普通になりたい

きっかけは、以前からすきだったバンドのライブに行きたいと思ったことだった。

私は過去に一度だけ、それも10年以上前に一度だけライブに行ったことがある。でもそれからは行きたいと思ってチケットを取っても結局行けなくて、ライブに行ったことは無かった。

今回のライブは20周年に向けて再結成したバンドの20周年記念ライブ、しかも20周年イヤーが終わったら再び解散してしまうので、最初で最後のチャンスだった。解散前にも、行きたいと思ってキャンセルした悔しい思い出があるので、今回こそは絶対に行く！！と最初は私も思っていた。でも、実際に日にちや会場が告知されると、(これは自分には無理なんじゃないか…)と不安に思うきもちの方が強くなって、先行でチケットを申し込むのを諦めた。というか、ライブ自体、自分には無理だと思った。

私は普段引きこもりのような生活をしている。出かけるのは週に一回の外来と、たまに行くデイケアくらい。それ以外の外出でもコンビニや近場のお店にしか行かない。市外に出ることはまず無い。行きたいと思っていたライブは東京だったが、最後にいつ東京に行ったのかは思い出せない。
私は人混みがすごく苦手だ。日曜日のスーパーに行くのも人が多いから行きたくない。体力も全然無い。午前中デイケアに半日行ったあとは、夕方までずっと疲れて寝ていて、デイケアに行った日は他には何もできない。普段引きこもり生活をしていて、人混みが苦手なことと疲れやすいことの2点だけでも、ライブが難しいことは容易に想像できる。それでも、すきなバンドのライブ、それも最初で最後のチャンスだったから、行けないことがすごくショックだった。

それから私はずっと辛いきもちを引きずっていた。どうして私は自分がやりたいと思うことすらできないんだろう…SNSを見れば、誰かがライブに行った投稿がいくらでも出てくる。皆は普通にライブに行けているのに、どうして自分にはできないんだろう…皆が普通にできていることが自分にはできない…
考え始めると止まらなくなった。「普通」ができない自分がとても嫌になったし、普通ができないのは病気のせいなんじゃないか、って思った。引きこもりになったのも、病気を発症したからなんじゃないか、って思った。「普通になりたい」と思った。

私には妹がいる。仲は悪い。悪いというか、大人になってからは全く関わることもない。
妹はいたって普通だ。少なくとも私から見たら。私は精神障害で発達障害だが、妹は特に何の障害もなく、普通だ。私は心身を病んで大学を中退せざるを得なかったが、妹は普通に専門学校を卒業して就職したようだ(多分)。東京の専門学校に進学して、それからは一人暮らしをしている。高校生の頃からバイトをしていたり、車の免許(マニュアル)も持っている。一方私は、人生でバイトでも働いた経験は全くないし、免許は何も持っていない。持っているのは障害者手帳だけだ。最初にライブのことを書いたけれど、妹はすきなバンドのライブに何回か行ったことがあるようだ。私が10年以上前に一回ライブに行ったのも、妹の影響があった気がする。また、妹は服飾系の専門学校に進んだくらいで、昔からおしゃれな服を着たり、ネイルしたり、女子力も私よりずっと高かった。そんな妹と自分を比べては、ずっと劣等感やコンプレックスをかんじていた。 そんな私が唯一妹に勝てる、と思ったことは「痩せている」ことで、摂食障害の治療で体重が増えていくときは、「妹より体重が増えたくない」「妹より太りたくない」と思っていた。
どうして、同じ親から生まれたのに、きょうだいでこんなに違うんだろう、といつも思う。普通に生まれた妹と、障害者に生まれた私。障害者に生まれた自分は不幸だってずっと思っていた。