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第25話 これからがはじまり

「カーテンはこれでよしっと…」
天気も良く風も暖かくなってきて、もう夏も始まりそうな日差しが部屋いっぱいに注いでいる。
とりあえずの荷物運びも終わり、身の回りの大きな物から片付けたり設置したりと少しずつ終わらせていた。
「うわっ、もうこんな時間!買い物だけ行ってこようっ」
慌てて鞄と真新しい鍵を握りしめ部屋を出た。

数ヶ月前、石井くんに

「一緒に住もう」

と言われ、考えた末に一緒に住む事にした。お互いに一部屋ずつあり、リビングとキッチンが一緒になっていて、キッチン横の棚には石井くんのコーヒー器具が並んでいる。
「合う日は一緒にご飯食べよう」とだけ決めて始まった2人の生活。
というても、私は引っ越してきたばかりで荷解きもまだ終わらず。寝る時間、起きる時間もお互いバラバラやし、でもお互いにマイペースな分それもまた丁度いいんかな…?まぁ、今日は早上がりやと言うてたから夕飯を一緒に食べることにした。
「これ、やっていけるんやろうか…」
不安感を抱きながら野菜を刻み、炒めているとインターホンが鳴り同居人が帰って来たことを知らせてくれた。
えっ?こいときって迎え入れんといかんの?
いやいや、それやったら新婚さんやん!っと思ってるうちに「ただいま~」と石井くんが部屋に入って来ていた。
「あー…おかえり」
「…どしたん?なんかあったん?」
「ううん、なんでもないよ」
1人で何考えてんのやろ…。なんか早くも疲れてきた…。

夕飯は石井くんの好きなタコライスにした。
ビールも飲みながら
「荷物終わったん?」
「あー、まだ少しあるかなぁ。明日も休み貰ってるからぼちぼちやるよ。」
「ほなら、午後から空いてる?」
「うん、大丈夫やよ。どしたん?」
「俺も休みやから、足らんもんとか買いに行こうかと思って。一緒行こう。」
「うん、いいよー」

ホンマ新婚さんやんっ

会話といい、今現在、石井くんはお風呂に入ってるし、その間に私は後片付けして…。
えっ、同棲ってこんなんなん?!?
誰にも聞けんし、私はずっとこうやって自問自答して暮らしていくんか…?
片付けも終わり、リビングのソファーで寝転がりながら悶々と考えていると顔にバサッと何かが被さってきた。
「風呂空いたよ。寝てたん?」
被さったタオルを取って私は黙ってお風呂場に向かった。

上がってくると今度は石井くんがソファーで寝転がって携帯を見ていた。
見慣れない光景、見慣れない石井くんの姿に何だかドキッとした。
コップに水を注いで一気に飲み干した。
「秋、ちょっと来て」
石井くんの側まで行くと右腕を軽く引っ張られ、石井くんの足元に座るように促された。
座ると、後ろからハグするようにしてソファーを背に石井くんも座り込んできた。
私の肩に顎をのせ携帯画面を見せてきて
「なんか悩んでんの?俺なんかした?」
あっ、さっき黙って行ったの気にしてんのかな…。
「ごめんね。そんなんじゃないねんけど…ちょっと心配事が…」
「なんなん?」
「んー…。私たちさ、仕事の時間帯とかもバラバラやんか?なんか、やってけるんかなぁ?とか思って…」
「ふぅーん、そっか。」
目の前の石井くんの携帯画面にはオシャレな食器が映っていて、それをスクロールしてる石井くんの手は動いてたけど、沈黙が続いた。

いらんこと言うちゃったかな…。怒ってる?
まるでホンマに新婚さんみたいなこと言うたから引いたんかな?
そう思っていると、石井くんが話し出した。
「仕事の時間がバラバラなんわ今更仕方ないから、それでも一緒に住んでる方が顔も見れるやろ。そう思って一緒に住もうって言うたんやけど。秋は本当は嫌やったん?」
「そうやなくてっ!ごめんなさい…。そんなつもりじゃなかった…なんかこういう生活、一緒に住むとかした事ないから分からんくて…石井くんの邪魔にならんようにしていかんなんかな、とか。いろいろ考えちゃって…。」
そこまで話すと、肩にのっていた石井くんの顔が離れ、スマホを後ろのソファーに置いたらまた後ろから腕を回しギューッと抱きしめてくれた。
「…秋はなんも気にせんでええよ。自分の生活してくれてええ。 でも、たまに合う日あれば一緒にいたい。」
「うん、分かった。ありがとう。」
深く考えすぎた。自意識過剰…。私、重い女やな…。石井くんは優しい。でもその優しさに甘えてばっかりも駄目やな!
「ねぇ!明日何買いに行くの?!」
「なんや、急に元気なったなぁ」


石井くんとの楽しい休日も過ぎて、また忙しい日々が始まった。
お揃いで買ったタンブラーに石井くんが淹れてくれたコーヒーが入ってる。それを一口飲んで気合いを入れた!
「なにニヤニヤしてんの?」
相席のケイさんにツッコまれたが、ニヤニヤの理由は言えない。
その言えない理由を持った相方も楽屋から出てきた。
「秋ちゃん、今日も宜しくねぇ」と、安田くんと舞台袖に向かう私の相方 石井くんは私の頭をポンと叩いて「いつもこんな顔じゃないですか」
と発しながら舞台に向かって行った。

「あちゃー、秋ちゃん言われっぱなしじゃん。たまには返さないとっ」
あはは、と苦笑いして見せたが多分きっとあれは彼なりの愛情表現?なんやと気づいてきた。

まぁ、初めの出会いの印象は良くも悪くも無かったけど、今となればいい思い出なんかな。
こんな私が、こんなにも幸せを感じられるのも大好きな芸人さんに囲まれ、忙しいけれども大好きな仕事と、大好きな石井くんがいるからかな。
なんか、オチも思いつかんけど
とりあえず、私たちは幸せな日々が続くと言うことです。
ほんとかな?ほんとだよ。


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