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Short Episode 2 「名前はポチかシロ」

その日は作家の子が手が空かなくなり急遽、撮影のお手伝いを頼んだ。
僕らのYouTubeの撮影で2人でどこのメーカーのカップ焼きそばが美味しいかランキングと称したものの撮影やった。
楽屋の片隅で僕と安田くん、渡辺さんとの三人で細々と撮影を始めた。

「では、どこのカップ焼きそばが美味しいか?僕らなりのランキングを作ろうではないか、と思いまして…」と、僕が切り出し安田くんがあーでもない、こうでもないと話し出した。
「あんなぁ、これも美味いねん!なべちゃんはどう思う?こんなん普段食べるん?」
「はぁ?!なに急に。カメラの子に話しかけないでくださいっ」
渡辺さんは笑いを堪えるのに必死になりながらも声だけの出演をしてくれた。
とか、いろいろ三人してやいのやいの言いながら撮影は終了。

「なぁ、安田くん。なべちゃん、って呼び名なんなん?」
「えっ?なんのこと?なべちゃんのこと?」

撮影しながら、その事が頭の中でぐるぐる巡っていた。安田くん…いつから渡辺さんをなべちゃんやらと呼んでるんや?

「ちょっと前からですかね?私たち歳も一緒ですもんね!」
「そうなんよ!親近感!生まれも大阪やし、歳も一緒なんてすごいやんなぁ!」

いつの間にこんな話してたんや?
あれ?なんか俺だけ置いてかれてるんか?

「…1個しか変わらへんやん。」
今思えば情けない。小さな負け惜しみ…。
ん?でもなんで俺こんな気ぃ落ちてるん?

「ほなら、私はこれで。またあとでリハーサル開始の時呼びに来ます!失礼します。」

「ありがとうねぇ!」と、なんとも楽しそうに送り出したなぁ、安田くん。
「……安田くん」
「ん?どしたん?」
楽屋の隅にある小さな部屋で2人でボソボソとカップ焼きそばを片しながら安田くんに、なんで『なべちゃん』なん?女の子に対して。いくら同い年でも…と言おうかと思たけど、

「…やっぱ、ここの焼きそば1番美味いな」
としか、出てけえへんかった。


リハーサルも終わり楽屋に戻ってきた。
今日はアイロンヘッドと一緒や。

「石井さん、今のうちになんか食いませんか?」
「そうやなぁ、どっか食べに行くか?」
あんま腹減ってないけどええか。辻井が行きたいんなら。

そんな会話をしてると、またもや根建さんが仲良さそうに?渡辺さんと楽屋に入ってきた。

「石井くん、ナポリくん辻井くんも。皆で飯行こうぜ!」
渡辺さんまで連れてきて、この間の文田さんの気にしてんのか?イキってんなぁ…。

「渡辺さんも行くの?」
俺は思わず無意識に話しかけていた。根建さんの勢いに感化されたのか?
「根建さんが時間あるなら一緒に行こうぜ!って誘って下さって…。ちょうど休憩時間やったんで。」
と、押しの強さに、圧に負けたんやな…。
「なんか、悪いな」
「なんで石井さん謝るんですか?皆で美味しいご飯食べましょうよ!」
ニコニコと嬉しそうに根建さんのあとに着いていく後ろ姿を見ながら俺もそのあとに着いていった。
根建さんと歩いてると子供みたいや。
歩幅足りんのか。着いてくんやっとやん。
「根建さん、どこまで行くんですか?」
思わず話しかけて呼び止めた。
「おっ!ここのラーメン屋にするべ!」
するべ!って…。女の子連れてくるところか?
「私、ラーメン大好きですよ!」
あーあー、気ぃ遣わせて…。


ラーメンも食べ終わり、コーヒー買ってきますわって言うたらナポちゃんと渡辺さんが着いてきた。
「俺も良いっすか?ねぇねぇ、キミも行こうよ。」
ナポちゃん、名前知らんのか…。横でラーメン食うてたろ。
「渡辺さん、どんなんがいいとかある?」
「あんまり酸味のないほうが好きですねぇ」
「俺は石井さんのオススメで!」

コーヒーを待ってる間、ナポちゃんが渡辺さんに質問攻めやった。
「渡辺 秋いうんやぁ!ちいさい秋の歌の子みたいやなぁ」
「なんやねんそれ。しょうもなっ」
俺らのやり取りを聞いて大笑いしてるし。こんなしょうもないことしか言うてへんのに。
「わたっなべっあっきっ!」
「何?ナポちゃん何言うてんの?!」
「呼び名を考えてるんです…何がええかなぁ…」
そんなこと言うてるナポちゃんの顔を見てると、袖を引っ張られる気がしてそっちに目をやると、呼び名を考えてるナポちゃんと同じ様に眉間に若干の皺を寄せて俺の顔を見上げてきた幼顔が小声で…

「ナポリさん真剣に考えてるんですけど、もし変な呼び名やったらツッコミ入れてくださいねっ」
なんやこの子、子犬の泣いたような顔してきて何言うかと思えば。
「お待たせいたしました。テイクアウトでお待ちのお客様」と呼び声が聞こえたので取り敢えずそっちに向かった。
てか、なんやあの子…。よう見たら顔小さいねんなぁ…人懐っこい子ぉやとは思てたけど。
コーヒーを取りに行きながら、ついさっき見上げてきた幼顔の子犬が俺の頭の中ではボロボロのダンボール箱に入って、雨に打たれながらクンクンと泣いてる映像が脳内で映し出されていた。
淹れたての温かいコーヒーを手に持ち、まだ頭を抱えているナポちゃんと横で泣いている子犬の下へと歩き着いた。
一つを子犬に渡そうとした時
「うん!やっぱそうやなっ」
と、急に頭を上げて声を出したナポちゃんにびっくりしてコーヒー落とすかと思た。
「うん!呼び名は秋ちゃんやな!」
一瞬、なんの事かとポカンとしたがすぐに我に返り
「散々、考えたくせに普通やないかっ」
と、俺も普通のツッコミをしてしまった。
そんな、しょうもないミニコントをしめてくれたんわ
「もういいですぅ」
という、渡辺さんの一言やった。






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