影響力を増すESG評価機関が抱える問題
企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)に関するパフォーマンスを評価するESG評価機関の影響力が増している中で、その評価機関の慣行に対するより厳しい監視、規制、改革の必要性が高まっています。本日は、ESG評価機関に対して規制の強化が検討されている理由についてお話したいと思います。
利益相反の問題
ESG評価機関のビジネスは、企業のESGに関するパフォーマンスを評価し、その評価結果を機関投資家に提供することです。このビジネスには、何ら利益相反の問題は生じません。しかし、一部のESG評価機関の中には、上記サービスと同時に、評価対象の企業に対してESGスコアの改善に向けたコンサルティング・サービスを提供している企業が存在します。これは利益相反に抵触する可能性があり、規制当局は公平性と信頼を確保するためにこのようなESG評価機関のサービス提供を禁止する必要があると言われています。
ESG評価が異なる問題
ESG評価は、ESG評価機関が異なれば、その評価結果も異なります。これは、異なるESG評価機関が同じ企業を評価する場合でも当てはまります。このことは、ESG評価を参考にしている評価対象企業や機関投資家に混乱をもたらしています。しかし、根本的な問題は、ESG評価の相違自体ではなく、なぜ評価が異なるのかということを第三者や外部が理解することが難しいことです。
なぜESG評価が異なるのか?
一つの正当な理由は、評価機関によって評価の目的が異なることです。評価機関の中には、企業が環境に与える影響を重要視する機関もあれば、自然環境の変化が企業の財務に与える影響を重要視する機関もあります。これらの違いは、明らかに異なる評価結果に繋がります。
また、ESG評価の利用者である機関投資家や評価対象企業と評価機関自身の両方が、評価の目的が異なれば、その結果も異なるということを十分に理解していないことも混乱を招いている要因の一つとなっています。
もう一つの正当な理由は、ESG評価が異なるデータに基づいて評価されていることです。仮に異なるESG評価機関が同じ目的かつ同じ手法で評価を行った場合でも、異なるデータを使用した場合、異なる結果が出てきます。2022年に発表された研究論文によると、ESG評価の相違の半分以上は入力データの違いによるものであることが示されてます。
問題の解決策はあるのか?
解決策としては、評価目的と評価方法の透明性を高めることが挙げられます。ESG評価機関がどのようにデータを収集しているのか、また、自社の評価目的に沿ってデータの収集や評価が行われているのか、をESG評価の利用者が確認できる状況を実現することが望まれます。
また、評価機関と利用者は共に、インパクト重視の評価と財務重視の評価を適切に区別する必要があります。例えば、財務重視のESG評価を使用して運用されるファンドは、サステナブル投資ファンドとして販売されるべきではなく、それは単に従来の投資ファンドに追加情報を考慮したことに過ぎないと考えられます。
機関投資家はこの問題にどう対応すべきか?
これらのESG評価の問題に適切に対応するために、機関投資家ができることとしては、複数のESG評価を併用することが重要であるとのことです。2021年に発表された研究論文によると、複数のESGデータを併用することで、データ内のノイズを除去することができるようです。また、一部の機関投資家は、自前のESG評価モデルを開発し、ESG評価の問題に対応しています。
規制当局に求められていることとは?
規制当局に期待されることは、ESG評価機関に対して画一的なESG評価手法を求めて、競争環境を損なわせることではありません。その代わりに、ESG評価の基礎となるようないくつかの重要なESG指標について、企業の情報開示を標準化する取り組みを進めることが期待されています。
また、ESG評価の対象企業が、ESG評価機関に対して質問や評価の基礎となるデータの誤りを指摘できる環境がまだ十分に整備されていません。そのため、規制当局は、ESG評価機関に対して、評価がどのように決定されたかを企業に説明し、質問等を受け付ける仕組みを作るよう促すことが期待されます。
参考文献
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