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Jynn Sekoiお誕生日配信・ゲストまとめ邦訳

2021年5月1日(日本時間5月2日)。著作権上の理由により、『Ghost of Tsushima』の主人公・境井仁とは別キャラであることをその都度お含みおきいただかねばならない、そして英語ではJynn Sekoiと書いてジン・サカイと読ませるところの境井仁が、ダイスケ・ツジのTwitchチャンネルにおいて自身のお誕生日記念配信を執り行った。クイズ大会、プレゼント企画、ファンとの『Legends』プレイ等で愉快なひと時を過ごしつつも、直接の友人知人が誰も招待に応じてくれなかったことを気に病んでいた冥人は、ついに彼らが自分の誕生日を覚えているか確かめるため、ダイスケ・ツジのスマホを手にとるのだった……。以下は実際のオリジナル版キャストとスタッフ出演による『Tsushima』劇場の邦訳である(Twitchリンク先に配信ハイライト映像あり)。


◆コトゥン編: なぜかおたおめコール一番乗り

視聴者へのプレゼント用サインにスペシャルなハイクをひねろうとする境井仁。その時ダイスケ・ツジの携帯にかかってくるコール。始めこそ「大した用ではないゆえ気にするな」と無視していたものの、観念して応答してみると、

境井仁、以下J: ……もしもし。今取り込み中なのだが?

コトゥン、以下K: コトゥンだ。コトゥン・ハーンだ。

J: 承知しておる。この代物は発信元がどいつか教えてくれるのでな。お主の名が見えておったぞ。

K: 我が首を落とした相手とはいえ、誕生祝いを申しておこうと思うてな。

J: いらぬ。結構だ。遠慮する。何ゆえ俺の誕生日を知っておる?

K: 貴様が誕生日を祝っている間、我が何をしていたと思う。学んだのだ。それまでのことよ。

J: (ため息をついて)またあの話か。何度繰り返すつもりなのだ、「学んだのだ」を。我らのすべて、言葉も学んだのであろ。

K: 我からの進物は受け取ったか?

J: いいや。何だ、何を寄越したと言うのだ?

K: 飲み物よ。

J: 何だ? 言いっぱなしにする気か?

K: ああ、特別な飲み物を用意したのだ。

J: 特別な飲み物? 毒か!

K: (突然)実は我はコトゥンにあらず、いとこのフビライぞ。貴様はいとこの首を刎ねたな。怒りのあまりコトゥンの電話を使ってかけたのだ。はっは!

J: なんだと!? フビライなのか!? 左様、お主らを大勢始末したゆえ何奴のことか失念しておったが、コトゥンであったか。確かに彼奴は俺が成敗した。死んだはずの男がどうして電話をかけてこられたのか、訝しむべきであった。なるほど、コトゥンではなくいとこのフビライか。

K: コトゥンかもしれぬし、フビライかもしれぬな。

J: (逆上して)どっちなのだ!?

K: さてどうやってわかるかな。当ててみるがいい。

J: 貴様らの声は皆同じように聞こえるゆえ判別がつかんのだが、元いた時代とは異なる今、そう言うたら俺がレイシストになってしまう。1274年とは違うのだ、あえて口には出すまい。だが確かに声は似ておるな。フビライかコトゥンか知らぬが、かかってこい!

K: 誕生日の進物を送っておく。

J: いらん!! いらんからな!! 受け取り拒否! 受け取り拒否だ! さらば。いらんと言うに!! 我らは友にあらず! 何? 貴様の進物などいるか!! 貴様は好かん、我らは敵なのだぞ! さらばだ!! (深いため息)……心を乱されて、ハイクもしたためられなくなってしもうたではないか!

