山梨・花火専門店 静かな夏物語
舞台は、手持ち花火、打ち上げ花火、線香花火など400種類もの花火を販売する山梨の小さな花火専門店。伝統的な花火大会がないこの夏、大切な人と一緒に花火を楽しもうと、多くの人がこの店を訪れます。カレーの香りがするユニークな花火を選ぶ家族や、お孫さんのために花火をまとめ買いする老夫婦もいます。カレーの香りがする個性的な花火を選ぶ家族や、孫のために花火をまとめ買いする老夫婦、高齢者施設の入居者と一緒に花火を楽しむ地域の介護士など、さまざまな人がいます。大切な人たちと静かな夏を過ごそうとする人たち。彼らはどんな思いで花火を眺めているのだろうか。
「ドキュメント72時間」とは?
ひとつの場所で72時間(3日間)をかけて、その場所のさまざまな人間模様を定点観測するドキュメンタリーです。
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ナレーション:それは はかなく 美しい。日本の夏を彩る花火。今回の舞台は山梨県にある小さな花火専門店。扱う種類は400以上。あらゆる花火がそろっている。お店があるのは江戸時代から打ち上げ花火で知られる花火の町。楽しみが少なかったこの夏。みんなどんな思いで花火をみつめたんだろう?三日間、その胸の内をきいてみた。
東京から車で二時間、やってきたのは山梨県 市川三郷町。その町外れに花火専門店がある。
⭐8月1日(日)11:00⭐
ナレーション:8月1日、日曜のお昼前から撮影開始。店内には花火がずらり。手持ち花火や打ち上げるタイプのもの。さらに変わり種もいっぱいある。あっ、お客さん。
男性客A:これは20~30mくらい?
店員:そうですね。20mくらい上がりますね
男性客A:手持ち花火は?
店員:手持ちの方は こちらは色が変化していく手持ち花火なんですね。変色は5変色10変色・・・あと、こちらに15変色20変色があるんですけど・・・
ナレーション:1本、だいたい数十円~。ばら売りなので選びがいがありそう。
男性客A:なかなか大きい花火大会も中止とかがあったりするから、家でも出来るようなのをやりたいなと思うので。
ナレーション:こちらのご夫婦、子どものために買いに来たらしいけど
男性客A:この辺の噴水系の花火がすごく面白そうなので。この花火は激しいみたいなんで。
聞き手:完全にお父さんの趣味?
男性客A:そうです(笑)
その妻:独断だね(笑)
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ナレーション:こちらは・・・
聞き手:お母さんとお子さん?
女性客A:息子といとこ。今度キャンプに行くから買いに来ようと思って。
聞き手:ご出身は?
女性客A:オーストラリア。花火ダメですよ、オーストラリアは。売ってないんです。多分、山火事が原因だと思うけど・・・
聞き手:乾燥してますもんね?
女性客A:そうですね
ナレーション:お隣の静岡県から珍しい花火を探しに来たという家族。
息子:水の上の花火だって
女性客A:何?!金魚?それは面白いじゃん。金属のバケツに入れるって。あと、このレーザー花火ほしいな。
聞き手:レーザー?
女性客A:すっごいすっごい眩しいんです。メロンソーダーの匂いならわかるけど、カレーの匂いの花火は気になるね。
聞き手:カレーの匂いがするんですか?
女性客A:そうですね。
聞き手:お母さん、予算はいくらですか?
女性客A:5000円です。でも、買い過ぎたよ・・・
ナレーション:これは、ついつい買い過ぎちゃうのもわかるかも・・・
聞き手:すみません突然。
女性客A:(笑顔で会釈)
⭐13:29(2H経過)⭐
ナレーション:甚平姿のお客さん。夫婦で来たみたい。
聞き手:たくさん買われるんですね
女性客B:(手持ち花火をたくさんつかんで)適当に買うよ(笑)
男性客B:すごいですから。孫の数が10人いるもんでね(笑)
ナレーション:孫のために花火をまとめ買い。車で一時間かけて来たらしい。
男性客B:ただ横浜の方に娘がいてね。本当は来たいんだけど、もう去年から(コロナ)関係で来れなくて・・・向こうはうんと寂しい思いをしてね。横浜の娘の方が(孫)3人かな。今度ここで花火を買って、よかったら横浜にも送ってやろうかと思って。
ナレーション:この夏も孫たちは全員揃わず、近くに住む家族との花火なんだそう。
店員:こちら21949円になります
ナレーション:凄い金額!お孫さん思いだなぁ・・・
男性客B:高校生になった女の子(孫)が人がたくさんいる中で会ってもね、大きく手を振って「じーじー」なんて手を振ってくれる。普通は恥ずかしくてね、できないよ(笑)。みんな孫のためです。
女性客B:なんだってみんな孫のためなんだから(笑)
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男性客C:(子どもを抱っこして)毎日 最近 花火は夜してるんで(笑顔)ちょっとずつ 2~3本ずつしてるんで。
その妻:なかなか(コロナで)外に連れて歩けないから家の中でストレスがたまりがち。
男性客C:この間、二人目の子が生まれて・・・
その妻:ちょうど(2歳の長女の)イヤイヤ期が重なって・・・思うように相手をしてあげられなかったり。やってあげたいんだけどすぐにやってあげられないとかっていうのが結構もどかしかったり。
男性客C:(花火で長女は)「キャッキャッ」言ってるんですけど・・・それを見ているのが幸せですね(笑顔)
⭐17:07(6H経過)⭐
ナレーション:夕方、四人連れのお客さん。
聞き手:ご家族で買いに来られたんですか?
