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競争戦略論[Ⅰ]を読む - ④ 急成長している業界が魅力的に見えること

さあ、水曜日だ。
毎週水曜日はマイケル・ポーター著「競争戦略論」をベースに、ボクの気づきや思考をアウトプットするシリーズを展開している。

先週は「収益性に影響する5つの競争要因」という記事を書いたが、今週は「急成長している業界が魅力的に見えること」について書いていこうと思う。


急成長している業界で起きること

さて、先週の5つの競争要因は、個々の企業だけでなく、その業界の長期的な収益性にも影響する。それは、その業界が生み出す経済価値の内、その業界内の企業がどれくらい利益を確保し、逆に顧客やサプライヤーがその利益を持ち去るか、もしくは代替品や新規参入者によって利益が抑え込まれるか、という利益分配が発生するからだ。その中で、戦略担当者(経営戦略を進める部署の人たち)は、その業界で目につきやすい特定のファクターを競争要因と誤解してしまうことがある。

まず、多くの人が誤解してしまうのは、急成長している業界が魅力的に見えてしまう点だ。

企業の競争とは「自社の収益性が、業界の平均に対してどのくらいのポジションにいるかを可視化して、そのポジションを上げていくこと」だ。自業界が他の業界に比べて成長しているという事実が、あなたの会社のその業界の中での優位性を担保してくれるわけではないのだ。

業界全体が成長しているということは、その業界内の誰にでも平等にチャンスが与えられる(そのチャンスを活かせるかどうかは別だが…)ということになる。そして参入障壁が低ければ、外から見たときに魅力的に見えることによって、大量の(ひょっとすると強力な資金力を持った)新規参入者が登場する可能性も高くなる。また、業界が魅力的であれば、そこに代替品を投入することで収益を上げようと考える企業も現れる。

物流業界を例に取ると…

度々物流業界を引き合いに出して恐縮だが…
まさに現在の物流業界がこの様相を呈している。

2022年9月2日に、経済産業省・国土交通省・農林水産省が共同で出した「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」という資料によると、国内の貨物輸送量はほぼ横ばいから下降傾向となっている。

出典: https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/001_02_00.pdf

その物流業界の中で、宅配便だけは見ての通り(下記の資料は2023年12月のもの)右肩上がりだ。

出典: https://www.lnews.jp/2023/12/p1219503.html

既存の宅配を主流とする運送会社の多くは、業界(EC業界)が伸びていることで安心している。その多くは自社の業界内のポジションなど気にしたこともない旧態依然の会社だ。しかし、そこにこれまで宅配を主流としていなかった資金力を持った運送会社が参入してきている。さらに全く新しい視点を持った異業種企業が参入してきている。彼らもまた「宅配ビジネス」という業界の中で優位性を勝ち取ろうという意気込みと覚悟を持って参入しているのだ。(まあ、業界が魅力的に見えるので「なんか良さそう」というレベルで参入してくる企業も多いが…)

サプライヤーの交渉力

そして、宅配に関係する運送以外の業界にも変化が起きている。
まずは倉庫だ。以前は東京都内でも町中に50坪程度の平屋の倉庫があちこちに存在していたが、最近はそういった倉庫はマンションなどに建て替えられ、その代わりに郊外に数千坪で複層階の大型の物流センターが乱立するようになった。

MFLP(三井不動産ロジスティクス・パーク)船橋

宅配便の伸びはECの伸びと連動している。

ECにおいて、受注をスムーズに宅配に繋げ、顧客満足度を高めるためには、そこに特化した倉庫(フルフィルメントセンター)の方が都合がよい。なので、フルフィルメントに対応しやすい(つまり、大量在庫を持つことができ、仕分けや梱包のための大規模なマテハンを置くことができ、トラックの離発着がしやすい)大型の施設の方が有利なのだ。それによって宅配事業者は図らずも行動の変化を余儀なくさせられている。

また、宅配ビジネスを効率よく進めるための、各種システム開発も次々と進められている。配送をサポートするもの、ドライバーの時間管理をサポートするもの、ドライバーの体調管理をサポートするもの、車両のメンテナンスをサポートするもの…など、数え上げれば枚挙に暇がない。こういった便利そうなシステムも魅力的だ…

しかし、それらは先週の記事で書いた「サプライヤーの交渉力が高まっている」状況であると言える。この記事の冒頭で書いた通り、サプライヤーが宅配業界の利益を持ち去ろうとしているのである。それは悪いことではない。ある意味自然の摂理だ。しかし、そういったサプライヤーが提供する様々なサービスを導入することによって、あなたの会社があなたの業界の中で優位性を上げることができるのか、はたまた下げてしまうのかは、それらのサービスを利用するあなた次第だ。

顧客の交渉力

買い手側の交渉力も変化する
この場合の「買い手(顧客)」とはEC事業者だ。EC事業者が自社商品の配送を行ってくれる労働力を買っているのだ。

宅配便の伸びは、間違いなくECの伸びと連動している。つまり買い手側に圧倒的な優位性があり、そしてスイッチングコストも安いというのが、宅配ビジネスという業界の現状だ。

話が物流に寄り過ぎた…
業界の競争を形成する要因を理解したところで、来週はどのように戦略を立てるべきかというところに踏み込んでいこうと思う。


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