自分がいなくても回る会社で、もう少しだけ回ろうと思った。
「ああ、これはもうダメかもしれんなぁ」
そう思って、有給を急遽取った日があった。
有給を取らせて欲しい旨をなんとかメッセージで上司に送り、鉛のように重い体を引きずりながら、ベッドに寝転んだ。
「もう、このまま辞めてもいいかもなぁ」
これまで何度か頭のなかで浮かんだことはあっても、決して口にはしなかった言葉。
それを自然と口にしていた。
口にしたら現実味を帯びるのが怖くて。
だからこそ、口にしなかったのに。
それだけ自分の精神状態が限界に近づいていることを理解しながら、眠りについた。
♢
チーーン
目が覚めたきっかけは、会社のスマホのSMSだった。
Outlookのメッセージと違って、SMSの場合は別の着信音が鳴る。
午後三時。
気づけば6時間以上眠っていたようだ。
なんの連絡だろうか。
「上司から心配の連絡?」
「いや、あの人に限ってそんなメッセージを送ってくることはない。」
「じゃあ一体誰が?」
思考を巡らせるのも面倒で、回復したはずなのにまだ重たい体を叩き起こして、スマホを確認した。
「大丈夫か?最近辛そうだったからちょっと気になって連絡したんだけど」
メッセージは違う部署の先輩からだった。
実はこの先輩には以前自分の体調が良くないことや、会社で悩んでいることを打ち明けている。
ただ、部署も違うし、忙しそうだし、自分から話しかけるのは控えていたのだけれど……。
チーーン
僕が返す前に、先輩から次のメッセージが届いた。
「もしもお前の体調不良の原因がメンタルなら、俺も経験があるから辛い状況はよく理解できる。ゆっくり休めば良い。」
チーーン
「でも、これだけは覚えていて欲しい。今は全員が敵に見えるかもしれないけれど、お前の味方はたくさんいる。悩みがあればいつでも相談に乗るよ。1人じゃないからな」
自然と涙が溢れた。
自分は会社のなんてことない歯車の1つで、居ようが居まいが、会社は回っていく。
それは事実だと思う。組織ってそういうものだ。
でも。
そんな歯車の動きを気にしてくれる人もいるのだ。
軋んでいることに気づいて、油を刺してくれる人もいるのだ。
次の日になって、体の重さは軽減していた。
もう少しだけ、この会社で回ってみようと思えた。
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