男性客D:はい。
聞き手:(娘さん)いくつですか?
娘:中学3年生です
聞き手:息子さん?
男性客D:(息子は)高校3年生です
聞き手:すごい仲がいいですね?
男性客D:昔は(息子と)ひどかったですよ。仲良くなったのは最近です(笑顔)
聞き手:昔はどんな感じで?
男性客D:昔?昔はね・・・もう喧嘩はするわ 暴れるわで・・・家の中は見せられないな(笑)その爪痕が残ってるからね。
ナレーション:お父さんの仕事はトラックのドライバー。家をあけることが多く、反抗期の息子さんとは喧嘩が絶えなかったそう。
聞き手:お兄さんは反抗期のときは?
息子:暴れましたね(笑)暴れましたね。いや、ひどかったですね。本当に嫌で嫌でしかたなくて・・・なるべく家族とも顔を合わせないようにしてたんですけど・・・窮屈だったんじゃないですかね。あんまりよく分からないですけど・・・。
聞き手:ごかぞくで花火をやるのはいつぶりになりますか?
息子:覚えてないですね(笑)
娘:小学校低学年だったからね・・・
息子:覚えてないよ
母親:10年ぶりくらいかな・・・
ナレーション:およそ10年ぶり。花火は色々買ったけど、どんな感じでやるんだろう?
聞き手:もし今晩(花火を)やられるんだったら見せていただくことは?
家族一同:(爆笑)
母親:どうですか?お兄ちゃん見ていい?
息子:えっ?俺が決定権もってるの?
家族一同:(爆笑)
息子:みなさんがよければいいですよ
聞き手:いいですか?ありがとうございます。
⭐20:29(9H経過)⭐
ナレーション:日没後、ご自宅にうかがった。
男性客D家族が自宅裏へ
男性客D:パパのおみくじ(花火)は何色だろう?
娘:あっ、緑。
男性客D:これ、緑か?
娘:それ多分、小吉だわ。私のは赤だから凶か。
家族一同:(爆笑)
ナレーション:楽しそうなお父さん。聞けば、息子さんとの関係が良くなったとはちょっと訳があったそう。
男性客D:自分もちょっと仕事のリズムを変えて、週末に家にいられるようなリズムに変えたらだいぶ良くなりました。(息子と)会話はないんですよ。同じ環境に時間に家にいるっていうのがだいぶ本人たち的にも安心したというか・・・
ナレーション:久しぶりの家族水入らずの花火。だけど今年、息子さんは高校3年生に。
聞き手:お兄さんは進学ですか?
息子:そうですね。関東圏のどこかほかの所へ行こうかなと考えが。(家族で花火は)最後かもしれないですけどね。
母親:きっと意外と(息子は)帰ってくるんじゃなかろうかと(笑)
息子:なんだかんだ言って山梨好きなんで。戻ってくるんじゃないですか。やっぱ、育った町って愛着わくじゃないですか。(目を両手で一瞬覆って)嫌だな。
家族一同:(爆笑)
息子:俺 こんなこと言うタイプじゃないのに(笑)
ナレーション:一緒に花火をみつめる。それだけで少し素直になれるのかな?
⭐8月2日(月)8;55(21H経過)⭐
ナレーション:撮影二日目。この季節はお店の開店が早まることも。
店主:早いお客さんはもう9時半ごろ、いやそうでもないな。もっと前にこうした爆竹が欲しいとか・・・ロケットが欲しいとか。鳥獣をちょっと追い払うみたいな・・・
聞き手:鳥獣ですか・・・
店主:そうそう(笑)
⭐11:18(24H経過)⭐
ナレーション:11時過ぎ、子どもたちがやってきた。
聞き手:3人兄弟ですか?
