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ヘタレ師範21話A 「おやじ狩り」


第1話「出会い」へ戻る

第20話「五郎とジオン」へ戻る

ーーーーーーー前書きーーーーーーー
五郎がジオンからあれだけの攻撃を受けながら、なぜゾンビのように急激に回復できたのか?
そのゾンビ回復?は、彼だけでなく、ミヒやミヤギ夫婦にまでできるのか?。
今回21話あAそしてBとCでは、それについての説明とゴボウ道場の成り立ちについて語ることにしよう。
ーーーーーーーーーーー本文ーーーーーーーーーー

数年前。

そこは、荒れ果てた比較的大きな空き家だった。
昔はどこかの教会の建物だった。

しかし、いつ頃からか、廃教会となり、敷地には雑草が生い茂り、十字架も朽ちた教会の壁には、ツタガズラがヘビのように絡みついていた。
最近では、その不気味さから『お化け教会』などと付近の人々からは怖がられていた。

五郎は、この古い建物を、事業家の父親から譲り受けていた。
父親がどのような経緯でこの建物を所有したのかは定かではない。

その頃の五郎は建築関係の、設計事務のテレワークを仕事にしていた。

彼は時間を見つけてはこのお化け屋敷に来て、建物のメンテナンス、清掃、草刈りなどをしていた。
彼はここを改装したかった。いつもコンピューターでしか建築物を見ていなかったので、自分の手で何かを作ってみたかった。

そんなとき、このお化け教会に五郎がいないときを狙って不良高校生達がたむろするようになった。

あるの日の夕方、その建物の礼拝所跡には3人の男子高校生と1人の女子高生がタムロしていた。

男たちは、長身、筋肉質でリーダー格の『ノッポという愛称』。ロン毛を後ろで縛った『テール(しっぽという意味の愛称)』。そしてスキンヘッド(愛称はあとで紹介)だ。

それぞれ学生服を個性的に着こなしていた。
例えばノッポは素肌に直に羽織った学生服の金ボタンを上から二つだけ外し、真っ赤な裏地と、金の三日月のベンダントをぶら下げ、自分のムキムキの胸板を誇示していた。他の二人はノッポほどではないが、ヤンキーらしい、崩れた着こなし?だった。

女の子は、短めのスカート、上はブレザーに身を包んでいた。男たち三人に比べて真面目なのだろう。ブレザーはあまり着崩れてはいない。

今どきの高校生なのに全員が制服姿なのは、下校中だったからだ。
近くには、あまりガラがいいとはいえない高校があった。
人が寄りつかないお化け教会は、彼らが下校中に群れるにはうってつけの場所だった。

その日彼らはタバコを吸ったり酒を飲みながら騒いでいた。
スキンヘッドの学生服がブレザーにしきりに缶酎ハイを勧めていた。ブレザーはその都度断っていた。

ギギギ、バッタン!

床下点検口がいきなり開いた。

中から黒い影が首を出した。
「ギャー!」
女の子は悲鳴を上げ、男たちは息を呑んだ。

お化け屋敷の幽霊か?
幽霊が口を開いた。

「ごめんなさい、脅かしました? まさかお客様がおみえとは思わなかったものですから」

もの静かなやさしい声だった。でもこんなお化け屋敷にお客様がおみえ?ヘンなこと言う幽霊だ。

それは五郎だった。まだ師範でもなく、道場も持っていなかった。

ヤンキー高校生たちは五郎と鉢合わせしてしまったのだ。

最初は驚いた高校生たちは、相手が幽霊ではないとわかる、五郎をよく観た。この男、大人とはいえヒョロっとしてあまり強そうにも見えない。しかも一人だ。

だから男子高校生たちは五郎を舐(ナ)めた。
相手が自分より弱いと見れば急に上から目線になるのは人の常である。

体格のいいノッポが。
「オヤジ!へんなところから出て来やがって。なんか文句あんのかコラ!」

10代の高校生から見れば20代前半の五郎もオヤジらしい。

五郎は今と変わらない伏し目がちに。
「す、すいません。でもここ、ボクのウチなので‥‥」
ノッポ「なんだァ?こんなお化け屋敷がお前のイエ? お前オバケかよ?」
男たちがどっと笑う。