(コトゥン役パトリック・ギャラガーのゲスト回抄訳はこちら)



◆安達晴信編: 酒甕のうちの豪傑

ハーンとの心洗われぬやりとりから気を取り直し、視聴者と『Legends』奇譚プレイを楽しんだ仁であったが、ふと浮かない顔に。

J: 愉快なひと時であったし、新たな友を得たが……正直、古き馴染みのことも懐かしくなってきてしもうたな。如何しているであろうか……。実は誕生日の祝いに招待したのだが、ひとりとして来てもらえなんだ。何故かはわからぬ。狐や鳥を使いに出してみたのだが──梨のつぶてであったのだ(しばしうつむく)。だが、コトゥン・ハーンがダイスケの電話越しに連絡してこられるのなら、俺からもこの、ダイスケが残していった電話で旧友たちに連絡できるのではあるまいか。どうであろう。……む? 待てよ。ダイスケがこの御仁の番号を知っておったとは。かけてみよう。生き残れなんだはずなのだが……。

??: (コール音のあと)もしもし。

J: もしもし。……待て、電話をとったわけか。そこもとは何方か。

??: 我こそは安達晴信、かの安達義信が末葉よ。助太刀が必要か?

J: 安達殿!! 加勢は間に合っておりますが、一体いかにして──私はこの目でしかと安達殿がヒバチのごとく、否! 一般的な意味で、命取りになること必定な炎に包まれるのを見届けたはず。しかるのち、首を飛ばされた覚えはあるのですが。

安達晴信、以下A: 左様。儂も後になって知ったのだがな、お主の知己たる堅ニが我が首を回収し、儂が今いるこの、酒を満たした器の中に収めたらしいのだ。我が首は甕の中に浮かんでおる。

J: つまり今、あなたは生首だけになっておられるのですか?

A: 然り。体は焼け、灰となり果ててしもうたゆえな。

J: 確かに。しかし首だけの安達殿とは。いや、実は此方で『フューチャーレマ』 やら申す番組を見かけましてな、その中でも同じようなものがあったのです(訳注:『フューチャーラマ』は『シンプソンズ』のクリエイターが手がけたSFシットコム・アニメシリーズ。物語中、過去の偉人・著名人がDNA技術で首だけ再生され保存されている。ちなみに安達政子役ローレン・トムの代表作のひとつ)。

A: 左様なものは確かにある、うむ。

J: 歴史的にも正しく、ありうることですな。しかし何としたことか、度肝を抜かれましたぞ。お懐かしゅうございます、安達殿!

A: うむ、うむ。お主も、お主の一族の面々もこぞって懐かしゅうてならぬ。一体何時ぶりになるか。

J: ええ、我が一族は……いまだ意気軒高にございまするぞ。

A: 左様か、何よりだ。我が心のうちで大切に思うておるでな。

J: はい。しかし甕のうちにおいでならば、そうそう身動きもままなりませぬな。

A: まあな、ときに我が妻は如何しておる?

J: 奥方ですか、奥方は……左様、一時よりは達者になられた、といったところかと。その、ご想像に難くなきことと存じますが、お身内を大勢亡くされまして。私も奥方の仇討ちと申しますか、意趣返しにいささかの助太刀をした次第なのです。

A: おお! 左様な仕儀であったか。

J: はっ。ちなみにかいつまんでお知らせいたしますと、奥方の姉君が安達殿の一族郎党を根だやしにしておりましたぞ。

A: あやつは昔から虫が好かなんだ。わかっておったぞ。義理の姉などと申すものは、災いの種なのだ。儂の勘は当たっていたようだな。

J: いかにも、義理の血縁などろくなものではございませぬよ。左様ではありませぬか?

A: うむうむ、相違ない。はっはっはっは!!

J: やっはっはっはっは!!(目が笑ってない) この種の笑いを共にできて嬉しゅうございますぞ。ときに、安達殿はいわば我がセンパイ。これまでも多くを学ばせていただいたわけですが、(不意に頭上をきっと見上げて)何事だ!? ご無礼つかまつった、何やら飛来するものが。火槍か何かかと思いましてな。おそらく当地で「へりこぷたー」とやら呼びならわされておるものでしょう。驚かされました──さて、センパイには学ぶところが多いわけですが、同時に昔から朋輩のごとく感じてもおりましてな。遊び仲間とまではいかずとも、近しい間柄ではあったわけで。

A: うむ、然り。まあそうだな。

J: そこでです──本日は何やらこう、誰やらの格別な日というような気が、して参ったりは致しませぬか??

A: ふむ、儂に言わせれば日ごとが格別な一日ぞ。ことに今、甕の中に浮かぶ生首になってからというもの、学んだのだ。毎日を今生最期の一日のごとく心得ねばと。いつ酒の甕のうちに浮かぶ身の上になるやも知れぬのだからな。まこと、一日一日が格別よ。本日はなおさらに。

J: しかし、毎日が格別ならば、一日一日が大して格別ではなくなってしまうのでは?

