西瓜房子のお話aaaaaaa_002

第1話 巫女さんがやって来た~④ 愛をまき散らせ~

 大川の川沿いをひたすら走り続けて、どこまでたどり着いたのだろうか。ビルの谷間から遠くに天守閣が見える。おそらく京橋辺りだろうか。真冬のランニングは体に堪える。私達三人は追手が来ない事を確信し、ようやく落ち着き、呼吸を整えた。


輝子「よっしゃ撒いたな。みんな大丈夫やな?」
大丈夫な訳あるか・・・まぁいいや・・・まったくすまなかったな。巫女さんまで悪者扱いされて。一駅分もランニングまでさせて。
巫女「ありがとう。助かったんだよ。でも、私が悪かったのに・・・それに暴力は良くないよ。」
いや、あんたは悪くないさ。因縁吹っかける奴が悪いに決まってる。ほんと敵前逃亡って感じで割が合わないよなぁ、主にこの阿呆のせいだが。私は輝子のツインテールを引っ張る。
巫女「そんな事ないよー。見ず知らずのヘンテコな私を庇ってくれて、嬉しかったんだよ。」
輝子「あんな変なの相手に強気でおったらええねん、道なんて堂々と真ん中歩いた奴の勝ちや。」
それはお前の理屈だ・・・って、輝子はすっかりいつもの得意げな顔に変わっている。まぁ前向きに考えるとしたら、女の子に殴られたって位じゃ事件になるとも思えん。いざとなったら、輝子からナックルダスターぶんどって、ゴミ箱にドラッグ・アンド・ドロップしちまえば、私のか弱い女友達が打撃武器を持ってるわけがないんだからと白を切れば、いささか罪は軽くなるかもしれん。ある意味その護身グッズは正解だな。我ながらゲスの悪知恵乙女。それにこれ以上、引っ張って、この女の子に悲しい顔はさせたくない。輝子さん、難しい事は言いません、暴力沙汰は止してください、それだけだ。どーせ、私らは年齢=彼氏いない歴だ。若い頃は男の方から逃げていったんだがな。こんなガサツートップと関わると結婚が遠ざかるだけだ。だから、そろそろ解放してやれ、輝子。確かこの子も仕事中だ。今度は誘拐犯になりたいのか?


輝子「ところで、仕事の方は大丈夫なん?」
だからもう首を突っ込むのは止せ。ほら、こんだけ仕事も残ってるんだから。巫女さんの手荷持の大きな鞄を勝手に開ける。ちょっと失敬、見せなきゃこいつも分からないからな。中には大量にポケットティッシュが詰め込まれていた。・・・それより・・・何だこれ?ポケットティッシュを手に取ると、ピンクと黒の色彩とハートマーク。ホテル「精霊が忘れた緑の時間」・・・どう見てもラブホじゃねーか!巫女に何つーもの配らせるんだ・・・何つーバイトしてんだ?この人!
巫女「誰も受け取ってくれないし、終わらないんだよ~。」
そりゃそうだ。輝子は腹を抱えて、馬鹿笑いしている。どちらかって言うと見るからにお人好しだから騙されて、働いてるんだろうなぁ。あのオタク二人組がキレた原因はこれもありそうだな、何だか気の毒になってきたぞ。
輝子「お前、おもろいなぁ。袴もっと短い方がえんちゃう?」
おっさんか!巫女さんは真に受けたのか袴を捲ろうとしている。
輝子「貸してみ、手伝ったるわ。私ら暇やから。」
おいおい私は暇じゃないんだが・・・勝手に決めるな。巫女さんも申し訳なさそうに首を横に振ってるじゃないか。
輝子「チャチャッとやって終いやろ、なぁ房子。」
なぁ…ってなぁー。確かにこのままにしておくのは、可愛そうだ。見るからにあどけないし、お人好しそうでかつロリな巫女さんが、ラブホのティッシュ配るのは荷が重すぎるだろう。悪い大人に「絡んでください」って言ってるようなもんだ。まったく、この人の雇い主もいい趣味してるわ。・・・ったくしょうがねぇな。これも何かの縁だ。
巫女「そんな・・・私、お金をすぐには用意できないよ。」
カツアゲされると思ってるみたいだぞ・・・って輝子は人差し指を唇に当てて、また何か良からぬ案を企てているようだ。
輝子「お金じゃおもろないからなぁ~。」
面白がってるのはお前だけだ。
輝子「うけけ、思い付いたんやけど、ティッシュを配る数で競争ってのはどうや?ビリの人は優勝者の言う事を何でも一つ聞く権利とかええんちゃう?」
何でラブホのティッシュから王様ゲームにまで発展するんだ?そもそも巫女さんのバイトだぞ、勝手に決めるな。
輝子「仕事でも何でも目標を決めてやる意識が大事なんやねん。分かるか?ゲーム性を持たせるとかな。やりがいは自分の心がけ次第やで。」
巫女さんもどうやら気持ちが解れてきたのか、輝子の言葉に感化されたのか笑顔が戻っていた。良い事言ってるからあえて突っ込まないでおこう。
巫女「すごいね、ツインテールさんは何でも知ってるんだね。」
輝子「伊達にフリーターやってる訳じゃないで。」
巫女「えへへ~。いいよ。」
いいのか・・・別にコイツの呟く無茶苦茶な要求に首を縦に振る必要ないんだからな。
輝子「おっ、ノリいいやんけ、巫女ちゃん。」
ところで、王様ゲームの詳細部分、端折られてる気もするが…。
輝子「ただし、裏技禁止な。」
何だ?裏技って?ま、まさか民間人のチャリかごに空爆しようと思ってるんじゃないだろうなぁ?
輝子「最近はクレーム多くて難しいんやわ。」
まぁ、たしかに減った気はするが。何か巫女さんも私も、輝子に巧くハメられた気がする。

輝子「じゃあ早速分担するで。」
・・・そう言って輝子は小さい方の鞄を遠慮なしに開けた。
巫女「あっ!そっちは違うよ。」
輝子「何やこれ?」
輝子はネコのぬいぐるみを手に取っていた。よくある三毛猫のような毛色で、年期が入っていてとても綺麗とはいい難い。というか毛玉だらけである。
巫女「そらねこちゃん…この子を連れて来ないと怖くて街を歩けないんだ。」
輝子「お前いくつやねん?」
これは突っ込む方が正解なのだろうか?女の子らしさを道頓堀川にかなぐり捨てた私らが言うのもどうかと思うが。
巫女「二十一歳だよ。」
輝子はまた馬鹿笑いしている。かくして世にも珍しい合法ロリが二人揃った世紀の一瞬である。その瞬間、私はこの二人とはできる限り離れて配ろうと思った。親子でラブホのティッシュ配ってると疑われて、これ以上騒ぎになるのはゴメンだからだ。
巫女「二人ともありがとう、本当に助かるよ♪」
輝子「礼を言うのは勝負に勝ってからしてぇや。手加減せぇへんからな。よっしゃ!とっとと配って、帰るで!」


何が楽しくて独身女がラブホの宣伝にそこまで盛り上がれるのやら。やれやれ、文句を言っても始まらないか。こうなったら優勝して、イケメン神主を紹介して貰って、神社に嫁いで、アホ輝子を巫女に雇って、一から更生させてやらないとね!


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