スキンヘッドが。
「ははは、ボロ屋が家って、どんだけカネねえんだ?」
テールが壁のスイッチをパチパチさせながら
「電気も点かねえぜ。水道も通っちゃいないんだろ? こんなとこ住めっかよ」

スキンヘッドが五郎の前にニューっと立ちはだかった。この男は相撲取りのように大柄だ。
五郎は目を丸くした。
「(デカッ、学生服の大入道?)」
実際、そのスキンヘッドは、仲間から『入道』と呼ばれていた。

入道は五郎の肩をポンと叩いた。ホコリがパッと舞い上がる。
「ウエッ、キッタねえ。この家と同じじゃねえか」
ノッポ「ははん、分かった。オヤジ!お前、ココに住みついているホームレスだろ?」
テールと入道がまたドッと笑う。

五郎がここに来るときは、いつも着古しの作業服だ。
なぜなら、彼はこの廃教会をリフォームするためにここに来ているのだから。

しかも今日は床下のメンテをしていたので、作業服も、顔も手もクモの巣まみれドロまみれだった。

空家なので水道も出ない。手も顔も洗えない。
いつもは近くの公園の水道を借りるのだがまだ行ってなかった。
だから。

入道「ホームレスかよ? それじゃ不法侵入じゃねえか?」

ヤンキーたちだって不法侵入は同じだが、それはタナに上げ。
テール「そんなの人間のクズだ。クズが俺たちにツラさらすんじゃねえ!」
テールは言いざま、五郎の顔を殴りつけた。倒れ伏す五郎。
「何するんですか?」

入道が五郎の髪の毛を掴み。
「おい、立て!立つんだよ!」
彼は五郎を無理やり立たせ、ボディにフックを食らわせた。
「グフッ」
腹を押さえてうずくまる五郎。

ノッポがうずくまった五郎の胸のあたりを蹴飛ばし、五郎は転がった。
「こいつはいいや、ホームレスのオヤジってのはこんなに弱っちいんだ」
入道「ヤっちまおうぜ.『おやじ狩り』ってヤツをよ。
俺、一度やってみたかったんだ」
テール「よっしゃよっしゃ、いくぜ!」
三人は寄ってたかって五郎を袋叩きにし始めた。

すると

「ヤメテ!」

驚いたノッポたちは一瞬手を止めた。五郎はそのまま倒れこんだ。

叫んだのはブレザー女子高生だ。
「ワタシイジメ嫌い、大嫌い!」
言葉のイントネーションがおかしい。

ノッポたちは、すぐに下卑た笑いを彼女に向け、取り囲んだ。
男たちの異様な視線にたじろぐ少女。

「な、なに?」
ノッポがニヤニヤしながら
「何で止(ト)めたんだ?ミヒ」

なんと彼女は、まだ高校時代のミヒだった。

テール「俺たちお前をいじめちゃいないだろうが?これまではよ。
でも俺たちに逆らうってんなら、お前もこいつと同じようにボコボコにしてやろうか?」

入道「いやいやいや、おやじ狩りなんかより、女子高生のミヒを狩ったほうが面白いかもだぜ。もともとここに来たのはよ・・・」

三人はお互いに目配せしてニヤリ。

入道
「どっちみち、ここで一服したら、お前とも一服するつもりだったんだし」
ミヒ「それナニ? どういうイミデスカ?」
ノッポは、ミヒのコリア訛りを真似て。
「ははは、どういう意味ですか?だってよ。みんなで教えてやろうじやないか。なあ?」
入道「そうだそうだ。教えてやるよ。お前の身体でな」

そして三人は、飢えたハイエナが獲物を見つけたような目つきで、ミヒに迫った。
ノッポ「心配するな。お前はオンナだからな。あのホームレスオヤジみたいにボコったりはしないからよ」

