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裁判所職員を辞めてから一年が経過した今の心境。

 2023年3月31日夜10時前、裁判所での最後の勤務を終え、職場に残っていた同僚、先輩への挨拶をして帰宅した。裁判所を後にしたときの気持ちは今でも鮮明に覚えている。外に出てまだ明かりの点いている自分のいた職場を振り返ったとき、もう二度とここに来ることはないんだ、という実感がわいて、不思議な気持ちになった。辞めた日の正直な気持ちは、ようやくこの辛い日々から抜け出せる、という解放感と安堵感が強かったように思う。そのときは完全にキャパオーバーな状態で働いていて、心身ともに疲弊していたので、とにかく早く仕事を辞めたかった。表向きは前向きな理由で退職したが、逃げるように辞めたというのが実際のところだ。だから退職した日は清々しい気持ちで、帰りの足取りも軽かった。

私が公務員でなくなってから一年が経ったので、辞めてからの心境の変化、そして今の気持ちを正直に話そうと思う。


公務員を辞めた直後の気持ち

 在職中に転職活動をしていたので、退職後すぐに民間企業で働くことになった。やめた直後は何の迷いもなく、仕事を辞めることを決断できた自分を誇らしくさえ思っていた。新しい環境でやっていくことに不安がないわけではないけれど、社会人歴10年の経験があれば何とかやっていけるだろうと、今考えると謎の自信があった。

公務員を辞めて一か月ほど経ってからの気持ちの変化

 それから一か月ほど経ったころだったか、明確にきっかけがあったわけではないが、徐々に徐々に、本当にこれで良かったんだろうか・・・という思いが頭をよぎるようになった。10年というそれなりに長い時間同じ組織にいたせいか、自分が思っていたよりも裁判所に対する帰属意識が強かったのかもしれない。働いている間はあれほど離れたくて仕方なかったのに、いざ離れてみると、自分のアイデンティティが失われたような、大きな柱がなくなったような喪失感と、この先どうなっていくんだろうという不安に襲われた。新しい職場で最初からバリバリ忙しく働いていたら余計なことを考えずに済んだのかもしれないが、転職したばかりのころは仕事も忙しくなかったので、持て余した時間でぐるぐる悩んでいたように思う。退職を決めたのは自分なのに喪失感を感じるのはわがままかもしれないが、そのときの正直な感覚としては積み上げたものがゼロになったような、公務員という鎧に守られて生きてきた自分が急に社会に生身でさらされたような不安に襲われていて、退職直後の晴れ晴れとした気持ちは徐々にどこかへいってしまった。

転職して収入が下がったことに対する正直な気持ち

 さらに正直に言うと、転職して収入が大きく下がったことも、自信をなくした要因だったように思う。年収が人の価値を決めるわけではないけれど、転職市場においては年収が人の実力を測る一つの指標であることは事実だ。転職活動をしていたときは、年収は二の次でやりたい仕事を探していて、転職するときはそれでいいと納得していたが、いざ収入が下がると、自分が落ちこぼれたような気分になった。もちろん、今の会社には拾ってもらってとても感謝しているし、適正な評価をしていただいたと思っている。別に生活に支障があるわけでもない。ないものねだりと言われればそのとおりだが、自分にとっては、収入が単に生活のためではなく、それ以上の意味をもつものだということに初めて気づかされた。6月に公務員のボーナスのニュースが流れたときは、できるだけ目に入らないようにした。
 自分から辞めておいて随分と身勝手な感想だと思う。でもこれが正直な気持ちだった。
 そして今の会社での繁忙期があり、前職のことを考える余裕もなく仕事に追われている時期もあったが、心のどこかには常に、元公務員という過去の自分がのしかかっていたように思う。今の会社での仕事があまり順調でないこともあって、最近はより弱気になっている。

公務員を辞めて一年が経った今の心境

 裁判所を辞めて一年が経ち、公務員であった自分を忘れるどころが、より強く意識するようになっている気がする。思い出すのは辛い経験が多いが、公務員での経験が今でも自分の重要な要素の一つであることは間違いないと思う。
 辞めたことを後悔しているか?と言われると、正直、何の未練もありません!と即答することは残念ながらできない。裁判所でまだやれたことはあったと思うし、精神的な余裕をなくして逃げるように辞めたことについては、自分に負けたという罪悪感が残っている。人生で一番勉強してやっとの思いでつかみ取った公務員の職を捨てたことをもったいなく思ったことも、一度や二度ではない。裁判所で仲の良かった同期と同じ職場で働けなくなったのも寂しいし、お互いに共有していた日常の環境がだんだん変わっていって疎遠になっていくかもしれないと思うと、とても辛い。

それでも辞めたことを後悔はしていない

 ただ、辞めたこと自体は間違っていなかったということは今でもはっきり言えるし、自分の目標や実現したいことに向かって決断するタイミングとしては、あのときしかなかったと思う。自分の選択が正しいかどうかなんて、誰かが決めるものじゃないし、自分の選択を自分で正解にしていくほかない。公務員を辞めたというのも、長い人生では些細な出来事なのかもしれないし、結局は辞めても辞めなくても、自分が正しいと信じた道で頑張るしかない。公務員として頑張った過去を否定する必要もないし、辞めたことへの罪悪感とか、キャパオーバーになって頑張り切れなかった自分への心残りとか、そういうものも全部ひっくるめて受け入れるしかないとも思っている。過去にやり残したことを忘れるのではなく、それも背負って、悔しい気持ちをバネにして、前に進んでいきたい。
 正直、今の仕事は上手くいっていなくて、ちょっと後ろ向きではあるが、そういうときこそ地に足をつけて、やれることをやるしかない。

公務員を辞めようか迷ったら

 もし、公務員をやめようか迷っていてこれを読んでくださった方がいたら、参考になるかわからないが、辞めた今だからこそ言えることをお伝えしたい。公務員を辞めた後も自分の選択に自信をなくすことはあるし、公務員に戻りたくなることもあると思う。少なくとも私の場合はそうだった。だから、辞めるかどうか、悩んで悩んで、悩み抜いたらいいと思う。心身に支障が出ている場合は、いったん休職してしっかり休んで、その間にゆっくり考えてほしい。辞めるのは簡単だが、もとには戻れないので、いっときの感情に流されずに自分と向き合って考えてほしい。そのようにして決めたことであれば、たとえ辞めて辛いことがあっても、根っこの部分は揺らがないと思う。

最後に

 これが公務員を辞めて一年後のリアルな心境だ。さらに時間が経てば公務員でいた感覚はもっと薄れていき、また心境も変わっていくかもしれないが、おそらく今後も過去を振り返って複雑な気持ちになることはあると思う。過去を無理に忘れる必要はないけれど、過去にとらわれていても前に進めない。自分が本当の意味で公務員を辞めてよかったと心の底から思えるように、今を忙しく生きて、自分なりの正解を見つけていきたい。



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