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小説 だいだい色という彼女

彼女の部屋の小物はだいだい色で固められていた。

オレンジと言うと頬を膨らませて、違うの、と言った。僕には違いがわからない。

彼女がどうしてそこまでだいだい色という呼び方を好きでいるのか。

『小さい頃、背の高いお兄さんがね、言ったの。「赤も黄色も青も漢字なのにオレンジだけカタカナなのは仲間外れみたいで僕は苦手なんだ。だから、だいだい色って言ってるんだ。」って。』

幼い彼女はまだ名前も知らなかった、マリーゴールドを見ていた。そこに現れた、背の高いお兄さんがそう言ったらしい。

僕は悔しい。

そのお兄さんが言った言葉を忘れられず、だいだい色と今でも彼女が言っている、その事実が。

彼女に非はないし、そのお兄さんというやつはどうせ、彼女のことも彼女に言った言葉も覚えていない。

僕はずっと、背の高いお兄さんが言った、「だいだい色」を超えるための言葉を探し続けるのだろう。

名も顔も知らない彼女の想い出話の登場人物に嫉妬する、そんな僕を彼女は知らずに生きていく。

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