いかないで


 星が綺麗な夜、君に大事な話があると呼ばれ浮かれていた私は、いつもよりお洒落をしていつもの喫茶店に向かった。でも席についた私は浮かれていることに恥じらいを持った。君の表情を悟った。決して良い話ではない。むしろ真逆だと…
 昨日はあれほど楽しくて笑顔だったのに…君が口を動かそうとした瞬間私はまだこの時を辛くても二人の時間をこのままでいたい。そう思った私は先に口を開いた。「昨日はありがとう。楽しかった、次はどこ行こっか」
 少し沈黙が続いたあと君は息をはいた。
「ごめん…もう…別れよう…」
 私は涙をおさえるのに必死で無言でいることしかできなかった。
「じゃあ…」
 君は店を出ていった。私は長い間そこに居座っていたようで終電を逃してしまった。私は改札前で雨に打たれていた。浮かれたワンピースがまぶしい。雨と一緒に今日の出来事を流してしまいたい。

「いかないで」
 このたった一言が口から出なかった。私の中にはまだ残っている。君の優しい声、私を落ち着かせる魔法みたいな歌、少し苦手な煙草の臭い、少し強引なキスの仕方だって、体に染み付いたように残っている。どこもかしこも君のことでいっぱい。いかないで、いかないで、いかないで、私は何回も願った。でも忙しい朝がつれていってしまう。君と過ごした楽しい時間をずっと感じていたい。私はまだ昨日を生きていたい。