パラシュート生地のカッパ

小学生の頃、夏休みに一つ下の従妹が実家に泊まりに来た。

父の弟の娘で、夏休みの間一人で東京から九州に来て泊まるちょっとした冒険だった。

祖母は普段離れて暮らす孫を可愛がっていた。
従妹もまた、祖母を大好き会いたいとよく言った。

毎年夏休みの思い出は母の実家への帰省だけ。
子供の為になにか、そんな夏休みとは無縁だった。
だから私にとって従妹が泊まりに来る夏休みは格別に楽しみだった。

田舎の環境で虫捕りをしたり川遊びをしたり。
父も母も普段には無い接待ぶりでどこそこへと連れて行ってくれる。

従妹はとても楽しそうで、私も楽しかった。

そんな夏休みのお盆に別の親戚が子供を連れて挨拶に来た。
私は以前に面識がある、従妹にとっては初めて会う、少しだけ年上の女の子。

挨拶に行こうとする私に従妹が言う。

「無視しよう。仲良くする必要なんかないよね。いい?約束ね!」

私を尻目に、客人として至れり尽くせりだった従妹は意のままだ。

そうして斜に構えたものの結局子供同士。
そのうち仲良くなり、自分の言った事など無かったかのように率先して遊びの中心となっていた。

私の頭に浮かぶ。
『言った事とやっている事が違う』

それは私には許されないことだった。

言動に矛盾があればとこまでも詰められ責められた。
私には一度口にしたことは途中で曲げるわけにはいかなかった。

曲げずに我慢する辛さの方が、両親から攻撃される辛さよりマシだったから。

・・・どうして。

どうしてこんなに勝手ができるのだろう。
私は許されないのに、どうして従妹は許されるのだろう。

引っ掛かる疑問を呑み込み楽しいふりをした。

東京へ帰る日が近づくと祖母が従妹と私をデパートに連れて行ってくれた。
お揃いで何か買ってくれるという祖母に従妹は大はしゃぎだった。

おもちゃ売り場へ行くとカッパがいた。
小学生の子供と同じくらいの大きなカッパのぬいぐるみ。

従妹が飛びつきこれがいいと言う。

とても高額だった。
祖母は少し困っていた。

店員さんがきてニコニコと説明をする。
「これはパラシュート生地でできているんですよ。」

カッパは大きくて可愛くてふわふわで、私も欲しくなった。

1体3万円。
祖母は躊躇している。

『これ以上言ったら嫌がられる』

そう思った時、従妹がカッパの横で駄々をこねた。
「これがいい!これがいーの!絶対これー!」

冷や汗が出た。
次の展開が怖かった。

恐る恐る祖母を見ると、困った顔をしていた祖母の顔がほころんでいる。

それを見た従妹が続ける。
「ねー『私』ちゃんも一緒に!これがいいよねー!」

従妹に後押しされ、私はドキドキしながらこれがいいと言ってみた。

「もう、仕方ないねぇ。」
祖母は困ったように笑いながらカッパを2体買ってくれた。

そして従妹は東京へ帰って行った。

祖母はあの夏休みでなくともおねだりする私に顔をほころばせてくれたのだろうか。

あんな祖母の顔をもっと見たかったな。

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