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舞台・もしも命が描けたら~タナカー的感想~

今回、配信があったので、再度見直してからのものも含めた感想です。本公演は無事、大千穐楽を迎えたし、そろそろ配信も終わりそうなので、ネタバレ全開で参ります。
そのつもりでお付き合いください。

最初に入場してまず驚いたのは、舞台装置のシンプルさ。

私もいくつか舞台は観てきたけれど、中ホールレベルの規模なのにこんなにシンプルなのは初めてかもししれない。
岩だけが置かれている舞台の上方には、丸いものがかかっていて、神秘的なBGMが流れている。

ああ、ここは月の世界なんだな、ってすぐに分かった。
そして装置がシンプルな分、これからいったいどうやってこの舞台を彩っていくんだろう?って期待が止まらなくなったし、一気に不思議な空間に包まれ、世界観に引き込まれたのがとても心地よくて、嬉しかった。

開演時間になると暗転し、三日月だけが光る舞台にテーマ曲がかかる。
ピアノのイントロと、哀愁を帯びた、どこか懐かしいメロディ。まだ本編を観ていないのに、この曲を聞くだけでなんだかぐっときてしまう。

これを一番最初に流すのは、きっとあらすじ紹介の意味もあるのだろうな…
ということに気づいたのは、パンフレットで歌詞をみてから。
でも当初はとにかく、どうやって始まるんだろう?どんな内容なんだろう?って思う気持ちが先で、最初は歌詞の内容を把握しているどころではなくて。
ひたすらメロディに身を任せて、お芝居そのものが始まるのを今か今かと待ちわびていた。

そしてついに、寝転んでいる座長がスポットライトに照らしだされる。
がばっと起き上がり「死んでない。助かってる。」って言ったのを聞いた瞬間、いろんな思いがこみ上げてきた。

そう。座長はほぼ開幕直前といっていい時期に、見事に病床から復活して、この舞台にこうして立ってくれている。
私が観たのは東京公演でももう終盤だったから、彼が元気で舞台に立ってるのは分かり切ってることだったけど。
もう元気な姿が見られた事がただただ嬉しくて、運命の神様の感謝にしつづけながら、落ち着いた気持ちで彼の言葉を聞いていた…と思う。

前回、初めて彼の演劇を見に来た時とはちょっと違う感想に、自分でもファンになってそれなりの月日がたったんだなって事を感じて、嬉しいような、ちょっと寂しいような気持ちになったけど、でもそれはやっぱり、幸せなことだ。

最初はほぼ、彼の独走状態。長いセリフを飽きさせることなく、全身で表現して聴かせる座長。
でもそれは、横で静かに見つめる三日月がいてくれるからこそ。黒羽麻璃央くんの受ける芝居があってこそだ。

ひたすら喋り続ける座長を、ただ黙ってまるで話を促すかのようにさまざまな表情で見つめ、リアクションしている三日月。
その瞳は時に、少年のように好奇心に満ち溢れ、時に父親のように慈愛に満ちている。
ああこの俳優さんも、素晴らしいなぁと思う。

人の気持ちの重さを振り子で表す表現に感動し、癖のある先生の誇張ぶりにくすっと笑い、そして、あのセリフ。

「夢を諦めるのも才能だから。」

「夢を諦める」のあたりまで聞いた時、心臓が飛び出るかと思った。
もしかして!?と思った。
これは私が心から愛する人物の一人、舞台「芸人交換日記」で圭くん扮した「甲本」が言っていたセリフ。
まさか今回この舞台で聞けるとは、夢にも思わなかったなぁ…。
鈴木おさむさんの気遣いに、胸がしめつけられる。

悔しいけどおさむさんには、本当に分かってるんだなぁ。
私たちが観たかった、聴きたかったものが。

小島聖さん演じる星子さんは、なんだかとても可愛い。ちょっと強引だけど、月人の心の扉を開けるのは、きっとこういう女性だ。
明るい彼女と対峙すると突然、月人の(そしてたぶん、田中圭くん自身も持ってる)人見知りな部分が出てきてしまい、普段はスマートに見える彼のその不器用さが、とても愛おしくなる。

