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うつしおみ 第3話 老木の最期
夏の日差しに疲れた老木にとって、
初秋の風は生命を蘇らせてくれる魔法の水のようだった。
ただ、すでに何千回という夏を過ごしてきた老木は、
その壮麗な姿に隠された深い傷みを抱えていた。
もうそろそろ倒れてもいいかと思うが、
たくさんの小さな生き物たちが老木を住処にしていた。
夜の森の満ちる静けさの中、小さき者たちが眠りにつくのを見て、
老木はまだ倒れるわけにはいかない気持ちになった。
晩秋の気配が大地に舞い降りるころ、
大嵐が激しい風雨を引き連れて森を駆け抜けていった。
その嵐で老木はさらに深い傷を負い、
ついに耐えきれず大きく傾いてしまった。
小さな生き物たちはその時はじめて老木の傷みを知り、
知らずにいたことを申し訳なく思った。
生き物たちは惜しみながら老木に別れを告げ、
新しい住処となる木へと移っていった。
粉雪の舞う冬の夜に、老木は音もなく眠るように倒れた。
風が春のぬくもりを大地へと届けるころ、
老木は目覚めて、森に満ちる静けさとなった。
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