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第9話 熱のあと

「ホンマにすいません。宜しくお願いします。」

会社に電話してまた、ベッドに倒れ込んだ。
病院にやっとかっとで行き、ただの疲れからもくる風邪でしょうと、言われて薬も貰ってきた。
その帰りになんとか、コンビニぐらいは寄って適当に食べれそうな物や飲み物を買って帰宅した所やった。

「うー…しんど…」
とにかく、水分取って薬飲んで寝ないと…。
なんか、夢の中なのか現実なんか分からんけどLINEの音が鳴り響いていた…。

それから暫くして、パッと目が覚めた。
朝なのか、夕方なのか分からない。横になったまま天井を見つめ意識がハッキリするまで目だけをキョロキョロさせていた。
テレビをつけてみると、夕方のニュースが流れ始めやっとその時に時間の経過を認識できた。
スマホを開いてみると、LINEの件数が何件か入っていた。
「あー、ケイさんや」

『秋ちゃん、熱出たんだってね😭何か欲しいものあったら言ってね♡』

「ケイさん、ありがとうございます。今は少し落ち着きました。と。」

他にも先輩からもLINEが入っていた。

「安田くんからもきてる。聞いたんかぁ。優しいなぁ。」
一通り返信し終わり、着替えを済ませ、何か食べて薬飲まななぁ、と思っているとまたLINEが入った。

「誰やろう…」

『大丈夫ですか?熱は下がりましたか?』

それは石井くんからのメッセージやった。淡々とした文面でメールの文章からも落ち着きが見えてくる。
その一文を読んでいると、昨日の記憶が少しずつ蘇ってきた…。あれれ、私何言うた??
頭の中に自分の言ってしまったこと、石井くんのあの困った顔を思い出してくるとまた熱くなってきて、熱が上がってきた…。

「あーどないしよう…既読ついてしまった。スルーしたって思われたないからなんか送らなっ」

『熱、また上がりました』

これだけ送ってスマホを閉じた。
なんかこの時の私もまだ頭おかしかったんやろうなぁ。まるで石井くんのせいみたいになってしまった、と気づいた時は遅くて一言

『ごめんな』
と、だけメッセージが後に入っていた。

数日して、熱もすっかり下がりいつもの様に出勤した。久しぶり劇場の匂いにホッとした。

「あきちゃんっ、もういいなったんかぁ?」
「安田くん!ありがとうございました!もうお陰ですっかりと!」
と、話しながら後ろに目をやると石井くんと目が合った。
「ご、ご心配をお掛けしました。おっ、お陰様で元気になりました。」
安田くんとは自然に話せるのに、石井くんと話すとなるとやっぱりまだ動悸がする、また熱上がってきたんかなぁ…。

「良かったなぁ。」

とだけ、言って楽屋に向かっていった。

「なんか、石井くんどないしたんやろ?この頃、変なんよ」
「そ、そうなん?」

それは、多分、私のせい…。
なんて、安田くんに言えない。
気まづい空気をかき消す様に安田くんとの会話も程々にして仕事に戻った。

その日の仕事を終え、荷物を取りに更衣室に向かって自分のロッカーを開けると、頭にコトっと何か落ちてきた。

「あっ、石井さんへの誕プレ」

私はいつ渡せるかも分からない石井くんへの誕プレをロッカーに入れていた事を落ちてきた物を見て思い出した。

「どないしよう…日過ぎたしなぁ。」

誕生日前日に私が爆発して、当日に熱を出していたからそれ所ではなかった。
自分のせいで、また気まづくなってしまった関係を修復する術もないし、そんな中でいまさら誕プレなんて渡せないし…。誕プレの入った紙袋を見つめていると、スマホが鳴った。電話や。

「もしもし、石井やけど…」

画面に石井さんと、出てたから分かってます。
だって、出るかどうか一瞬迷いましたから…はい…。きっと、私の今の顔は無表情の固い顔したモアイ像の様やろうなぁ。

「はい…どうしたんですか…?」

と、冷静を装って話してみたけど、声は若干震えているのが自分でも分かった。

「今から、会えへん?」

突然の事に、また熱が上がりそうなほど熱くなった。

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