A: うむ、左様な言い方も出来よう。ま、我が先祖、何代前かは忘れてしもうたのだが、安達義信も申しておった。良いか。それもまた人生よ。

J: (素で吹き出しつつ)それはまた金言ですなあ。

A: (一緒に吹き出しつつ)義信は剣の達人ではあったものの、話術の達人ではなくてな。

J: では当代の安達殿が残すべき新たな名言といわば、「甕の酒はまだ半分もあると心得よ」といった具合になりましょうや。

A: うむ。甕の中に頭が浮かんでおる場合は、ことにな。

J: (笑)それは最低半分は酒が入っておらぬと、安達殿がお困りになるからで?

A: うむ、左様。でなくば儂、少々干からびてしまうゆえ。

J: ということは、始終酩酊しておられる?

A: 若干ではあるがな。おかげで本当に痛みが和らぐのだぞ。

J: 首の痛みがですか、それはようございました。

A: ふむ、ではこんなところかな。お主はお主で、他の日々同様の格別な一日を過ごせよ。今日のこの日に格別なことがないというわけではなくな。お主からの音信、重畳であったぞ、仁。

J: 此方こそ。安達殿はお亡くなりになったものと思うておりましたので、祝着の極みでございました。

A: まあ達者にやっておるぞ。現代の「てくのろじー」が発展し、そうさな、この首をすげ直すための機械の骨格を開発してくれる時を待ち望んでおるところよ。

J: その時こそ安達殿の完全復活が成るのですな。

A: 応、そのつもりよ。

J: 想像するだに恐ろしくはありますが、手強き敵手とおなりでしょう。安達殿はお味方ですので、手合わせするわけではございませぬが。

A: いかにも、儂は全対馬いちの剣士であったゆえ。

J: 相違ございませぬな、まさに対馬いちの剣士であらせられた。それだけに、ああもたやすくコトゥン・ハーンに敗れる様を目の当たりにしたは、無念至極にございました。ただし──

A: うむ、左様。彼奴は誉など皆無の男であったな。

J: まったく、まったく。誉なき外道でございまする。ちなみに彼奴めから先程電話がありましてな、しつこく嫌がらせをして参ったのです。何たる下衆か。

A: うむ。よし、ではな、常のごとき一日を過ごすのだぞ。

J: はは、常のごとくに。何しろ一日一日が格別なのですから。

A: 然り。では息災でな。

J: ご機嫌よう、安達殿。これにて失礼つかまつります。(通話終了)…………安達殿は俺の誕生日を覚えておらなんだな……。他には誰の番号が入っておるのか、見てみるとするか。誰かしらは俺の誕生日を忘れておらぬはず……。

(安達晴信役フェオドール・チンのゲスト回抄訳はこちら)



◆石川先生編: 国勢調査員・境井仁

J: (番号をタップして)さあどうなる。この御仁にはむしろ連絡を取りとうないのだがなぁ。……もしもし?

石川、以下I: もしもし(日本語)、こちらは石川センセイだが?

J: 石川先生、お久しぶりです(安達殿相手に比べ、かなり緊張した日本語で)。無沙汰をいたしました。

I: 何だお主か、境井。

J: はっ、境井仁にござります。お変わりありませぬか。

I: それなりよ。何用で電話なぞかけて参った、修行に勤しんでいるはずでは?

J: !! は……電話を差し上げましたのは、そのぉ……そう! また別の浮世草がございましてな! 重大極まりない任務で、差し支えなくば先生のお力添えをお願いできぬものかと。

I: 申してみるがよい。

J: 任務と申しますのは、対馬に暮らす皆の誕生日を調べるというものでしてな。21世紀のアメリカで行われている、「国勢調査」なる代物です。

I: ふん。

J: 士気を高めるためにも、物資は適材適所に行き渡らせねばならぬでしょう? 皆のところを回って、互いの誕生日を教え合えば対馬を盛り立てる一助となりますので、まずは先生から如何でしょう。先生のお誕生日は?