兄:うん。
聞き手:今年は結構(花火)やってる?
妹:毎年よくやってる(笑顔)
兄:(妹を指さして)ビビってるけど(笑)
聞き手:(笑う)
妹:『誰も来ないで~』ってやってる(笑)
聞き手:好きな花火っていうのは?
妹:色が変わる花火が好き。
弟:前、花火を取りっこしてた。
兄:(花火の時間が)長いやつとか喧嘩するよね
ナレーション:地元の子どもにはここは夏休みの定番スポットらしい。
⭐12:06(25H経過)⭐
ナレーション:お昼ごろ、若い男性客がひとりやってきた
男性客E:施設の方でちょっと花火をお願いしようと思いまして。
ナレーション:施設?どういうこと?
男性客E:介護老人ホーム施設のほうで。少しでも(入居者に)夏っていうのを味わってほしいので(笑顔)だからちょっと花火をしてあげようかなと思いまして。
店員:こういう感じの内容でナイアガラがふたつ。あとは噴水をそれぞれ8本を7種類ずつで56本・・・
ナレーション:隣町の介護施設で働いている介護士。入居者に花火を楽しんでもらうみたい。
聞き手:大変じゃないですか 介護のお仕事?
男性客E:ですねぇ・・・ちょっと大変ですけど・・・すごいやりがいはありますよ。
聞き手:やりがいありますか?
男性客E:ありますよ。ちょっとしたことで「ありがとう」って言ってくれるのがやっぱりかなりやりがいがあります(笑顔)
聞き手:(介護士になる)きっかけがあった?
男性客E:きっかけは、自分の父親が認知症になっちゃって・・・自分が高校2年生ですね。結構 家族の名前を忘れちゃう。顔を見れば何かちょっとにっこりはするんですけど、最近はうまくしゃべることもしなくなっちゃって。
ナレーション:この頃、ふと思い出すのは元気だったころの父親の姿だそう。
男性客E:(父親は)職人さんだったんで・・・左官職人だったんで。結構厳しかった(笑)テストの点数も悪かったし、よく怒られて。
聞き手:花火とかした思い出はありますか?
男性客E:しましたね。ちっちゃいときとかはよく花火をしましたね。
聞き手:お父さんとお母さんと?
男性客E:しましたね。これがあってこそ夏だな的な感じがありましたね。
ナレーション:みんなにもきっと夏を感じてもらえるはず。
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男性客F:ホテルでお客様にその日の夜、玄関前で花火を楽しんでもらってるんです。うちで花火屋台っていうのを作ってそこで販売してるんです。
聞き手:今、コロナでホテルも大変なんじゃないですか?
男性客F:厳しいですね。例年の半分以下ですね、お客様が。でもお客様が喜んでくださってますからね。
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男性客G:よ~し、買うぞ!
ナレーション:おっ、買う気まんまんのお客さん。
男性客G:これ昔ながらのはやっぱり子どもたち知らんがな。それも広がるよ タコみたいになる。この花火は回るだけ。これは飛ぶやつね。
聞き手:花火、詳しいですね?
男性客G:詳しいんですよ。地元の出身なんで花火はもう昔から。だけど7歳の子にはわからないんでね。だからそういうのも子どもに教えてあげたいなっていうところで。
聞き手:お子さんですか?
男性客G:そうです(笑)(子どもに手を差し伸べて)お子さんです はい さくらちゃん。
聞き手:7歳なんですね
男性客G:うち7人いるんですよ 子どもが。
ナレーション:子だくさんのお父さん。お店にも長年通う常連さんらしい。
聞き手:おとうさんは何のご職業?
男性客G:湯かん師って知ってますか?
聞き手:湯かん師?どういう・・・?
男性客G:湯かん師、納棺師って知らないですかね?
聞き手:納棺師はわかります
男性客G:湯かんっていって亡くなった方をきれいに体を洗って お化粧したりね。いつもはこんな格好じゃないですよ(笑)髪型もイキってますけど・・・
聞き手:いでたちからは想像つかない仕事。
男性客G:見た目はちょっとチンピラっぽいですけど(笑)花火、祭りが好きな奴は大体チンピラなんですよ。正直ぶっちゃけて言いますけど(笑)
ナレーション:これは気になる所がたくさんある。
⭐19:36(32H経過)⭐
ナレーション:許可をもらってご自宅におじゃました。
男性客G:花火を回してみて。さくら、ぐるぐる回して 早く。
ナレーション:男性が家族との時間を大事にするのは納棺師の仕事とも関係があるんだそう。
男性客G:もう毎日緊張です。最期の最期に携わるところ。一生に一度ですからね。先代、先々代がなければ僕らは存在しないわけで。だからそこを大事にできない人は子どもも家族も大事にできないですよね。この子たちにも受け継ぐ花火の楽しさを自分たちの子どもにもね教えてほしいなっていうだけですよね。
息子:(手を振りながら)また来てね~バイバイ。
男性客G:市川三郷、バンザイ!花火、バンザイ!