「アナタたち、オ友達デハナカッタのデスカ?」
日本語を覚えたてのミヒはこんな時でも敬語しか使えなかった。

大笑いする三人。

テール「バーカ、男と女に友達なんてあるかよ。少なくとも俺たちにはそんなものはねえな」
入道「オオカミとヒツジは絶対友達になれないんだよ。何せヒツジはオオカミのエサなんだから‥‥ヒヒ、俺、このセリフ一度使ってみたかったんだ。ヒヒヒ‥」
ノッポ「ミヒ!お前はよ、最初から俺たちのエサだったってワケ」

ケモノと化した高校生たちはミヒに迫った。
壁際に追い詰められたミヒは三人に囲まれ逃げ道はない。
彼女は、韓国語で叫んだ。

「畜生ー!」

そのとき、

「あのー、すいません!」
この緊迫した状況にはまったく不釣り合いな声がした。

五郎だった。

彼は多少の傷を負ってはいたが、さほどのダメージもなさそうだった。

高校生たちは驚いた。あれだけひどい目にあわせたのに?

このときの五郎は、ジオンとの戦いのときの『ゾンビ』のように、短時間で回復するワザを使わなかったし、そんなワザ、まだ知ってさえいなかった。

それがこんなに早く回復できたのは?

のちに五郎はこう回想している。
「最初に殴られたり蹴られたりしてるとき、ボクはとっても怖かったんです。
でも心のどこかでこうも感じていました。

「あれ、この子たち、パンチも蹴りも見た目ほど効かないな」

ダメージのない暴力のおかげで、ヘタレのボクの心の中に少しだけ余裕が生まれました。

それにボクはいくらか格闘技の経験はあります。格闘家のパンチの凄さは知ってます。
それに比べればあの子たちのパンチなんて比較になりません。

だからボクは鼻や目はガードしましたが、他は殴られ放題で‥‥。そしたら、当時女子高生だったミヒが止めてくれたんです。

でもそのことで、ミヒに危険が迫ってしまって。
どうやらあの不良高校生たちが、お化け教会に
忍び込んだのはは、最初からミヒが目的だったようで・・・。
その頃の彼女は空手も格闘技も何も知りませんから。
何とかしなきや、と焦った瞬間、その後は‥‥」

五郎は、「その後(アト)」のことは何故か話したがらなかった。

でも、ミヒから聞いた その後 はこうだった。

高校生たちは、五郎が回復したことに、最初は驚いた。
しかし、自分たちはケンカ慣れした仲間が3人いる。

テール「ホームレスオヤジのクセに、JKの前でカッコつけやがって!」
また殴りかかってきた。

その手を五郎は左手で掴んだ。しかし反撃するわけにはいかない。

五郎は生まれつき気が弱い。
しかしヘタレとはいえ、格闘家なのだ。高校生相手に暴力沙汰なんか起こすわけにはいかないのだ。
それにこの古びた教会を五郎はリフォームしていた。
自分が主催する道場に建て替えようと、時間を見つけては DIY に励んでいるときだ。
その場所でケンカ騒ぎなど。

しかし、高校生たちには五郎の胸の内など知ったこっちゃない。

入道「テールの手を放せ!このホームレス野郎!」
入道が五郎の腰にしがみついてきた。五郎を転倒させるつもりのようだ。
しかし五郎は片足を下げ、前屈立ちになって転倒を避けた。

前屈立ちは、前足7割、後ろ足3割の体重をかけるのが基本だ。
前重心で後ろ足で突っ張っているので、正面から組み付かれても、転倒しにくい。

前屈立ちによく似た立ち方で『不動立ち』というのがある。これなども、転倒しにくい立ち方なので不動立ち‥‥と呼ばれるのかも知れない。

でもこれは最初の、ほんの一瞬対応できるだけだ。相手が変化してしまえば、そのままでは到底対応できない,

入道はしがみついたまま。
「ノッポ!こいつおさえてるから、そっから飛び蹴り、飛び蹴り頼む!」

どうやらノッポというリーダー格は、飛び蹴りが得意なのだろう。
入道とテールが相手を押さえつけてノッポが跳び蹴りで仕留める。
ケンカでも何度か使ったことがあるらしかった。
よく連携プレイが取れている。