I: ふーむ。境井よ。お主、儂がいま手持ち無沙汰だとでも思っておるのか? (鼻で笑って)誕生日と言えば、儂からも任務がある。

J: 左様なのですか?

I: うむ。お主、ハーンの誕生日が何時か探って参れ。

J: 何と!

I: 儂が彼奴めに不意打ちを仕掛けられるようにな。ハーン本人から直接聞くのだぞ、できるか、境井。

J: はっ。心得ましたが、あえてハーンの誕生日を指定されたは何ゆえのことで? 彼奴めに一泡吹かせようというおつもりか。

I: 先程言うたではないか、不意打ちよ。我らで誕生日に奇襲攻撃をかけるのだ。良き策であろう。

J: ハーンめに奇襲を! なるほど……なるほど! それは妙案にございますな!

I: 合点が行ったようだな。

J: はい、その傍ら、先生への不意打ちもまた妙案かと。おお、それにこの私の誕生日への不意打ちでも良うございまするぞ!

I: ……ふうむ、境井。お主、酒でも呑んでおったのか。

J: 今はまだ。いえ! 呑んではおりませぬ。

I: 任務は分かったな。ハーンめの誕生日と、好機あらば皆の誕生日も探って参れ。

J: 南無三!

I: 儂にはそんな暇なぞありゃせんのだ。良いか。

J: 相わかりました。しからば。

I: む? 待て、物音がしたぞ。……どうやら巴が参ったようだ、行かねばならん。

J: !! 何と。

I: 武運をな、境井。儂を失望させるでないぞ。

J: はっ、必ずや。巴を仕留めて下され。

I: (日本語で)ハイ!

J: (日本語で)あっはい。……さて……ではササッとハーンへの連絡を済ませてしまうか……。しとうはないが。

(石川役フランソワ・チャウのゲスト回抄訳はこちら)



◆コトゥン・ハーン編: 渋々2度目

J: (コール中、ため息をついて)……はあぁあぁ。

K: こちらはコトゥン、もしくはフビライ。

J: !!!(耐えきれず噴き出し、やがて気を取り直して)……俺だ、境井仁だ! 貴様の誕生日はいつだ、何も聞くな! 俺は貴様を倒したのだから質問は俺がする、貴様はただ俺の質問に答えるのだ!! いつが誕生日だ!?

K: 首のない身では答えられんなあ。

J: 何だと? 今普通に喋ることができておるではないか。首なしで話ができておる、誕生日を教えるのだ。

K: 耳当てを使っているからな。俺の誕生日なら1968年2月21日だが?(訳注: 普通にコトゥン役パトリック・ギャラガーの誕生日である)

J: 待て、書きとめておく。2月の……28日か? 何だ?

K: 1368年の2月21日だ。いや、1268年か。

J: よし、左様か。対馬を侵略しようとする前だものな。

K: コトゥンは時代を超越するのだ。

J: 言っておくがな、時代なら俺も超越しておるぞ。オーケー? 俺は境井仁ゆえ。よし。2月21日だな、相わかった。誕生日の不意打ちを楽しみにしておくが良い!(一方的に通話を切るが、気持ちがおさまらぬ様子で) こう、ガチャ切りしてやれぬのがもどかしいな! ボタンを押すだけでは何とも。さて、では2月21日には彼奴めを不意討ちしてくれよう──先生は何を考えてらしたのだろうな、不意討ちなぞと言い出して。まあ奇襲攻撃をかけるのだろうが。



◆百合編: 藪から鯉の冥人

J: しかし、皆生きておるのだなあ。ひょっとしたら、他にも同じような者がいるやもしれん。懐かしくてならぬ女性(にょしょう)がおるゆえ、かけてみよう。息災でおるかどうか確かめるのだ。だとしたら何よりなのだが……。(コール中)俺にとっては母親も同然の相手でな。

百合、以下Y: はい?

J: もしもし、お主は百合なのか?

Y: はい。まあまあ、若様! 今いずこにおわします?

J: 今か、21世紀のアメリカにおる。長いいきさつがあってな。タイムトラベルをしたのだ、百合。

Y: はい、1000年後でございますか。お電話をいただけて嬉しゅう存じます。実は「すまーとふぉん」を手に入れまして、正様にかけようとしているのですが、応えてくださらぬのです。お助け願えましょうか。「えす・おー・えふ」の10.14には「あっぷぐれーど」済だというのに、繋がらなくて。どこか他のボタンを押さねばならないのでしょうか?

