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2023年8月号ウルトラジャンプ掲載特別読切「3PB7/6」に寄せて

お久しぶりです。今回の記事はいつもとは趣向が異なり、とある読切短編漫画の感想になります。ネタバレを多く含み、また個人的な解釈込みでの記事となりますことをご了承の上、お進みください。

少しだけ、自分語りを。

私はかれこれ8、9年ほど前、初めて描いた同人誌から広がった人間関係の中で、円満堂氏と知り合った。当時からかなり濃い読み味の漫画を描いていた人だった、正直、今回の雑誌掲載も、当時の氏の創作のエネルギーの強さにも、圧倒されるとともに、嫉妬したものだった。

正直、「異彩」そして「鬼才」。

まずはこちらのツイートからご覧いただきたい。作者、円満堂氏のtwitterより引用。

この3ページ分を見てもらえれば分かる通り、特に1ページ目3コマ目、意識が朦朧とした中から覚醒してゆく表現、そして他者の声が頭に入り込んでくる様子をなかなか見ない圧迫感で表現している。この表現は、限りなく一人称的表現で迫って来る。そして目の描き方も独特だ。青年誌ウルトラジャンプにおいてかなり異彩を放った画風から、僕たちはこの漫画に取り込まれてゆくことになる。

この物語の構造、原型自体はある種の王道、ある逃避行の思い出、夢かもしれない出来事、そういったタイプの短編だ。しかし、漫画としては短くはないもののジャンプ系大きいコマ割りでは十分に長いとも言えない47ページの中で、ありとあらゆる表現について遅効性の毒の様に伏線とその回収が付いて回る。この緻密な物語の作りこみが、円満堂氏の描く漫画の魅力の一つだろう。

そして、僕たちは滑らかな環のように二週目を読み始める。

伏線とその回収が大きな味わいとなっているこの作品、今回の読み切りでは物語のギミックとなる部分をまず第一に感じ取ることが出来るが、その他にも細かな伏線が張られている事に気が付くだろう。そうなれば、一つ一つのセリフ、コマを確認して、その言葉の裏の意味を嗅ぎ取ることになる。そうなれば自ずと「3PB7/6」というタイトルにも目が届く。あまりに妙なタイトルだ。9と4/3番線ではないのだから。2.5PBではない事によって少々調べるのに手間取ったが、とても儚く、わずかに褪せた良い色だった。思い出の中の海のような。よく見れば、初めに引用したツイートでは「3PB7/6」ではなく「3PB 7/6」、半角スペースが開けられているのだ。なるほどね。アオじゃなくて、少しアカが混じって、パープルブルーになった色、多分この色が貯金箱に巻かれているんだろう。

個人的に好きだったポイント。

甘い卵焼きに入れる砂糖は、しょっぱい卵焼きに入れる塩よりかなり多いってこと。この視点、めちゃめちゃに好きだった。そこかよ、なんて言わないで。こういうところにも惚れさせてくれるのが、この漫画のいいところなんじゃないか。

最後に、円満堂氏に。

今まで見せてもらったどの漫画よりも、魂を燃やして、注ぎ込んで、筆を滑らせたものだった様に感じました。本当のところ、悔しいし、最高に光り輝いていると思います。多分、歴史に名を遺す漫画家の一人になることも、もはや夢ではなく、目標として見える距離に居ると思います。私から言えることはほとんどありません。あるとするなら、ある日、自分の魂が燃えなくなることがあります。ものを書いていれば、多くの人が行き遭う怪物です。私はかれこれ数年その怪物と連れ添っていますが、先日、お座りを覚えました。もし似た怪物と、出遭ったならば、落ち着いて、思い出してください。
「この怪物は、お座りを覚える」と。

いつもはこの後に寄付のお知らせを記事に付けているのですが、今回はいつものエッセイとは趣向が異なるため、ここで記事を締めさせていただきます。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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