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ヤマトタケル往還⑥最終回(ミュージカル脚本)

  ミュージカル

    ヤマトタケル往還⑥最終回  白い鳥
       

       尾張の館、タケルとミヤズヒメ

タケル  タケイナタが、死んだ? なぜ?(立ち尽くす)
ミヤズ  (泣きながら)わかりません。ただ伝令の者がそのように…。
タケル  (呆然とした後、振り切るように)わかった。もう待つ必要もない。伊吹山の勢力を従えに行く。そして都へ。
ミヤズ  私も行きます!
タケル  だめだ。ここで待っているんだ。連れてはいけない。
ミヤズ  ではお願い。行かないで下さい。(泣く)
タケル  だめだ。泣くんじゃない。ちゃんと帰って来るから。
ミヤズ  私のところに?
タケル  そう、お前のところに。
ミヤズ  必ずですよ。
タケル  ああ。必ず。さあ、その剣を取ってくれ。
ミヤズ  (草薙剣を取り、捧げ持ち)タケル様をお護りくださいますように。

   ミヤズヒメ、剣をタケルに捧げて渡そうとする。その姿がオトタチバナが海に飛び込む前に剣を渡したときと重なる。
   オトタチバナの曲。

タケル  (剣を受け取らず向こうを向く)その剣はお前が預かっておいてくれ。
ミヤズ  でも、タケル様をお護りする大事な剣なのでは?
タケル  きっとお前を護ってくれるだろう。もう誰かを失うのは沢山だ。
ミヤズ  でも…。
タケル  私は大丈夫だ。もう戦いにも慣れた。それに(おどけて振り返り)私の強さは知っているだろう?
ミヤズ  それは、もちろんですけれど…。
タケル  出かける。(背を向けて奥へ去る)

   暗転

老婆   それが、タケル様のお姿を見た最後でございました。タケル様ご一行が伊吹山に登っていかれた時、猟師が止めたそうでございます。この天気、そんな備えでは危ないと。けれど、ご一行は笑って、もっと寒い地にも行ったからと、そのまま行かれたとか。私が、もっと気をつけてご用意すれば…。剣だって、無理にでもお持ちいただいていれば…。悔やみは尽きませぬ。ああ、タケル様。あなたは戻って来られなかった! いえ、戻って来られた? 白い鳥、あれは…?

   スポットライトの中に、タケルが倒れている。

オオウスの声 オウス、いや、タケルよ。

   タケル、起き上がる。

タケル  兄君? (あたりを見まわす。)
ここは? 私はいったい…?
オオウス お前は死んだのだ。
タケル  死んだ?
オオウス そうだ。
タケル  兄君、私は…、私は都に戻らねばなりません。兄君は私に言われました。後を頼む、と。

   音楽「故郷へ」

オオウス そうだ。だが、その前に、お前は世界の何を見た?
タケル  世界の? 私は旅に出ました。西にも、東にも。海にも、山にも。
オオウス そこでお前は何を見た?
タケル  何を? 
オオウス 空が、海が、山が、刻々とその姿を変えていくのを見たか? 風が、光が、水が、そして命が、世界を彩り、揺さぶるのを?
タケル  兄君…?
オオウス 雨のしずくが、大地を、草木を潤し、川となって流れるのを見たか? 生き物たちが産まれ、生き、死んでいくのを見たか? 人々の暮らしを、様々な営みを見たか?
タケル  私は…。
オオウス お前はまだ、何も見ていない。見るべきものを…。見るのだ、その目で。感じるのだ、その体で。
タケル  私は…、どうしたら…。
オオウス お前に、新しい姿を与えよう。お前はその姿で、全てを見、感じるのだ。
タケル  新しい、姿…?
オオウス そして、還るがいい。故郷へ…。そこでお前の得たものを還すのだ。また、新しく始まる営みのために。
タケル  故郷…。私の、故郷…。
オオウス そうだ。会いたい人に会うがいい。
タケル  会える、でしょうか…?
オオウス それはわからぬ。世界は常に移りゆく。だが、想いがあれば、いつか、どこかで巡り合うだろう。
タケル  いつか…、どこかで…。
オオウス そうだ。さあ、行け。

オオウス   旅立ちの歌(リプライズ)

    ♪どこまで続く
     果てしなく世界はある
     流れる時に
     現在(いま)があり 未来がある

     
    
   タケルに当たっていた照明が落ち、音楽(コーラス)が流れる。

   白い鳥(白鷺)の衣装を着けたダンサーが大勢、入り乱れて踊り、サイが踊りながらあちこち見てまわる。
   バックにスライドで様々な映像が流れる。
       
   風雨に打たれる山の木々、葉の先から滴り落ちる水のしずく、枯葉の間から芽を出すドングリ、山の中のせせらぎ、紅葉が水に舞落ちる風景、葦・草茂る川辺と川面に閃く魚影、干潟(カニやヤドカリやムツゴロウ、野鳥)、海の魚の群れ、クジラのジャンプ、川を遡るサケの群れ、卵を産み力尽きたサケ、サケを食べる熊、鳥の渡り、タンチョウの求愛ダンス、雛と親鳥、森の鳥の遺骸、サバンナの動物たち(草木を食む草食動物、草食動物を捕まえて食べる肉食動物)、オス同士の戦い、仔を育てるチータの母、極寒の地でブリザードの中身を寄せ合い卵を護るペンギン、(花畑の中)小熊を連れて途方に暮れるシロクマ、人々の暮らし、戦争、災害、都市文明、飢餓、涙、田畑を耕す人々、収穫の笑顔、油田・風力発電の風景、宇宙活動(月面着陸、宇宙船内、宇宙から見た地球の夜明け)、ミクロの生き物(多重のボルボックス、粘菌の集合)、恒星の近影、…。

   最初ゆっくり、だんだんテンポを上げて切り替わる。
   最後に、ドーンという低い響きとともに超新星爆発の映像の後、飛び散る星屑と共に移動し、銀河系の中へ。
   白い鳥の衣装を着けたダンサー、サイ、別れて去る。
   いったん、音楽も静かに止まる。

   暗い宇宙に青い地球が浮かんでいる。   
     
   後ろ向きに、白い鳥の衣装を着けた男性ダンサーが一人立っている。ゆっくりと翼を広げ、羽ばたく。
   再び、音楽がゆっくり静かに始まり、羽ばたきが強くなるとともに、盛り上がり、雄大な「旅立ちの歌」「故郷へ」。
   男性の体が浮かび上がる。
   照明、フェードアウト。
        
 
   フィナーレ

軽快な「旅立ちの歌」などと共に出演者あいさつ。
最後に、「タケル」が中央奥に迎えに行き、「老婆」をエスコート。
他の出演者がコーラスで歌う。

  歌 杜の伝説(ミヤズヒメのテーマ)

   ♪(男声)深い森のその奥
    (女声)木漏れ日のその陰に
        ただ待ち続けている
        思い出を胸に抱き

    (男声)その人の面影は
    (女声)遙かな時を越えて
        今も美しく舞う
        静かな夢に

    (混声)大切なあの人の
        形見を護り続けて

    (男声)その身は朽ち果てても
    (女声)梢を渡る風が
    (混声)ささやき続けている
        あなたを待つと

       
       全員あいさつ  
                     幕