J: 左様か、わが父と連絡をとろうとしておるわけだな。

Y: はい、正様に。殿はわたくしがここに罷り越しましたことをご存知ないかと。

J: 言いにくい事ではあるのだが、わが父、正は……その、……。いや、ではこうしよう。ただ9のボタンを押してみるが良いぞ。

Y: 9を押す……?

J: そうだ、9を押せば良い。

Y: 何も起こらぬようです。お父上にテストメッセージを送っていただけませぬか。

J: テキストメッセージか?

Y: テストメッセージ、です。正様はわたくしの番号に見覚えがないのかも知れませぬので。

J: おお、左様か。

Y: プロフィールに写真もありませんし、わたくしだとわからぬやも。蒙古襲来の時代にはカメラがないものですから。

J: それも道理よな。

Y: お待ちを、若様。ということは蒙古どももやって来ているのでは。そうならぬはずがございましょうか、もしやコトゥン・ハーンも……。

J: いまハーンの話はやめておこう。彼奴めが通話に乱入でもして参らぬ限り、俺はそなたと二人の時を過ごしておきたい。

Y: わたくしはようわかってはおらぬのやも。最新式ではない「6」しかありませんで、「ばってりー」もうまく充電できぬのです。もしかしたらですが、通話が切れることも。

J: その心配はなかろう。どうだ、俺がそなたと父上の通話を繋げることができるか試してみるというのは。

Y: !! ええ、よろしゅうございますとも! お待ち下さいませ、今ちょっと、ブラなどつけて参りますので。

J: (思わず噴く)

Y: 相済みました、どうぞ。ああ、長いことお会いしていないものですから、あがってしまいます……。

J: FaceTimeでもなくばそなたの顔が向こうには見えぬだろうがな、そちらはまた別のボタンを押すのだ。心配無用、今繋いでやる。そら、俺から父上の番号を押すぞ。(適当にタップする音。口で呼び出し音を再現までする)

Y: !!……おお! もしもし……?

J: (父親の声真似で) もしもし。

Y: 正様……!!

J: ああ。百合か?

Y: 百合にございます、ああ、どんなにお会いしたかったことか……。

J: 俺も会いたかったぞ。達者でおったか。

Y: 息災にしておりました、百合は果報者でございます。若様は殿がこちらの顔を見られぬとおっしゃっていましたが、残念ながらわたくしはもう、かつて殿がご存知だった若い女ではなくなってしまいました。

J: 左様。かつての俺はそなたを、たいそうよく知っておった。

Y: フフッ(いかにも嬉しそうに)。

J: だが心の眼では、そなたの顔が見えておるぞ。

Y: ああ、正様……! 本当にお懐かしゅうございます。

J: 俺もだ。心からそなたが懐かしい。

Y: ご息災でいらっしゃるのですか?

J: うむ、達者で生きておる。境井家当主にして仁の、あの小さな境井仁の父だ。

Y: あのお小さかった若様を今ご覧になったら、誇らしく思われることでしょう。今の若様は、殿そっくりの美男子でいらっしゃいます。

J: はっはっは。うむ、俺はまこと男前であるな。

Y: そして、武勇にすぐれた立派なもののふにもなられました。まこと、鼻高々になられるかと。

J: そうだな。あれは自慢のせがれだ……(過去のトラウマが刺激されたか、やや声を震わせて) 。実際には本人にそう伝えたことなどなかったが、……伝えるべきであったやもしれぬ。

Y: 若様は、もっと殿と顔を合わせていたらと願っておられました。わたくしに殿のことを、それはたくさんお聞きになって……。とはいえ、その……中には若様にお話できぬこともございますでしょう? わたくしたちのことは、秘密にしておこうと。

J: うむ、そうだな。しかしこうして通話しているからには、そなたとの思い出を振り返ってみたい。思い返させてくれ、ともに温泉へ参ったな。

Y: ええ。温泉にいて、何かが当たるのを感じたのです。はじめは水の中の鯉かと思い、手で払おうかと──

J: (静かに噴く仁、というかダイスケ・ツジ。めちゃくちゃ口元をおさえている)

