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ヤマトタケル往還③(ミュージカル脚本)

ミュージカル
    ヤマトタケル往還③  ヤマトタケル誕生
 


   下手に老婆。スポットライトで

老婆   タケル様は、罪を問われて遠くの国の討伐を命ぜられたのでございます。いえタケル様に罪はございません。きっとタケル様を陥れようとする勢力の陰謀でしょう。タケル様は軍勢というほどのものも持たぬまま、遠くクマソの国へ。


  第四場 クマソタケルの館

   クマソの国 宴会。力強い踊り。
   陰から伺うタケルとタケイナタ、サイ。   

タケル  何と楽しそうな。
タケイナタ のんきなことを言うな。これから攻め込もうという時に。
タケル  こんなに楽しそうなのに…、他に方法はないものか。そうだ、話をしてみよう。できれば人を傷つけずに済ませたい。
タケイナタ 何を言っている。ヤマトに対するクマソの恨みは深い。はい、そうですか、と行くものか。あっという間に殺されてしまうぞ。
タケル  では、せめて、あまり殺さずに済むように…。
タケイナタ まあ、大勢を相手にするのは、どのみち不利だからな。あの奥の高い所にいるのがクマソの主、クマソタケルらしい。
タケル  クマソ、タケル…。
タケイナタ こちらはなにしろわずかな数。クマソタケル一人を狙うしか方法はない。
タケル  わかった。私が行こう。
タケイナタ いくらオウスが強くても、クマソタケルも世に聞こえたツワモノ。まずはどうやって近づくか…。

      サイが物陰にあった舞姫の衣をまとい、クマソタケルの前に踊りながら現れる。

タケイナタ おい、サイが…。
タケル  よし、皆がサイに気を取られている。今だ!

      タケルも衣装をまとって踊るようにクマソタケルに近づく。
      クマソタケル、気配に気づき、タケルとにらみ合う。周りの人間も気づくが、クマソタケルが制する。
      踊るように戦うタケルとクマソタケル。

クマソタケル 強いな。お前は何者だ?
タケル  私はヤマトの皇子、オウスだ!
クマソタケル 何、ヤマト? ヤマトの軍勢を率いてきたのか?(外をうかがう)
タケル  いや、我々だけだ。
クマソタケル お前たちだけ? お前たちだけでのり込んできたと?
タケル  そうだ!

   またひとしきり切り結ぶ。

クマソタケル それで俺に勝ったとして、無事に帰れると思うのか?
タケル  私は帰る! 使命を果たして!

       またひとしきり切り結ぶ。睨みあう二人。

クマソタケル (ふと哀しげな表情をして)お前もまた、俺たちと同じ、故郷を追われた者なのだな?
タケル  何! 問答無用!(切りかかる)

      二人またひとしきり切り結ぶが、クマソタケルが隙を作り、タケルの剣を受ける。

タケル  なぜだ。命まで取る必要はなかったのに。
クマソタケル お前は強い。この歳になってこれほど血が沸き立つ思いができようとは。それにどうやらお前の心は欲に縛られてはいないようだ。命をかけて戦えばわかる。お前こそ、わが想いを受け継ぐ器と見た。
タケル  タケル…。
クマソタケル そうだ、俺は勇者タケル。これからはお前がタケルと名乗れ。その名と共に帰るが良い。そうすれば、我らはお前と共にあろう。お前なら、この国の者をむやみに痛めつけはすまい?
タケル  ああ、できることなら。
クマソタケル 皆も聞け! 俺は、この男に後を託し、タケルの名を授けた。俺の仇などとは考えるな。行く末を考え、生き抜くのだ。良いな。(息絶える)

   タケルたちのみにスポットライト

タケル  殺してしまった…。立派な人だったのに。
タケイナタ タケル、か。良い名ではないか。ヤマトのタケルだから、ヤマトタケル。よし、これからはお前をヤマトタケルと呼ぼう。
タケル  ヤマト、タケル…。
タケイナタ そうだ。クマソを従えたヤマトタケル。これで堂々と都に帰れるぞ!

タケル、タケイナタの歌「故郷へ」

    ♪帰ろう 故郷へ
     帰ろう 故郷へ
     懐かしい かの地へ
     思い出あふれる場所へ

     帰ろう 故郷へ
     帰ろう 故郷へ
     今こそ 笑顔で
     確かな誇りを胸に

     変わったかな?
     覚えてるか、今も?
     
     ああ 故郷よ
     ああ 遠い日よ
     ああ 帰る 今
     ああ 遠くとも


サイが嬉しそうに二人の周りを踊る。照明、フェードアウト。

幕前上手側。何人かの男女にスポットライト。
          
民衆の歌
    ♪聞いたか? 噂を
     ヤマトタケルの話を
     クマソ倒した 英雄の
     見たか 凛々しいその姿
     迎えよう みんなで
     英雄を

      男女のスポットライト消え、下手側、高官たちにスポットライト。

高官たちの歌
    ♪聞いたか? 噂を
    ヤマトタケルの話を
    クマソ倒して 無事戻る
    まずい、まずいぞ このままじゃ
    手をうて 早く
    策略を
       
   暗転 
 

老婆   この後タケル様はヤマトタケルノミコトと名乗るようになりました。見事クマソを治めての凱旋、でも故郷で待っていたのは歓迎ではなく、次の討伐の旅でした。

                                                       <つづく>

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