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第4話 ホットかクール

起きて歯磨きしてると、スマホが鳴った。
先輩スタッフさんからやった
「おはよう。今日さ急で悪いんやけど、新宿の劇場にヘルプで行ってくれない?人員不足で回らないからさぁ」
「了解しました」
久々に行くなぁ、と支度して家を出た。
なんとなく肌寒さを感じながら、途中コンビニに寄って手を伸ばすのは冷たい飲み物より、温かい飲み物になった。すっかり季節は秋になったと、こういった所で体感するものだ。体は季節に合ったものを欲するのだな、と久しぶりに飲んだホットココアに幸せを感じながら新宿の劇場に向かった。

「おはようございます。ヘルプで来ました、渡辺です。」と、挨拶もほどほどに仕事内容の確認をして、ちらほらと見知った顔ぶれもいたり、出演者の方々も年に何回かお会いする名前ばかりやった。
この日に来て気付いたけど、コマンダンテ4ステに夜はトークライブ入ってるんやぁ…。と、スケジュール確認してるだけなんに、顔が暑くなった。さっき、飲んだココアのせいやな。うんうん、と自己完結させ頷いてると奥の方から馴染みの声が聞こえてきた。

「おはようございますぅ…」言いながら、私の顔を2度見。「ぅ、うわぁ、あれ?どうしたん??なんでいんの??!」
「ヘルプで今日は1日こっちに来ることになったん。宜しくお願いしますぅ」と、若干の安田くんの口調マネをして返した。「そうかぁ、大変やなぁ。」と話す安田くんのこの空気感は癒しの空間やなぁって毎度思う。とか、感じてるともう1人の癒し系漫才師もやってきた。
「…あれ?なんでいんの?」
なんだろう、このいつもの空気。安心感しかない。このいつものトーンでどこに行っても変わらない2人に安堵し、仕事に入った。

あっという間に4公演終わり、あとは夜のトークライブだけとなった。公演時間まで時間もあるからこの間に休憩時間をもらい、エレベーターがくるのを待ってると、静かに石井くんが近づいてきた。

「お疲れ様です…」
と、つい小声になってしまった。なんにも気まづい事などないはずなんに…自分で自分が不思議やった。
「買い物?」
と、こちらも小さい声で話しかけてきた。
「公演まで時間もあるんで、軽く食べてこようかと…」
つられてまたしても小さい声になってしまった。
「…軽くでいいん?」
こくん、と頷くと「なら、いいトコロ連れてったる」と言って一緒にエレベーターに乗ってきた。
「ここらへん、あんま知らんやろう」
まぁ、確かに…
黙って頷き、折角やからついて行くことにした。

いつも見てる背中なんに、なんか気恥しいなぁ。
私の1歩2歩前に人気者のイケメン漫才師が歩いてる…。途中、何度かチラッと後ろを振り向く石井くん。歩くのが遅い私が着いて来てるか気遣ってくれてる事に申し訳なくて何度も「ごめんなさいっ」と言いながら小走りで追いつく私。
その都度、立ち止まってくれる石井くん。
そんな風にして着いたのは石井くんが良く来るというカフェ。テイクアウトできる、手作りパンが美味しいんやって。
オススメのコーヒーを教えてくれて、たまごサンドを選んだ。お会計しようと財布を出すと
「ええよ。」と一言。
「あー…なら、ご馳走様です。」
石井くんがお会計してくれてる間、他の商品やオリジナルグッズもあったので眺めながら待ってると、しばらくして石井くんがホットコーヒーを持って来てくれた。
「行こ」
ホンマに余り話さない人やし、声も小さいけどこの雰囲気は一緒にいて安心感があるなぁ。
劇場に戻って、2人で横並びで座って食べてると

「さっきな、店員さんに聞かれてん」
急に話し始めたからビックリして、食べてたたまごサンドをごっくんと喉が詰まるかと思うぐらい大きく飲み込んでしまった。
「なにをですか?」
「………」
急に話しといて無言かいな。
私はその沈黙が続くのをどうツッコむべきか分からずもう一度「なんて聞かれたん?」と話してみた。

「…彼女さんですか?って」
「おっ…えっ!!」びっくりしたぁ。普通の答え。ボケてくるんかと思た、とまでは言えず…。
でも石井くんなりのボケなんか?それとも、ホンマに聞かれたんか??
どっち??と困惑してると

「そんな困った顔せんでも…。」
「ごめんなさいっ。そんなつもりやなくてっ。ホンマに聞かれたことなんか、ボケてきてるのか分からんくて」
と、挙動不審な私に

「やっぱ、芸人の彼女は大変なんかなぁ」と、苦笑いをしてきた。空気が癒し系の安心感から真逆の重たい空気になったのを感じた。

あれ…?。これって、ヤバい?
私、石井くん傷付けた?

手に持っていたコーヒーもすっかり冷めてしまっていた。

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