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まちやのこ執筆作品

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#小説

まちアソート②健気なモノたちの町(町は廻る)



 「かみさま」はうんざりしていた。塔の外を飛び回る空飛ぶバイクの列はもちろんのことだけれど、地上に鳴り響く銃声の喧噪がいっそうその人の気を滅入らせた。知らない間に塔よりも上背のある超高層ビルがつくしのように立ち並んでいて塔の日照権は侵害され続けている。
 いつもみたいに窓の縁に腰掛けることはせず、塔の中に三角座りをしておそるおそる下の様子をうかがっていて、そんな日がもう三日は続いている。死ぬ可

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まちアソート①ずっと夜の町(町は廻る)

 その日の町は、いつまでも太陽がのぼらない、朝が来ない町だった。気がつけば辺りが真っ暗になる。しばらくすると町が橙色に染まってそうしてまた真っ暗になる。繰り返しばかりの町。眼下に広がる町の景色も代わり映えしない。お家の明かりがついては消えて、また点いて、消えるの繰り返し。漂ってくるのも夕食の香りばかりで、塔でそれを見つめる「かみさま」は毎晩あちらこちらの家から漂ってくるカレーの匂いに飽き飽きしてい

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町は廻る①

 「かみさま」。どこかで声がする。

 周りを海に囲まれた島のちょうど真ん中。そこには街一帯を見下ろせるくらい高い高い塔がある。ある程度発展した街には少しだけ不釣り合いだと言うこと以外にはなんの変哲もない石造りの塔のてっぺん、そこが「それ」の特等席だった。
 「それ」は確かになんらかの生き物だった。にんげんのような頭があって、二本の足で歩いてなんらかの言葉も話す。しかし、「それがいったい何者である

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