しかし五郎は内心。
「(のんきな戦い方だなあ。敵に次のワザを教えるなんて)」

武道や格闘技では、自分が繰り出すワザを直前に相手に伝える、なんてことはあり得ない。

剣道の試合で「次は面打ちいきます。『メーン!』」
あまりにもバカバカしい。

そう思いながら、五郎は前屈だった後ろ足をスッと戻して交差立ちになった。
組み付いたままの入道は気づかなかった。
いや、仮に気づいたところで、彼らには五郎が前屈立ちから交差立ちに足を移したワケなんて考えもしなかっただろう。

ノッポはいきなり学生服を脱ぎ捨てた。
彼のムキムキの上半身は三日月形のペンダント以外何もつけていなかった。

ノッポは両拳を握りしめ、大声で。
「行くぞ!」
と怒鳴った。アクション映画の一場面のようにカッコいいところだ。
でも五郎は。
「(あーあ、敵と戦うのに、事前に合図まで送ってるよ)」
武道では、相手に次の攻撃を知られるのは致命的である。
ピッチャーが次に投げるボールの球種を敵バッターに知られるようなものだ。

「アチョー!」
ノッポが、どこかの映画で聞いたような怪鳥音をあげて、すぐに飛んできた。横飛び蹴りだ。

五郎は、テールの腕を左手で摑んだまま、合気道の『逆手投げ』で崩し、右手の手刀受けでノッポの蹴り足を払いのけた。

そのとき五郎は自分の身体を後退させながら半回転させた。
そうしなければ、自然体のままで、いくらノッポの足を払っても、空中を飛んでる彼の身体がそのまま五郎に激突してしまう。

飛び蹴りはワザが決まれば効果的だ。
自分の全体重が、相手のダメージになるのだから。

反面、

受けを取られると、着地時にバランスを崩して反撃され安い。

五郎に受払われたノッポの飛び蹴りは、目標を失い、大きく崩れて床に激突した。
「グェッ、ウー!」
ノッポは腰を強打して立ち上がれない。

一方、五郎の腰にしがみついていた入道は、五郎が身体を引いたことで、武道のいう虚(キョ)をつかれ、同時に五郎が半回転したことによりバランスを失い、床に転がされてしまった。

このときの五郎は、後ろ足を交差立ちに移したことで腰の回転をかけやすくしたのた。

※形の中にある交差立ち(例 ナイファンチ、パツサイなど多数)は、全て回転のための備えの立ち方だと教えている流派もある。

また、後退したといっても、床を蹴って下がったのではない。
自分の身体を一瞬浮かして後ろに倒れたのだ。
すると、一瞬だが五郎の全体重が、入道のしがみついている両腕にかかるのだ。入道の身体は五郎の体重に引っぱられバランスを崩してしまったのだ。

三人は一瞬にして五郎に倒されたようにしか見えなかった。

倒された男たちは、何が起こったのか理解できない。

しかし、テールは慌ててノツポを助け起し。
「に、逃げろ!」
腰をさすりながら痛がるノッポを引きずるようにして逃げて行った。
入道も慌てて
「待てよ、待ってくれェ!」
二人の後を追った。

建物内は何事もなかったように静まり返った。

五郎と女子高生のミヒだけが残された。

ミヒは恐れと、警戒心ありありの目で五郎を睨(ニラ)みつけている。

五郎が近づこうとした瞬間
「近づかないで!(韓国語)」
そう叫んで、ミヒはビクッと身体を縮めた。

五郎も驚いた。
彼はすぐに伏せ目がちになり。
「ごめんなさい、キミ韓国の人? ボクの言ってること分かる?」
ミヒは何も言わずまだ睨みつけている。

「分からないか? でもさっき、友達と日本語で話していたようだったから‥あれ?君の友達は?」

五郎は不思議なことを言った。

五郎はあのヤンキーたちを追い出したのだ。
友達?の行方を知らないワケはない。

五郎は出口から外を覗いてみて。
「もう友達も誰もいないじゃない。君も早く帰らないと、もうすぐ夜になっちゃう。ご両親だって心配するよね?」

しかしミヒはそこから動かず五郎から視線を離さなかった。
五郎は困ってしまい。
「じゃボク行くね。君、ミヒって言ったっけ? 早く帰るんだよミヒ。ここ夜になると真っ暗だから」

