西瓜房子のお話aaa_017

第1話 巫女さんがやって来た~③ レディミーツガール~

 輝子に追いついた私は、肩に手を伸ばし引き留める。介入するのはちょっと待て、話がややこしくなる。双羽輝子はお節介である、そしてキレると武力行使に出る。コイツの性格はよく知っているんだが、高校時代の黒歴史を語っていたら、話が先に進まないのでやめておこう。街行く人も振り向いて巫女さんの姿を見て、何事が起きているのか確かめようとチラチラ盗み見しながら歩いている。幸か不幸か、人集りはできていない。私は改めて、巫女さんの姿を眺めた。赤い袴の巫女さんは、一見あどけないロリ顔だが、年齢が判断できない。輝子の例もあるからな。おかっぱで色素の薄そうな髪。そう日本人形のようだ、あの心霊特集で見るような・・・。たとえこの子が百パーセント悪くても守ってあげたくなるような小さな少女だった。巫女さんの向かいには、男が二人。一人は細身でヨレヨレのTシャツ一枚に、何故か五月人形のような謎の兜をかぶっている。おいおいもうGWかぁ~。戦国武将だった先祖から受け継いだ兜か何かだろうか?真冬に寒くないのか?そしてもう一人、身長は低い巨漢(というかピザ)で、モジャモジャヘアーに眼鏡をして、張り裂けそうなTシャツ(アニメキャラの女の子がプリントされた)に上から赤いチェック柄のシャツを着ている。この二人組は大学生位だろうか。そして私達二人は、目と鼻の先で、三人のやり取りに目と耳を傾けていた。輝子は腕を組んで、目を細めて黙って見ている。いいか、波風立てるなよ、輝子。


サムライ「其(それがし)のアロエたん、いかが弁償してくれるでござるか—これ高かったんじゃぞ—」
どこの方言でもない。時をかける侍がそこにいた。か細い声で巫女さんが頭を下げ謝っている。どうでもいいが、メガネの方のシャツはそのアロエというキャラなんだろうか?
アロエシャツ「(∩ ゜д゜)アーアーきこえなーい。ちゃんと喋れよ、コミュ障か?」
巫女「ごめんなさい、ちゃんと弁償します。」
引きつった声で巫女さんは目が泳いでいる。
サムライ「これヘチマブックスオタロード店で購入した限定版なんでござる—弐度と手に入ら無きものなんでござる—分かとは候か?」
巫女さんは俯いて声を失っていた。
アロエシャツ「バイトだからって何でも許される訳ないよなぁ、ここは歩道。俺たちのロードオブロードなんだよ!それじゃー世間は許してくれないよねぇ。」
支離滅裂公私混同、屁理屈のおせち料理だ。
アロエシャツ「まったく、街中でコスプレして恥ずかしくないのかよ!いるんだよねー、こういう勘違いの世間知らず。」
アロエシャツの相方の格好はコスプレじゃないらしい。
サムライ「舐めた巫女さんでござる—左様な時代遅れな薄汚ゐ巫女服着て面目くないと思わなゐとか?」
巫女さんは何かを呟きそうに唇が震えている。
アロエシャツ「あぁー何か文句あんの!」
巫女「・・・時代遅れじゃないもん。おじいちゃんがくれた大事な服だもん。」
こいつら・・・私は苛立ちを覚えた。
サムライ「はぁ—反省してなゐで、こやつ—」
アロエシャツ「調子乗ってんじゃねーぞ!」
サムライ「其れにて—如何しても巫女殿は謝らなゐとでござるか?」
巫女「ごめんなさい、あの言いにくいんだけど、・・・さ、さっきからお侍さんが何言ってるのか全然分からないよ~。」
巫女さんの悲痛の叫びに共感せざる負えない。某猫型ロボットに何とかこんにゃくを出し貰いたい位だ。しかしそろそろ、見てる私も堪忍袋の緒が限界だぜ。輝子程じゃないが、私も気の長い方じゃない。
輝子「おい、てめぇらええ加減にせぇや、それ以上御託ほざくとぶっとばすぞ!」
ここで我らがお奉行様・双羽輝子参上!ここまで耐えたのが奇跡に近い位、こいつは気が短いからな、無事じゃ済まないぞ。
サムライ「む—何奴?」
アロエシャツ「なんすか?このチビっ子。」
火にラードを注ぐアロエシャツ。巫女さんは訳が分からないのかそわそわしていた。
輝子「誰が、胸がまな板レーズンだ!ゴルァ!」。
サムライ・アロエ「いや、それは言ってない(でござる)。」
レーズン食べる時に思い出すからやめろ、輝子。
サムライ「こやつの連れか。何奴が拝見しても、悪しきのはこの人でござる。こやつがぶつかとは其のフィギュアの箱つぶれたでござる。」
煽るようにそうだそうだと連呼するアロエシャツ。サムライは鞄からフィギュアを取り出す。『魔法幼女あろゑ☆リリカル』・・・何じゃこりゃ・・・なるほどそういう事か。
輝子「あんなぁ~、そんなんどうでもええねん。巫女さんは謝って弁償するって言うてるんやろ?それでええやんけ。それより、許されへんのは、てめぇらが寄ってたかってその人形以上に巫女さんの心をいたぶってる事やろうーが!!あぁん!」
輝子・・・お前・・・・武士語が理解できてるとは思えないが。
サムライ「じゃから限定品であると申してるであろうが!」
うるせぇ!と高らかに叫んだ輝子は・・・