Y: 見てみますと、鯉ではなかったのですよ。色が橙ではありませんでしたので。当たっているものがあなた様の手だと気づいてからは、下を見もせず息を詰めて、あなた様の「魚」がもっと近くに来て下さるのを待っておりました……(恋する乙女そのものの笑い声をたてつつ)

J: その、思うた以上に細かい描写であったな?? ふむ、酒を呑んでいたせいで記憶がややあいまいになっておるのやも知れぬ。湯気がもうもうと立ち込めておったゆえな、手の先が何に触れておるのかわからなかったのだ。んん!(咳払い)

Y: ご存知なかったにしても、「魚」はしきりにのたうっておいででしたよ?

J: ふああぁ!?(笑おうとして変な声が出た模様) 左様、俺の魚がな。そうであった、そうであった。はっはっは、あの頃は良かった。

Y: ええ、あなた様の「鯉」が、ウフフ。

J: 左様、「鯉」が。我が「鯉」は一心不乱に励んでおったのだったな。よき時代であったが、ああいった機会は一度きりではなかったか。

Y: そのたった一度きりの思い出が、わたくしには一生の宝でございました。いく度も思い返しては追体験を。

J: うむ、今後は俺も思い返すことになるであろう、手に取るようにありありとな。

Y: ウフフ、そうすると、ようく眠れるようにもおなりですよ。

J: はっはっは、そなたの役に立てたのなら嬉しく思うぞ。

Y: あら、役立つ以上のものがございましたとも、フフ。でも秘密は秘密のままにいたしましょう。

J: 左様、誰にも悟られぬ秘め事よ。ことに仁には、とてもでないが聞かせられぬ話よなぁ!?(乾いた声)

Y: ええ、ええ。若様にとって殿はとても大切な、立志伝中のお方ですから。殿のことをたくさんお聞きになった若様は、お心とまなざしをただ天へ向けてお父上の姿を思い描き、わたくしがお話した諸々を、脳裏に思い浮かべようとしておいででした。

J: 左様であったか。何ともはや。

Y: ただし、あのことではなく。

J: うむ、あのことではないな。礼を言うぞ、素晴らしき時をともにしたこと、そしてその時をともに生きたことを思い返させてくれたことに。

Y: かたじけのうございます、正様。恋しいお方。

J: ときに父親像として、俺はあまり良き父親ではなかったゆえ、せがれにまつわる諸々も記憶があやふやでな……そなたは仁の誕生日を覚えておるか? いつであったか。

Y: 若様の、お誕生日……。若様のことは昔からよう存じ上げておりますが、生まれなど超越されておいでです。

J: ああ、だがどこかの時点で子袋から出て参ったわけであろ? であろ?

Y: 若様はいつでも若様でございました。いつでもこの世にいらっしゃいましたし、これからもいらっしゃるのです。

J: なるほど、相わかった。さもあらん。俺はせがれを誇りに思っておるのだから、時間を超越しているのであれば、毎日誕生日を祝ってやれば良いのだな。

Y: ええ、左様で。毎日が若様の日なのですね。

J: うむ、毎日が仁の日だ。ではな、百合。そなたのことは大切に思うておるぞ。

Y: ああ、正様! わたくしもあなた様をお慕いしております。

J: ああ、俺も左様な意味でそなたを慕っておる。

Y: ええ、ふたりだけしか知らぬ意味で。

J: 然り、ふたりしか知らぬ意味での慕い方でな。

Y: 正様がご壮健そうで何よりでございました。

J: 俺は達者にしておるぞ、健康そのものよ。ではそろそろ切るぞ。重ねて礼を言おう。

Y: かたじけのう存じます。どうぞ、お体に気をつけて。

J: そなたもな。夜はよう眠るのだぞ、へっへーい(意味深)。

Y: まあ、ウフフ。ええ、ええ、そういたしますとも。さようなら、正様。

J: さらばだ。……首尾よう行ったな。だが、これ以上誰かにかけるのが怖くなって参ったぞ。秘密が多すぎる。

(百合役カレン・ヒューイのゲスト回アーカイブ動画はこちら)



◆竜三編: 冥人激震

J: 我が最大の秘密を知るが良い! ええい、誕生日に己が抱える恐怖と向き合うことになろうとは。こやつは生きておるはすがないのだがな。生きておるはずが………(長めのコール音) もしもし?

