水の中で儚い泡となって消えていく姿さえ思い浮かびました。

「ああ、これが3度目なのだな。」

木こりは呆然と立ち尽くしておりました。

もしサポート投げてくれたらなんかいい感じのことに使います。