そんな星子さんとの距離を少しずつ縮めてゆく月人。
心情の変化を繊細に表現するのは、俳優・田中圭の得意とするところだと知っているけど、こうやって直接一連の流れの中でその様子を見ると、やはり素晴らしい力を持っているんだなあとほれぼれしまう。

何気なく書かれているようで、細かく計算されている脚本もいい。
例えば居酒屋シーン、センターでは向かい合って座っていた二人が、舞台上手に移動してからは隣り合わせになり、口調も丁寧語からタメ口に変わっている。
呼び方さえ、途中から「星子さん」に変わってしまってる、ということは配信見てはじめて気づいたことだけど。

その星子さんが書いてくれた「月人さんの説明書」を、自分で読むことになってしまう月人。ここではロマンチック系俳優・田中圭くんが本領を発揮してるなあ…と観るたびに感じる。ここのシーンでの星子さんとの雰囲気が本当に切なくて、とても美しいものになっているから。
抱きしめたりキスしたりはしなくても、これはもうラブシーンといっていい。

ノートに書かれた内容から伝わってくる、星子の月人への愛情は、深くてとても暖かい。
でも、そんな星子はもういない。
だからこそ、彼は絶望し、死を決意するのだ。
残酷だれど、それがとてもよく伝わってくるシーンだ。

しかし自分の命を絶てなかったことに気づき、さらに深い失意に飲み込まれる月人。でもいままで一方的に語り掛けるだけだった三日月と、初めて会話ができるようになる。

ここも細かくて、1回目の時は三日月の声に神秘的なエコーみたいなのがかかっていたけれど、2回目はそれはなくなってる。
そのおかげで、2回目の三日月は、1回目よりも少しだけ親近感が持てる存在に変化している。

その三日月にスケッチブックを渡され、自分が命を描けるようになったと知って森をさまよい歩く月人の背後に流れるテーマ曲。
半信半疑だった気持ちがだんだん確信に変わっていき、やがてそれが希望にもつながっていく様子は、曲の盛り上がりとリンクしていって本当に何度見ても胸をしめつけられる。

今回、比較的前方に近い席が多かったこともあり、月人が近づいてくる度に、涙がでそうになって困ってしまった。多分このシーンでは、何かを探し続ける月人と田中圭くんが、自分のなかで完全に重なってしまっているのだと思う。

そして、一幕の終了を告げる二人のジャンプ。
「さよ・なら」の直後に飛び込むタイミングが絶妙すぎて、大好きすぎて。暗転後の暗闇の中でずっと「最高だ…」って思いをかみしめていた。


第二幕からは、三日月がストーリーテラーになる。
ここから少しずつ、月人と三日月が入れ替わっていくのだけど、その事に気づくのはずっと後になってから。

観客の前をさまよい歩く座長は、つなぎの上部分を脱いで白いTシャツになっただけの衣装。
でもそれは、月人の大きな変化を伝えている。
下を向かなくなった月人。人から見たら間違ってる生き方なのかもしれないけどそれが、今の彼を支える唯一の希望。
そう思うとただただ切なくて、その横顔をいつまでも眺めていたくなる。

水族館での虹子さんは、口調から、気が強くて肝っ玉が据わった気のいい飲み屋のママさんだというのが、すぐわかる。
虹子さんと月人は、とにかく会話のテンボが小気味いい。
きっと気が合う二人なんだろうな、ということが伝わってくる。
個人的には、こういうテンポで会話ができる人と一生一緒にいられたら、どんなに楽しくて幸せだろうかと思う。

将棋くずしをしている最中、何かを悟った虹子から、辛い中でも生きていく方法を教わる月人。この時の、探るような眼で彼女の意図を探ろうとし、その真意に気づいた時の月人の表情がいい。

虹子から生きる方法を教わり、死への覚悟が揺らぎ始めた月人はその後、事件が起きたのは自分のせいだと責め続ける虹子を優しく受け止める。
彼女を諭すように抱きしめた後は、ただひたすらそばにいるのだ。
黙って涙をぬぐってくれる人なんて…それはもう愛情のかたまりでしかない。虹子がなんだかうらやましくなってしまう。

