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小説 呪いの王国と渾沌と暗闇の主

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オリジナル長編ダークファンタジー小説(完結済みにつき随時更新の予定)砦の王子と天使の魔法世界。全55話、約16万文字
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2024年5月の記事一覧

小説 呪いの王国と渾沌と暗闇の主【第二話 大公殿下アドーニス】

 黄昏は温かな色彩で大地を癒す。赤茶色の巨大な崖の上にそびえる砦の周りには、なだらかな丘と森林が所々あり、昔あった帝国が作っていった石道がまだ十分に機能し砦の都から沈黙の館主が隠遁する南方の谷のほうへ続いていた。  北には樹海を源にする大河が蛇行して崖の足元を横切って、緑の平野には放牧した牛と羊と野生馬たちがところどころに草を食べるのどかな風景が広がっていた。  大公殿下は、都の周囲をいっきに馬に走らせると、疲れた馬を休ませるために自分も一緒になって、一本の木がある丘だっ

小説 呪いの王国と渾沌と暗闇の主【第一話 赤い砦の王国】

 極寒の季節、ここ東ティリエナ地方では、全ての川や湖は凍てついて、地元の人が言う所の中規模程度の雪が降ったり止んだりを繰り返していた。『静寂なシャンティ』にあるブルーニ川も、例外なくその表面を乾いた風に沈黙し、周辺の生き物たちも全てが眠りに落ちているかのように、しんと静まり返り、たまに雪の塊が枝から落ちる音がばさりばさりと木霊するだけだった。 『静寂なシャンティ』とは、国の台地を寸断するように存在する闊葉樹の群れ及び周辺の緩やかで広大な一帯を指し示す。たまに遠方から旅人など

小説 呪いの王国と渾沌と暗闇の主【プロローグ 盗人ベノム】

 サンディコ寺院には、内戦終結から一年が経過した現在も政府の派遣した治安部隊約二十名が尚も居座り続けていた。  美しいステンドグラスから差し込む光の先にあるものは聖なる場所というよりは、むしろどす黒く荒れ果てた流刑所のような有様で、治安部隊によって囚われた幾人かの囚人らが手や足に鎖をつけ部屋の方々に転がっていた。  建物の中央には、ついしばらく前までは美しい理路整然とした正四角形の庭園があり聖なる花草が聖職者によって植えられ、季節ごとに清らかな香を漂わせていた。訪れる者は