竜三、以下R: …………あぁ?

J: お前なのか。お前も生きておるのか……。

R: ……前に比べりゃイマイチだが、まぁそうだな。

J: ……声が聞けて嬉し、いや!! お前なぞ大嫌いだ、声も聞きとうない。だが電話をかけたのはこの俺の方で、って黙らぬかぁ!!

R: 気分でも悪いのかよ、お前。

J: 大事ない!!

R: ならそれで構わんが。

J: 生きておったのだな。

R: ああ、その話はもう済んだんじゃなかったのか。

J: なのに電話一本寄越さぬとは。いや!! お前からかけて来なかろうが知ったことか、俺から電話を入れたのだからな!! 黙れ!!

R: ……オーケー。

J: でだ。

R: で?

J: 友同士だったというに、電話もメールもせなんだか。まあそんなものなくても俺は構わんがな、生きていたのに連絡せなんだでも一向に。なぜなら俺がお前を成敗したのだから。それもお前が対馬の民を裏切り、大勢の命を奪って死に値することをしたせいだ。一人に至っては実に手際よく、火炙りにしてのけていたではないか。それも何のためかと言わば、たかだか飯のために。今はどうなのだ、まだ空きっ腹を抱えておるのか? 飯は食ったか。食いたかったものは全部食えたのか。お前がおらぬようになって寂し、ではない大嫌いだ!! ……すまん、続けてくれ。

R: 今まさにバーガー食ってるとこなんだが。

J: (罵倒を忘れて釣り込まれたように)バーガーを食えておるのか?

R: おう。アメリカのハンバーガーな。

J: 噂には聞いたことがある。美味いか?

R: 絶品。

J: そうか、飯が食えていたなら良かっ……ではない、食っていようがなかろうが知ったことか! むしろ食わずに飢え死にすれば良いのだ。お前など死んでいるべきだというに、生きているのだからな! 今は地獄の底から電話に出ておるのか? そのバーガーは今、お前を取り囲む地獄の炎でこしらえてでもおるのか。

R: いいや、「In-N-Out」ってとこで買ったヤツだ。絶品だぞ。

J: うむ、美味い見世であるらしいな。そう聞いておる。

R: 美味い。

J: お前の仲間どもはどうなのだ? 連中も腹を満たしておるのか、それとも「In-N-Out」で飯にありついておるのはお前だけか?

R: あいつらにはアニマルスタイルフライズを食わせてやる。連中の世話なら俺がいるから、万事滞りなくやってやろうじゃねぇか。お前のおかげじゃなくな。

J: ……俺とて出来る限りのことはした。努力はしたぞ。我らが戦っていた時代には、食い物を手に入れるのも至難の業だったではないか。

R: ああ、そうだな。言い訳ばっかか。

J: (無言で首を振り)で、フライも食って、仲間も飯にありついて、今は実に幸せな境遇というわけか。

R: おう。快調だったぞ、お前の電話があるまではな。

J: お前を罵る以上の理由で電話なぞせんぞ、竜三。この外道が。

R: 外道はお前だ。

J: おお!? やる気か? 俺と戦おうと言うのか。

R: お前の電話があるまでは、俺ぁまあまあいい調子でやってたんだよ。解せねぇな、何なんだよ。なんでかけてきた?

J: 何故かけてきたかか?

R: クソが!

J: 何だと? お前こそクソだ! 電話越しにどう戦えば良いのかわからぬし、この時代の人間がどうやって生き延びておるのかも知らんが、一体──いま勝負で決着をつけられんのか、これはもう勝負せねばならんだろう? たとえば、そう、荒らしはどうだ。俺が荒らしに参れるようなInstagramのアカウントなどはあるか?

R: Instagram? そんなもんやる暇ねぇぞ。

J: 左様か、ではTwitterならどうだ。Twitterはやっておるか。

R: Twitterって鳥の鳴き声のことかよ。

J: いかにも。

R: いや、そんなんやる時間もねぇ。

J: そうか。しかしだな、戦う術は何かしら見つけねばならんだろ。どうやってかは知らんが、俺はまだ怒りがおさまらぬのだから。おい! というかお前がそう心穏やかな様子でいて、俺だけがカッカしておるのは何故だ? 俺に殺されたことで腹は立たんのか!?

