西瓜房子のお話_003

第1話 巫女さんがやって来た~② 双羽輝子という名のおっさん~

「キモいわ。」
新年早々、最初の挨拶がそれか!失礼な奴だな。ここは市内にある喫茶店レイモンド。初老のマスター♂と若い店員さん♀が切り盛りする小洒落た個人経営の喫茶店だ。店員さんは正月休みらしく、マスターがわざわざ三日に店を開いてくれた。そしてこの声の主、いつも座ってる席、今私の目の前にいるちっこい少女、名前を双羽輝子という。まるでウサギの耳のような茶髪のツインテールは、長年の染髪のせいか酷く傷んでいる。日サロで焼いた小麦色の肌。同い年と思えない程いわゆるロリ顔で身長一五〇センチ。黙っていれば、腸が煮えくり返るほど悔しいが、ぶっちゃけ相当可愛い。私が男なら土下座してでも付き合って欲しいレベルである。ただしそれは、外見だけの話で、そうコイツは私以上に口が悪いのだ。あとどうでもいいが胸元を開いた服を着るのは、誰得としかいいようがない絶壁なのでやめてほしい。
「ニヤニヤしながら私の胸見とるで・・・さらにきもッ。」
そんな趣味ねぇよ。そんなににやけ顔なのか?私。いい事があったんだよ、いいやこれからあるんだよ。輝子に昨日のありがた~いお話を伝える。
「お前も見境のうなったな、占い師のジジイに乳揉まれて発情したんか?」
そんなんじゃねーよ。唐突に下ネタ挟むな!若い女性の占い師っつったろ!
「だってよ、占い師なんてジジババがそれっぽいカッコして、ガラス玉見てテキトーな事抜かしてるだけで銭入る仕事やで。」
お前は占い師にどういうイメージ持ってんだ?全国の占い師とご年配の方々に謝れ。
「そんなん何とでも言えるやろ。正月やで、地元帰って、普段会わん人とも会うやろ。受験も近いし・・・嘘を信じて、世界が・・・何やったっけ?胡散くさッ。」
マジレスやめて~、か弱い乙女心はメルヘンなんだから、理屈じゃないの!ああ分かってるさ、女性は都合のいい時だけオカルト脳になるって。
「ぶっちゃけ言うけど、西瓜房子。お前ただのおばはんやからな。まず、ウィズミヤの婦人服売り場で、おばはんに混じって働いてる人をOLとは呼ばへん。その単語で男を釣ろうと思ってるのが間違いやで。」
輝子は吹き出しそうなのを堪えながら、どや顔をキメ込んでいる。うるせぇ、定職就いてねぇお前に言われたかねぇ。あと、おばはん言うな!
「まぁ、私はマスター一筋やけど・・・房子、お前には譲らへんで。」
嘘こけ、この前、ピザ屋のお兄たまがどうとか話してなかったか?
「それはそれ、これはこれや。」
そうかそうか、頑張りたまえ恋多きチェーンラバー輝子くん、私はトゥルーラブに生きるのだよ。女神アフロディーテ様に誓って・・・相手はこれから見つかけるさ。
輝子はマスター相手にウインクを飛ばしている。無口で強面のマスターは目を逸らしているように見えた。こんな事故物件娘に目を付けられたマスターが気の毒でしょうがない。
大体、マスターには店員さんという・・・


「ところでさぁー、出逢いってあーいうのも入るん?」
輝子が指指す窓の向こうには目を疑う光景が広がっていた。ここらでは見かけない少女・・・巫女??まぁ、正月なので巫女さんの一人や二人いてもおかしくないが、神社でなく街中である。巫女さんが何やら交差点前の歩道で、何かを配っている。ポケットティッシュだろうか?全くもってよく分からない光景だ。巫女さんもティッシュを配る時代なのか?近くにコスプレ喫茶はないはずだが?日本橋じゃあるまいし・・・道行く通行人もチラチラ視線を向けるが、避けるように去っていく。
「カメラマンおらへんな。」
何の撮影だよ!確かに、女優って線もありえるかだけど。どちらかって言うと地下アイドルか何かだろう。ただの罰ゲームかもしれない。
「正月早々、ご苦労な事やで。」
全くだ。出逢いねぇー。まぁ、たくましく生きてくれ、見知らぬ少女の巫女さん、今日の私は忙しいのだよ。
「何か増えたで。」
ん?どうやら男二人組と話をしている。というか、どう見ても絡まれているじゃねーか!遠越しにもその巫女さんはすごく困っているように見えた・・・何やらかしたんだよ?あの人・・・
「うけけ~、事件の匂い」
たしかにヤバそう。薄気味悪い笑いを飛ばしたかも思えば、テーブルとイスに両手を突いて立ち上がった。
「この謎は必ず解き明かしてみせるで、おばはんの名にかけて!」
勝手に殺すな。どっちかって言うと、見た目は子供、頭脳も子供の方だろ、名探偵輝子さんよ。やれやれ、面倒事は御免なんだが。
「いくで、房子!マスター、つけとって!」
そう言い放った輝子は、勢いよく扉を弾いて、駆け出して行った。まるで小屋から逃げ出したウサギだな。私はマスターに頭を下げ、輝子の後を追いかける。そして領収書を貰い忘れていたことを、店を出た後に思い出す。まったく、溜息を吐く間もない。

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