五郎が出ていこうとすると。

「友だちチガウ」

「えっ?」
「あの人タチ、友ダチ全然チガウ。ワタシ、日本来テ友ダチない、全然ない‥‥親イナイ。わたし一人・・・」

ミヒは、その場に泣き崩れた。

ミヒは後にこう語っている。
「あのときの私は、韓国(クニ)の両親を交通事故で亡くして、日本に住んでいた伯母に引取られたばかりだった。

当然学校も転校したけど、日本語分らない。勉強もチンプンカンプン。だから友だちもいなかった。一人ぼっちだった。
オモニ(韓国語で母親のこと)の妹である伯母は、独身のとっても優しい人だけど、オモニに顔がとても似ているから、かえってとても辛かった。

だからあまり家に寄りつかなかった。
そんな私に声をかけてくれたのがあの三人だった。
彼らは、最初はとてもやさしくて、わたしのヘンな日本語いつも笑ってくれた。
楽しかった。
私に笑顔を向けてくれるの彼らだけだったから。

でも彼らはニセモノの友達。
彼らは学校にもあまり来ないでゲーセンとかで遊んでばかり。
タバコ吸ったりお酒飲んだり、女の子ひっかけたり。

そして私を悪い仲間に引き込もうとした。それがダメだと分ると今度は、私で欲望を満たそうとして。

そしてあの日、あのお化け屋敷、‥‥この道場のことだけど。
そんな私を救ってくれたのは‥‥五郎ちゃんだった。

でもそのときの五郎ちゃん、とても不思議だった。
あっという間に高校生ヤンキー三人を倒したのに、五郎ちゃん、そのときのこと全然覚えていないんだもの。

あとで五郎ちやんに確かめたら、
ノッポが『アチョー!』って叫んでその後、私が『近づかないで!』って大声あげるまでのことは、何も記憶がないんだって‥‥」

どうやら、五郎は普段はヘタレだが、危機的な状態に陥ると、無意識に身体が反応してしまうようだった。
それも、とんでもない力が。

しかも五郎本人にはそのときの記憶は残らないようだった。

それから数週間後、

あのお化け屋敷は何となく道場らしくなってはいた。

雑草は刈り取られ、荒れはて、ツタ葛に覆われ、じめじめして薄暗かった外観も、今やクリーム色の新しいペンキに塗り替えられ明るくなっていた。

しかし、もともとが崩れかかった建物だ。五郎一人がいくら奮闘してもおのずと限界がある。

いくら外観が明るくなったって、古臭いオンボロ建物と言う印象はどうしても残ってしまう。

でも五郎は満足だった。この道場なら自分の理想を実現できるだろう。

彼は自分がこれまで学び確信してきた武道家としての考え方を自分の肉体とパフォーマンスで実現したいと思っていた。

それは、空手の単独形(型)の秘密を解明する。または、自分なりに納得できる解釈を試みることだった。

空手の型は、そんな秘密とナゾが何年も何十年も解き明かされていないのだ。(諸説ある)

空手の流派会派は数百あるらしい。
大小調べればもっと多いことだろう。
その原因の一つは、形の解釈の違いがあるのかも知れない。

もちろん、形以外に、フルコン、寸止め、防具付などの試合形式でも流派会派は違うのだろう。

五郎は自分で、木の板に墨書きした新しい看板を入り口脇の柱に取り付けた。
その道場の名前は
「護身防災空手研究会」
 
「ゴシンボウサイカラテケンキュウカイか、いい名前だな」
五郎は満足気に独り言を言った。

すると、
「長スギル。略して『ゴボウケン』コッチがもっといいナマエだよ」

振り向くとブレザー姿のミヒが立っていた。

彼女は以前とは別人のような笑顔だった。

驚いたことがもう一つあった。

ミヒの後ろに、あの不良三人組、ノッポ、テール、入道が、恥ずかしそうに立っていたのだ。

ーーーーーーーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーー

22話 「入門」へつづく(準備中



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