配信で見ると、その後の三日月の声を聴く限り、麻璃央くんもそのシーンで泣いてたように感じるし、千穐楽では、そのあと陽介が出てくるまでの長い間、聖さんの涙は止まることがなかった。
それはきっと、圭くんのお芝居の力が大いに働いているのだと思う。
それだけ彼の月人には、包み込むような優しさと切なさがあふれていた。

そして、お待ちかね?の陽介登場後の「虹子ちゃんが笑顔になる」クイズコーナー。
配信は初期の頃のものだからか、自分でも笑ってしまっていた麻璃央くんだけど、大千穐楽では「全回通して、答えは3でしたね…」と答える座長に、冷静に「全回って?」ってとぼけたり、「付き合ってるレーダー」もすごくまじめにやってて、最高に楽しかった。

クイズも回を重ねるごとにどんどんパワーアップしていって、大千穐楽は座長まで出題者に巻き込んでくれて、ついには座長にシャチホコをやるように促してくれた麻璃央くん、ホントにグッジョブ!!
たぶんこうやって促してくれないと、照れ屋の座長はなかなかファンサービスするタイミングがつかめなかったんじゃないかなと思う。

(もっとも彼がファンサービスしたかったかどうかは分かりませんが。
でもサービス精神旺盛な座長は、何かはやりたいとは思ってたんじゃないかな?とも思うので)

しかしこんなに別次元で盛り上がって、果たしてあのシリアスな状況に戻れるのだろうか…?って心配してたけど、そこはさすが。
虹子の「彼氏よ!!」の一言で、キャストも観客も一気に元の世界にひきもどされてしまう。
役者さんたちはプロだからまだわかるけど、引きずらない観客もすごくない?ってなんか不思議な感動を覚えてしまった。

陽介コンサートも一見、単にイケメン同士をイチャイチャさせたいだけでは?って思われそうだけど、ここで月人自身がちゃんと陽介を好きになるから、最後のシーンにもより説得力が持たせらせるんだよね。
そういう細かい部分にも意味をきっちり持たせながら描いていくホンは、やっぱり素晴らしい。

そして、月人にすべてを告白し終えた陽介が、最後に空に向かって本音を話すシーン。
陽介が「君は」といったこの時点で、もはや「三日月」役が麻璃央くんからバトンタッチされているということがわかる。

このときの座長は、舞台上手側後方でスケッチブックを持ち、客席に背を向け立っている。
配信ではただ立っているだけのように見えるけど、私が観に行ったときはしきりに手で涙を拭ってるような仕草をしていて、その後ろ姿が本当に少年のように見えてきてしまい、なんだか思い切り抱きしめてあげたい衝動に駆られてしまった。

そして、最後の長台詞シーン。清々しい笑顔と口調で語り始める月人は、すべてを吹っ切り、死を覚悟する。
いつも思うけど、死を覚悟した時の田中圭くんの演技は、本当に素晴らしい。彼の想像力が豊かで、そして死というものを深く見つめている人なのだということがよくわかる。
だからなのか、舞台上で彼を見るとなぜか、死なないで。消えないで。と無性に願ってしまう。
「死んじゃだめだ。死なせねぇよ」
これは私たちファンが、田中圭という俳優さんに発作的に掛けたくなってしまう言葉だ。あの生命力豊かな座長に限ってそんなことないのに。って思いつつも、なんだか時々、無性にそんな気持ちが止められなくなる。
その想いと相まって、このシーンの月人の叫びは、まるで自分の心の叫びのように感じられてしまい、思わず涙が出てしまうのだ。

スケッチブックに陽介の命を描き終えた後の月人は、ゆらゆらと心もとなげに歩く。その姿は、まるで子供のようでもあり、この世のものではないようでもあり。
とても心もとなげに、はかなげに見えるのに、なぜかこの状況を楽しんでいるようにも見えるのだ。本当に不思議なお芝居をする俳優さんだなぁ。

そしてラストのセリフ
「きっと、面白い人生がはじまるよ。」
この時の悪戯っぽく輝いてる瞳と口調。
辛く切ないストーリーが、この口調で一気に、希望を感じさせるものに変わる。
自分の人生を面白いと言えるようになった月人の成長を感じるし、彼をずっと照らして幸せにしてあげて欲しいと心から願う。
この三日月なら、きっとできるって信じられる。