⭐8月3日(火)8:40(45H経過)⭐
ナレーション:撮影3日目。お昼過ぎ
女性客:打ち上げ花火は?
店員:打ち上げ奥の方に・・・後ろの棚が打ち上げ花火ですね。
聞き手:今日、初めていらっしゃった?
女性客:初めてです。
聞き手:そんな感じですよね
女性客:山梨県内で明日ちょっとキャンプに行くので。(娘を抱きしめて)夏休み前にこの子と打ち合わせをして。スイカ割り、花火、虫取り、川遊びとか。多分50個くらいあるんですけど、それを全部叶えるんです。今年の夏休みに(笑)
ナレーション:親と娘を連れて来た女性。かなり計画的な夏休みのよう。
聞き手:娘さん今、何年生ですか?
女性客:小学3年生です。この子は多分花火をほとんどやったことないです。
聞き手:花火はあまり今まで?
女性客:やったことないです
ナレーション:聞けば、ここが地元なのに珍しい。
女性客:この子が1歳とかそのぐらいから私、働かなきゃいけないから。夜勤とかやったりとかしながら じぃじ、ばぁばにずっと面倒見てもらってたから。シングルマザーです。はい、そうなんです。なおさらすべて叶えてあけたいです。(娘の)いろんな思いをね・・・彼女の。
ナレーション:看護師の仕事と子育ての慌ただしい毎日の中、ようやく休みがとれたんだって。
聞き手:じゃぁ、楽しみですね?
女性客:楽しみです(笑顔)いい思い出にします!楽しむぞ!ですよ
聞き手:すみません、ありがとうございました
ナレーション:娘さんに負けない笑顔を見せて女性はお店をあとにした。
⭐14:05(51H経過)⭐
ナレーション:午後。
店員:香り花火っていいまして封を開けると香りがするんですよ。カレーの匂いはてっぱんですね
男性客H:カレーはてっぱんぽいですよね。山梨っていったら桃だよね。じゃぁこの2点買いでいきますね。
店員:これはやっていただきたいというのがこの九州炭火ですね。
男性客H:あっ、いっちゃいましょうこれ。
店員:本当に僕 初めてやったとき感動しちゃって。
男性客H:プレゼン上手いですね(笑)
ナレーション:のせられるままに次々に花火を買うお客がいた。
男性客H:今日は夜勤で患者さんと花火しようと思って買ってました。
聞き手:お医者さん?
男性客H:看護師です。内科なんですけど、緩和ケアのある所なんですけど。癌の末期のというか終末期医療をしていますね。
ナレーション:近くの診療所で働いている看護師。患者さんのためにと夜勤前に立ち寄ったそう。
男性客H:匂いの花火なんて多分知らないと思うので。新しいものにチャレンジもいいじゃないですか。今日、花火やってもしかしたら明日さよならかもしれないし。だから一瞬一瞬を大事にできることをやりたいなって思って。
ナレーション:一瞬、一瞬を大事に。そう思ったのはある出来事がきっかけという。
男性客H:自分が看護師になってから父親をみとったときに あっ、ご家族さんってこんな思いだったんだっていうのを・・・もう話ができないんだなとか、もう手が冷たいんだなとか。この感覚が分かっていた気になっていたことがちょっと恥ずかしいっていうか。申し訳なかったな。体がだんだん動かなくなっても最期亡くなる瞬間もその人の生き様だから。かけがいないなって。
ナレーション:その日の夜、
男性客H:さぁ皆さん、もうメインイベントですよ。
打ち上げ花火に歓声を上げる一同
男性客H:(患者に手持ち花火を私ながら)はい、どうぞ桃。あっ、桃の匂いがすごい!
女性の看護師:甘い匂いがするね
男性客H:(花火を患者に渡しながら)九州花火、少し斜め上で。
ナレーション:看護師の男性はひときわ大声で花火を盛り上げていた
男性客H:(患者にマイクを向けてインタビューするように)いかがでしたか?
患者A:すばらしいですね(笑顔)
一同:(爆笑)
患者B:大変きれいでした
一同:(拍手)
男性客H:きれいに咲いて消えるから なくなるから(花火は)そこがいいんじゃないですかね。ずっと輝いてたら飽きちゃうでしょ(笑)
日々観た映画の感想を綴っております。お勧めの作品のみ紹介していこうと思っております。