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生まれたことに気付いていない娘、ホームシック

先日帝王切開で女児を分娩しました。手術当日は無事生まれたことを確認して鎮静をかけてもらったのでゆっくり対面は出来ず、術後2日目から母児同室開始となりました。あらためてまじまじとわが子と対面してみると、産着とタオルに包まれコットに収まっている娘は本当に小さく頼りなげでした。抱き上げるのにもこちらが息をつめてそおっとそおっと。ミルクもあまり飲まず、泣きもせず、この、非力でふにゃふにゃの生きものはまだ赤ちゃん以前のものだ、というのが率直な感想でした。予定日より2週間早く突然お腹から取り出された娘は、まだ生まれたことに気付いていないかのようでした。子宮のゆりかごの中にいるつもりでこんこんと眠っている娘。この小さな命を、わたしが見守り、存続させなければならない。それは今まで味わったことのない緊張感でした。

傷の痛みや慣れない授乳、新型コロナの影響で夫や親も面会ができない状況でわたしは完全にナーバスになっていました。豪華な産後食も食欲がわかず、病室のベッドで1人黙々と食べてもまるでおいしくない。(産後の食事は通常の病院食と違って豪華なメニューになっていて、上げ膳据え膳で美味しいものを食べられるのも入院中だけとわたしは密かに食事を楽しみにしていたのだけれど)とにかく早く自宅に帰りたい、いつもの生活に戻りたい、家のテーブルで夫と向かい合わせでご飯を食べたい。そしてまだ赤ちゃんにもなりきれていない、この弱々しい娘を見守る責務をわたし1人の手に負わせないで、と涙ぐむ日が続きました。産後ホルモンの急激な変化で感受性が高まるという話は聞き知っていたし、助産師さん曰く「産科病棟ではよくある光景」とのことだったけれど、津波のように押し寄せてくるコントロール不能の感情の波に完全に翻弄されていました。退院してホームシックがおさまった後もわたしの情緒不安定は約1カ月続き、いま思い返してみると笑い話のようですが、只中にいたときはとても辛いものでした。(へその緒が取れて出血しパニックになり大泣き、など…)先回りしてフォローに徹してくれた夫には本当に感謝です。

今この文章を書いている横で娘はすやすやと眠っています。本来の予定日を過ぎたあたりからようやく活気が出始め、大きな声でぐずり泣き、ミルクを欲しがりバタつかせる手足も力強くなりました。スタートしたばかりの育児は手探りが続いていますが日々変化していく娘を見守ることが楽しくなってきています。とりとめのない文章になりましたが、怒涛のうちに過ぎ去った最初の1ヶ月をここに記しておきます。

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