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第10話 冬の始まりに

10月も終わろうとしてるのに、なんだか夜風が気持ちよくて寒さを余り感じさせられなかった。

石井くんからの突然の電話で
「今から、会えへん?」
と、呼び出されてから無言で2人で歩いていた。

なんか話した方がいいんかなぁ
でも、呼び出してきたんは石井くんやしな…。
私はまだ渡せずにいた、石井くんへの誕プレが入った紙袋を手に持ったまま、石井くんの背中を見つめ付いてくだけやった。

どうしよう…怒ってはるのかなぁ…?
なんで黙ってるんやろう…?
沈黙が段々と耐えれなくなってきて

「石井さん、何かあったんですか?」
と、私から切り出してみた。
でも、考えてみたら私から何かあったんですか?は、おかしかったかもせん…。

「あっ、違うっ!そうやなくて、ごめんなさい」

私のその言葉に立ち止まり、振り返った。
「…違うって、何に?」

あっ、やっぱなんか少し怒ってるトーンや…。
仕方ないよね、私のせいやもん。
石井くんが周りを見渡して「こっち」と、指さす方を見ると公園が見えた。
その公園に入り、ベンチに座った。
石井くんは、座る前に自販機を見つけたらしく、温かいココアを買ってきて私に渡してくれた。

「ありがとう…」

「…なべさんは、俺になにか怒ってんの?」

やっぱり、あの時の事や…。
そうやんな…あんな頭おかしいことばっかり言ったし…。
「特に怒ってるとかやないんです…。ただ…」
「ただ?」

あー嫌やぁ、この空気。でも、この雰囲気がずっと続く方がもっと嫌や!
思い切ってもう一度聞いてみることにした。

「ただ…石井さんが最近変やなって。」
「どこが?何が変なん?」

「だから、他の人とは話さんのに私とは話してくれたり、カフェ連れてってくれたりとか変ですって。それとも私の自意識過剰なんですかね?」

ここだけ、聞いたら正しくそうなんやろうなって自分でも分かってるんよ。
でも、もしそうならそうで分かった方がええし。

「石井さんと話してると、モヤモヤするし、動悸もするし。やっぱり人気のイケメン漫才師さんやからかなぁって」

自分で何言うてるかまた分からんようになってきた。
落ち着かせるために、石井くんの買ってくれたココアを飲んだ。
石井くんはしばらく黙って、買ったお茶を一口飲んだ後に

「なべさん、俺の事好きなん?」

なんて直球な言い方するんやろう…この人は…!
きっと、考えて話してるんやろうけど、それならそれでもう少し何かに包んで言えばええのに…。
なんて返せばいいか分からんくて、驚いて情けないポカン顔してるの自分で分かってたんやけど、言葉が出てこん…。

「ん?どうなん?でもさ、多分そうなんやない?」

どっからその自信がでてくるん?

「あっ…あの、さ…っ石井さ…」と、言いかけた時

「俺は、なべさん好きやで」

「はぁっ?!」

いま、ナチュラルになんて言いました???!
びっくりすぎて、はぁ??!とか言っちゃったし…!。

「えっ?えっ??!石井さん、何を言いました???!」

「ん?もう1回言わなあかん?ちゃんと聞いてなかったん?」

「えっ!何?!いややっ!怖い怖いっ!また熱出るっ」

私がわたわたとプチパニックを起こしてると、地面に何かが落ちる音がした。
私の持ってきた石井くんへの誕プレが紙袋からこぼれたのだ。

「落ちたよ」と、優しく拾ってくれ、そのまま私に渡してくれようとしたので、私は

「あの、それ、石井さんへの誕生日プレゼントなんです…!」
と、話をした。
石井くんがそれを見てる間に冷静になろうっ。

「へぇー、そうなん。ありがとう。なんやろう。開けてええの?」
私は無言で首を縦に振るので精一杯やった。

包装紙を丁寧に広げる石井くん。中には薄ピンク地で紫色とかのチェック柄のネクタイ。

「ええやんか。衣装に合わせて見るわ。こっちはお豆やんね。ありがとう。」

またしても私は無言で頷くのみ。まださっきの石井くんの言葉の理解と整理が出来ていないからだ。
そんな私の顔を見て、弱ったなぁと左手で口元をおさえた。石井くんの癖や…と見つめる私。

「理解した?あかんか?」

また私は石井くんを困らせてる。どうしよう、でもな…

「お願いします。もう1回、言うてください…」

その私の言葉に優しく笑って、ゆっくりと石井くんは言うてくれた。

「もう1回しか言わんから、ちゃんと聞いときや。」

「俺はなべさんの事、好きやで。付き合ってほしい」

その石井くんの優しいトーンに気持ちが落ち着いてきた。
私は無言でゆっくりと何度も頷いた。

「そんな何回も頷かんでええねんって」
くしゃくしゃ笑顔で見つめてくる石井くん。私は目が涙でいっぱいになって、また子供みたいに泣いてしまった。
石井くんの「好きやで」の言葉にやっとホッとし、今までのモヤモヤが一気になくなった。

「私も石井くんの事、大好きですぅ」
泣きながら言うから、自分でもちゃんと言えたか分からん。

「ホンマ、子供みたいやなぁ」

よしよしと頭を撫でてくれた石井くんの手は温かかった。

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