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第6話 淡い秋色

「Happy birthday!あきちゃーん!!」

「ありがとうございます!」

前日にお祝いしよう!と誘ってくれ、ケイさん主催で開いてくれた私の誕生日会。山添くんも石井くんも来てくれて、かつてこんな素敵な誕生日を迎えたことがあっただろうか…。

「石井さんも今月ですものね!おめでとうございます!ので、もう一度、カンパーイ!!」

みんなで、楽しく喋って、食べてしてると一昨日の石井くんとの気まづい空気の事など、すっかり忘れてしまっていた。私の勝手な考えだけでいたのかもしれんけど、返って良かった
と、安心しながらいるとお酒も進んでいた。
ケイさんの「2次会もいっちゃうよ~」の一声で次のお店へと4人で歩いてると

「そういえばさ、あきちゃん。ちょっと聞きたかったんだけど…」と、ケイさんがちょっと小さめの声で話してきた。後ろには石井くんと山添くんが楽しそうに話してる。

「石井さんと、なんかあったでしょう??」
「えっっ…」
一気に酔いが冷めた気になった…。さすが、ケイさん。見てる。鋭い…。この人には嘘は通じないな、と瞬時に察し…素直に話すことにした。

「一昨日ですね、たまたまカフェに連れてってもらったんですよ…」

大まかではあるが、ケイさんに石井さんとあった事を話した。

「へぇー…石井さんがねぇ…。ほぉーーー…。」
酔ってるせいもあり、悪い顔してますよ…ケイさん…。
「ま、ま、次からがメインだからね!」
「えっ?!何があんの??」
そんな話をしていると、お店に着いた。

「はい!では、ここでは秋ちゃんへのプレゼントターイム!まずは、ケイさんのから渡しまぁす!」

「うっわぁ!ありがとうございます!」
開けてみると、可愛いくて、今からの季節にいい暖かそうなパジャマ。
ケイさん、女子やわぁと、感じる。
「なら、次は俺のんね。」
山添さんからは、スニーカー。

「山添さん、ありがとうございます!これ欲しかったやつなんですぅ!」
大喜びしてると、ケイさんが私の腕をつついてきて

「さぁ!なんと石井さんも用意してきてくれてるそうですよ!」
「えっ?!」
「なんか、山添のあとのでは出しづらいなぁ。」

しまったぁ…ホンマに嬉しくてテンション上がりすぎてた…。

「そんなことないです。石井さんに誕プレ貰えるなんて夢みたいです!」
「じゃあ、はいどうぞ」
と、渡してくれた袋を開けると私が今出勤用に使ってるサイズ感と同じほどのリュックだった。

「これ使いやすいし、丈夫やから良かったら使って」
「わぁ!嬉しい!ありがとうございます!買い替えんなんなぁって思ってたとこやったんです!」

「石井さん、見てるわァ。昨日の今日で秋ちゃんにどんな物がいいか考えて買ってこれるって、さすが…!」
「そうですね…」
ケイさんが私に小声で呟いてきた。
石井くんって、自分から話しかけたりしないし、文句とかも言わんけど、その分、周りを見てたりするんやなぁ。

2次会でもなんだかんだ盛り上がり、ほどよく眠気もきたのでお開きとなった。
タクシーを捕まえようとしてると、ケイさんが急に

「秋ちゃん、石井さんと同じ方向だよね?石井さん送ってあげてください」
「えっっっ!待って待って、大丈夫です!1人で帰れます」
と、またもや酔いや眠気も飛ぶような事を言ってくれるケイさん。まさかと思うけどメインってこれの事じゃないですよね??!
と慌てていると、

「タクシー来たよ。早う乗りぃ」
と、引っ張られそのまま石井さんと同じタクシーで帰ることになった。見送っているケイさんの顔、悪い顔してたなぁ…。

タクシー内はさっきまでの盛り上がりはなんだったんだろうかと言うぐらいの2人の沈黙が続いた。

これはアカンと思い、
「今日はぁっ…」
って、発した一言目が裏返ってしまい、もう私の酔いはこれで冷めました。これは恥ずいって…。

「大丈夫なんか?無理せんでええよ。」

顔が真っ赤になり、熱くてしょうがない。
「今日は、ありがとうございました。」
改めて言い直したけれど、その真っ赤な顔を見せられなくて、お礼も含めで顔を隠すように頭を下げた。

「ええって、大したもんでもないし。なべさんは皆に愛されてるんやな」
「そんなことは、ないですっ」

と、返したところで私のアパート前に着いてしまった…。
「ほな、また明日」
と、珍しく手まで振ってくれて、お酒の力ってすごいなぁって感じながらタクシーが見えなくなるまでその場で石井さんとの会話の余韻に浸っていた。

部屋に入り、改めてプレゼントを眺めていた。
私は幸せものやなってしみじみ感じつつ、折角やからリュックを明日から使おうと、新しいリュックを開けてみると中に何か入っていた。

「なんやろう?」
と、中には黄色のリボンもついた可愛くラッピングされた袋が入っていた。出して中身を見てみると…
石井さんと一緒に行ったカフェのドリップパックコーヒーとマグカップやった。

「これ、私が見てたやつや…」

カフェに行った時、石井さんがお会計してくれてる間、可愛いなぁと思いながら見てた淡いオレンジ色のマグカップ。石井さんはそれを見てたんやなぁ。
ケイさんの言った通り、見てるなぁ。

「ん?カップの中にカード入ってる…」

そのカードには石井さんの字で

『誕生日おめでとう 石井』
と、一言だけ書いてあった。
石井さんらしいと言えばいいのか…。

「石井さんにも誕プレせんななぁ…何しよ」

朝起きたら、このカップでコーヒー飲んで出勤しよう、と思いながら、そのカードを側に置いて眠りについた。

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