「秘儀!輝輝☆光彩陸離(シャイニー☆スパークルブリリアント)!!」

と謎の言葉を発し、サムライの腸めがけてボディーブローをかましていた。会心の一撃(クリティカルヒット)だ。あ~あ、先に手出しちまいやがった。しかし、ちょっとただのパンチにしてはおかしくないか。いや、アホな英単語の羅列じゃなくて、そもそもコイツにそんな腕力はない。地べたに沈み込んだサムライは腹を押さえ悶え苦しんでいる。て、輝子、その指にハメてるメリケンサックなんや、それ?
輝子「あっ?これか、ネットで買うた防犯グッズ。スタンガンじゃ充電切れたら、心持たへんからな。それに奪われると返り討ちやん。警棒と違って鞄にも入れやすいで。」
アホかッ!そんな事聞きたいんじゃねーよ。
輝子「か弱い私が力の差を埋めるために、武器って存在するやん?何か間違ってる?」
ダメだ、こいつ早く何とかしないと。とっくに女性として、いや人として間違ってる・・・輝子政権の外交に平和的交渉という文字はないらしい。
輝子「輝子様の天誅、それは巫女さんの痛みやで。」
気持ちは分かるが、過剰防衛だからな。巫女さんはさらに困惑した表情で呆然と立ち尽くしている。アロエシャツは落ち武者を見てたじろいでいる。
輝子「おいそこのメガネ。ええか、人の心は取り替えができへんねん、お前だって希少なもの集めて共に喜び合える仲間がいるんなら、大切さが分かるやろ。」
アロエシャツ「と、とんでもない暴力娘だ。すみませーん、誰か助けてください。だれかー警察呼んで~三人がかりで・・・突然殴られました。暴力反対—暴力はんたーい!」
ほら言わんこっちゃない。穏便に話し合わないから・・・
輝子「ちっ、あのなー、お前もいっぺんシバいたろかぁ。」
アロエシャツはスマホを手に取るが、輝子はそれを奪おうとしている。落ち着け輝子、やり過ぎるな。先に手を出したのはお前だ。私は目の前のちっちゃな猛獣の手綱を引っ張る。
アロエシャツ「恐喝だ、脅迫罪だよ!きょ、凶器を持ってる。誰か110番してー。」
事実、痛い所を突いてくる。アロエシャツは大声で近くの人に助けを求めている。気付くと周りにはパパラッチが集まってきている。三対一(一名撃沈)なのに状況が悪くなってる。どうすればいいんだ?
輝子「離せ、房子。このキモオタ野郎に、輝子様の鉄拳を喰らわせたら丸く収まるんやから。」
いい加減にしろ!シャイニー何とかはもう犯罪だからよせ!
「だ、ダメなんだよ、話し合いで解決しなくちゃ。私が悪いから・・・弁償すれば・・・」
突然、震え声を絞ったのは巫女さんだった。ん~、全くその通りなんだけど、ちょっとタイミングが遅いなぁ・・・。
輝子「会話なんて通じる玉かよ。口で言って分からないガキには、拳で語るしかないんやで。」
お前は世紀末救世主か何か!まぁ、輝子は考えるより先に口を、手を、足を動かす。コイツはそういう女だ。嗚呼…最初から分かってたさハハハ・・・そしてその時、たまたま巡回中らしき警察官が奥の交差点の角に立っていた。姿勢は明後日の方向だったが、いつから見ていたかは分からない。何てこったい、タイミングは最悪だった。
輝子「逃げるぞ。」
またこいつは突然何w・・・いやそれしかないかもしれない。八方塞がりだ。
輝子「巫女ちゃん、走れるよな。」
すでに涙目で震えていた巫女さんは何か言いたげだったが、輝子は巫女さんの手を強引に引っ張っていた。私は巫女さんの持っていたと思われる手荷物を抱えて輝子(+巫女さん)と共に、逃避行に駆け出して行った。振り返る余裕はなかったけど、アロエシャツはその警察に通報したのだろうか?クソ、あのインチキ占い師、何が運命だ?出逢いだ?今度会ったら文句言ってやる!これだから無責任な事言う占いなんて嫌いなんだ。持つべきものは友達と言うが、私の友達は今、暴力事件起して、警察に追われ、あげくに少女誘拐ときた。コイツに付いていくのは、人として間違っちゃいないだろうか?巻き込まれるこっちの身にもなれってんだ。ところで肝心な事を忘れている。この巫女さんは一体何者なんだ?そんな事も忘れる位無我夢中で走っていた。今日はとんでもない厄日だ。

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