見出し画像

コバルトのサプライチェーンに潜む人権リスク

本日は、コバルト採掘に関わる人権侵害についてお話したいと思います。コバルトは、スマホやパソコン、電気自動車(EV)のバッテリーに欠かすことができない希少金属です。脱炭素社会への移行に伴い、昨今、コバルトへの注目と需要が急速に高まっています。


コバルトは何の製品に使用されているのか?

コバルトは、スマホやパソコン、EVに欠かせないバッテリーの主要原材料として、エレクトロニクス産業で幅広く使用されています。

コバルトの主な生産地はどこか?

コバルトの主な生産地は、コンゴ民主共和国(DRC)です。2022年の世界全体のコバルト生産量は、19万8000トンです。そのうち、DRCの生産量は14万5000トンで、世界全体の生産量の7割強を占めています。また、世界のコバルトの約5分の4は、DRCに埋蔵されていると言われています。その他の産出国としては、オーストラリアやフィリピン、インドネシアなどが挙げられます。

コバルトの需要は今後どうなる?

2018年から2022年までの過去5年間において、世界全体のコバルトの需要は常に増加しています。脱炭素社会への移行に伴い、今後数年も増加傾向は続くことが予想されています。重要増加を主に牽引するのは、自動車業界です。自動車業界は温室効果ガス排出量の削減に向けてEVの生産台数を今後大幅に増やしていくため、それに伴いコバルトの需要も増加していくと考えられています。

出典:IEA

なぜ企業はコバルトの調達/サプライチェーンに注意を払う必要があるのか?

コバルトの採掘現場では、児童労働や有害金属への曝露による健康被害、環境汚染、地元住民の強制立ち退き、低過ぎる賃金設定による貧困、基本的な労働安全・衛生が整備されていないことなど、深刻かつ構造的な人権侵害が数多く発生しているからです。

特に注意が必要なのは、人力小規模採掘(Artisanal and Small-Scale Mining: ASM)と呼ばれる非正規の採掘方法によって集められたコバルトです。ASMは、工業化された大規模な採掘場とは異なり、ショベルや素手などの原始的な方法でコバルトを集めています。ASMは、労働者及び地域住民の安全と健康が確保されておらず、子供を含めた家族ぐるみで働く貧しい労働者が多いことから、人権リスクが非常に高いと言われています。DRCで生産されるコバルトの約15~30%はASMによって集められています。

また、児童労働について、米労働省は少なくとも2万5000人の子供がDRCのコバルト採掘場で働いていると推計しています。

仮にこのような人権侵害や児童労働に直接またはサプライチェーンを通じて間接的に関与していた場合、企業は重大なレピュテーションリスクやオペレーションリスク、規制リスクに晒されることになります。例えば、深刻なブランドまたは企業イメージの悪化による株価下落や、ストライキによる操業停止や生産量の低下、サステナビリティや輸出入関連規制による取引停止など、様々な負の影響を受ける可能性があります。

企業が人権侵害の関与を指摘された事例

過去には、2019年にアップル、テスラ、アルファベット、マイクロソフト、デル・テクノロジーズがDRCの採掘場で児童労働を助長したとして米人権保護団体「International Rights Advocates」によって提訴されています。

なぜ人権リスクを完全に排除することは難しいのか?

コバルトの採掘及び調達に関する人権リスクを排除するために、企業は自社のサプライチェーンからASMコバルトを排除するよう取り組んでいます。これにより、多くの企業が各社のホームページやサステナビリティレポートにおいて、自社がコバルト調達に関わる人権問題に関与していないことを主張しています。しかし、実態としてはサプライチェーンの上流において、仲介業者などを通じて、大規模開発により採掘されたコバルト(Large-Scale Ming: LSM)とASMコバルトが区別されずに出荷及び精製される場合があります。そのため、実際に調達するコバルトが人権侵害に関与していないかを確認することは、企業にとって難しい課題となっています。また、人権侵害はLSMでも発生しており、必ずしもASMコバルトの調達を回避しただけでは人権リスクを回避または低減しているとは言えません。

出典:PRI

企業に求められる対応とは?

企業は主に以下の取り組みを行い、コバルトの責任ある調達を推進することが求められています。

  • 責任あるコバルトの調達に向けたコミットメント及びその実行計画の開示

  • 人権リスクの評価と包括的な人権デューデリジェンス

  • 人権リスクの回避よりも、人権リスクの低減に向けた行動

  • 被害者への救済・補償の提供

  • 責任ある鉱物調達に向けた業界団やイニシアチブへの参加

参考文献

https://www.cobaltinstitute.org/wp-content/uploads/2023/08/Cobalt_Factsheet.pdf


よろしければサポートいただけると嬉しいです。記事作成の励みになります。