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古道具とコトバ #3 がめ戸とは


"がめ戸"と呼ばれるものは皆さんご存じだろうか。


こちらは庄内地方の時代箪笥

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がめ戸とは箪笥のいち部分をさす呼称である。




すべての時代箪笥に備わっているものではないが、本州のわりとほとんどの地域でこの機能を備えた箪笥が普及した。


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画像の赤く囲った箇所が、がめ戸と呼ばれる部分だ施錠機能のある扉、中には小さな引出しが配置される


がめ戸の語源はいまいち解明されていない。
箪笥を紹介する古い書籍でもがめ戸の表記はないことがほとんど。


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ただ、僕を含め「古いモノを扱う店舗」ではよく使用されるコトバだ。
試しに「箪笥 がめ戸」と調べてみてほしい…僕と似たような古物商のECサイトばかりがサーチされるはず。


なお、画像にて紹介させていただいた箪笥は以下で確認できます。


※あまりポピュラーな固有名詞ではないため、当店では、がめ戸の呼称は行わないこととしている。

ちなみに、wikiにも"がめ戸"に関する記述はないのである。




僕は"がめ戸"という言葉の由来にふたつの仮説を立ててみた。




竈に戸とかいて"がめど"




竈はご飯を煮炊きをする場所。


我々の祖先は5世紀の頃には竈を手にしていた。
当初は竈は屋外の開けた場所にて作成された比較的簡易なモノだ。

近代に入ると竈はシステム化が進み、今の台所に近い形が出来上がった。

竈は暗い。
竈の仄暗さは裏側の世界に繋がると考えられていた。
人々は竈の中に神さまを見出し、祀ることで台所仕事の際、裏側の世界へ引っ張られてしまうことのないようにお願いをするのであった。



ここまでが前置き。
※竈=火を使う=火の神様を祀る、という考えも一般的だが今回のお話とは筋がずれるので割愛。



つまり"竈=仄暗い場所"という意味で竈戸(がめど)という言葉が発生したのではないだろうか。


また、がめ戸は他の引出しに比べ、はるかに後ろめたい作り…
もしかしたら収めたモノが裏側の世界に引っ張られるかもしれない。
そこを竈の字をあてることにより竈神さまの御加護をいただきたく考えた、(裏側の世界との仲介をお願いしたというのもあるのかも知れない。

ガメる・戸と書いて"がめど"




がめる、という言葉はご存知だろうか。

辞典やサイトによって意味合いのブレがあるが、基本は"盗む"という意味だ。

が・める
1 黙って自分の物にする。「タバコを―・」
デジタル大辞典


大してがめ戸は「ここに宝物が入ってますゼ」と言わんばかりの形状。


泥棒さんたちの間で「あの戸の中をガメたら…大儲けだぜ」という話題がトレンドとなり、そこから"ガメ戸"という言葉が生まれたのかもしれない。



以前お話しした"強盗-がんどう"のような波及のメソッドだ。






他の引出しに比べセキュリティが高いことも確かではあるため"ガメられたくない戸"であるだとか、"ガメられない戸"という意味なのかもしれない。




知らないこと(わからないこと)が残っているのは幸せだ




文頭にもあるように、さきに述べたふたつはがめ戸に関する僕の勝手な仮説だ。


古物を読み解く行為は、物質という枠だけが現存するジグソーパズル。

僕の論法は自ずの知識をピースに見立て、無理やりそれに嵌めているにすぎない。


…実際は知らないことだらけだ。


"知らないモノを販売する"
それは販売責任が問われる現代日本においてあってはならない行為だ。

しかし、古物商はその理から外れたところに身を置く生き物。
それに慢心せず、知りたい、知りたい、知りたい。


知らないことが残っているのなら、明日も、明後日も、何年経っても、僕は幸せだ。


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