後ろ姿でジャンプし消えていく姿を見ると、もう次の暗転した瞬間から拍手したい衝動にかられてしまって、毎回かろうじてこらえていた。

ああ、ホントにすごいものを見た。
芸人交換日記をリアルタイムで見られなかったことをずっと残念に思ってたけど、でもだからこそつながったこの舞台を観られて、本当にすごい体験ができたなぁと思った。
いつか観られると信じて待ってて良かった、と思った。

やっぱり、舞台俳優・田中圭は最高だ。
彼はずっと、私の人生の座長。
ファンじゃなきゃわからない舞台なんて邪道なのかもしれないけど、伝わるべき人たちに確実にちゃんと届けられる舞台というのも、絶対に必要だと思う。

カーテンコールは回数こそ少なかったけど、形だけのものではなくて、心が伝わってくるもので。
特に、千穐楽のゆっくりと客席ひとつひとつをなぞるようにゆっくりと手を挙げていくあいさつの指先から、座長の想いがこぼれてくる気がして、感謝と称賛の心を精一杯込めながら手が折れそうなくらい拍手を送った。

私たちの想い、少しでも伝わったかな。
伝わってるといいな。

鈴木おさむさんを始めとするスタッフのみなさん。
この舞台を企画・制作してくださって、本当にありがとうございました。
無駄のない脚本と演出とセット。1時間50分という、演劇としては短い時間だったけれど、とても見ごたえある濃密な時間が過ごせました。

小島聖さんと黒羽麻璃央くん。どちらも舞台では初めて拝見したけれど、星子も虹子も、三日月も陽介も、私の想像をはるかに超える、とても魅力的な人物でした。みんなの事を大好きになっちゃいました。
座長がいろいろご心配をおかけしたと思いますが、その分、おそらく全力で取り返しにいったと思うので、それでチャラにしてあげてください。

そして、田中圭くん。
どうしてこんなにハラハラさせられる俳優さんを応援してしまうのか…っていつも思うけれど、でもあなたが舞台に立った時の安心感と確かさは、他の俳優さんでは取って代われないものだと思います。
シンプルなセットで、このキャパで、3人、ということに不安を抱いていたのは座談会で初めて知ったけれど、舞台を縦横無尽に動き回り、語り続け、そうと感じさせない演技は本当に素晴らしかったし、シンプルな舞台と衣装だからこそ、あなたの演技力が素晴らしく映えたんだろうなと思っています。
そしてそんなあなただからこそ、おさむさんも安心して座長を任せられたのだと思います。

次は…いつ会えるのかな。
でもこんな状況でも、ちゃんと舞台をやってくれるこだわりを信じて、改めてずっとついていこうと心に決めました。

最後に、この緊急事態宣言下で、都会に観劇しに行くことを許してくれた家族。
相当不安だったと思うけど、
「母は圭の事になると止めても無駄だと思うから、気を付けていってきてね」って送り出してくれて、すごく嬉しかった。
ありがとうね。

いつも以上にたくさんの人に支えられて観に行くことができたこの舞台は、私の大切な想い出の一つになったし、一生忘れられないだろうと思います。

長文、読んでいただいてありがとうございました。

<余談>
実は今回、この話だから涙腺まずいかな…と思っていたんだけれど、劇場では観劇中ほぼ泣いてなかった。
(ストーリーの謎が3回めで解けたときは、兵庫県立芸術文化センターのロビーで泣いてたけども…←怪しすぎる)

でも、自宅で配信を見たときは、もう最初から涙腺崩壊。
ああやっぱり、この状況下での観劇に私すごく緊張してたんだな…って分かった。
劇場での感染そのものに対してだけではなく、途中の交通機関も本当に緊張してて、食事もまともにとれず。家を出てから戻るまでは常に緊張感との戦いだった。

でも第5波真っ最中ではあったけど、はっきり言って座長のためなら命を削ってもいいと思ったから、夢中で追いかけたんだよね。
とにかく、幕が上がって良かった。
最後まで無事に走り抜けられて、本当によかった。
なんだか、勝手に背負ってきた肩の荷が降りた気がします…。

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