R: まず第一にだな、俺はお前に殺されてない。

J: 道理だ、何せいま生きておるのだからな。それも俺がわざとやったのやも知れぬ。何故ならお前は友なのだから、ではない、過去形で「友だった」だ。刀で刺し貫きはせずに、そうとも。そのフリだけしたのだ、うむ。ま、礼には及ばんぞ。

R: それでも痛ぇもんは痛ぇんだが?

J: まだ命があって、バーガーとフライも食えておるのだろ。不平を鳴らす理由があるとは思えんな。

R: 胸にどでかい風穴も空いてるんだが?

J: 胸に穴か。まだ痛むのか?

R: 今この瞬間にも痛みが悪化してるぞ。

J: それは良かった、痛みがあってもらいたい。お前は苦しんで当然ゆえな。

R: (ため息をついて)仁……つくづく目障りだよな、お前は。

J: ああそうだな! 目障りだとも、お前に対してはな! お前相手にだけは。

R: だな。

J: おい! 覚えておるか、我らが童だった時分の話だが!

R: …………オーケー。

J: 皆で集まる何やらの祝い事があって、ともに出かけたりなぞしたであろう。

R: (ため息をついて)よくわかんねえ話を持ち出しやがってよ。

J: あの日は何を祝っておったのか、思い出そうとしておるまでだ。あれは確か……。

R: どうせお前のことで何か祝ってたんだろ。いつでも、誰からもチヤホヤされてたじゃねぇか。何しろお前は皆とは違う若様だったからな、仁。

J: それはそうだが、そのさらに上を行く祝い事だ。具体的に何を祝っておったか、俺としては──

R: 何でもかんでも祝ってただろ。お前にとっちゃ毎日が特別な日。祝い事が多すぎて覚えちゃいられねえよ。

J: ああ、俺が愛馬のノブ・デラックスをもろうた時があったろう。その特別な日に。今月と同じ月、だけでなく今日と同じ日ですらあったように思うのだが、あれは何の祝いであったかな? その場にはお前もいて、俺にたくさんの物資を──まあ魚であったり、そう大したものではなかったが、頑張って贈ってくれたことがあったろう?

R: あー。それならなんか覚えてるぞ。

J: そうか! 何の祝い事であった?

R: アジアン・アメリカン・ヘリテージ・マンスだ(訳注: 米国では毎年5月が「アジア・太平洋系アメリカ人の文化遺産継承月間」とされている)。

J: (噴く音) アジアン・アメリカン・ヘリテージ・マンスか! 何と、対馬はかなり進歩的だったのだな。

R: ああそうだよ。

J: 1247年にアジアとアメリカを団結させんとしていたわけか。

R: 未来だな。

J: まったくだ、うむ。それも同じ月であった。だが、あの日なぜ俺は特別な馬をもろうたのであろう? 皆がやたらに進物や物資をくれた気がするのだ。何かで俺のことを祝っていたような。だが思い出せん、何であったかなぁ。

R: 昔からいつだって贈り物はもらったじゃねぇか、覚えてねえって。

J: ほー左様か。よし、では消え失せろ!!

R: お前が失せろや!!

J: どてっ腹の穴を自前でヤッて失せるがいい!

R: 食事があるからもう切るぞ、じゃあな!!

J: おう、愛してるぞ、──途中で切りよった。……実に生産的なやりとりであったな。(重いため息)……許すつもりはない。あいつは悪い奴だ。で、想像がつくであろうが、ゲームの『Ghost of Tsushima』ではセリフが一部改変されておってな。実際の我らの会話はあんなようなものだ。「クソが、なぜ裏切りおったのだこのクソ馬鹿めが!」とな。向こうも「クソ野郎が!」と言っておったぞ。実際にはこの程度よ。

(竜三役レオナード・ウーのゲスト回抄訳はこちら)


◆ゆな編: 言いたいことが言えなくて

J: よし。この相手にかけるのも恐ろしいのだが、皆に連絡しておるゆえやらねばなるまい(コール音、なかなか応答がない)……電話の近くにおらぬのか。多忙な身の上だからな。天晴れな心ばえの持ち主ゆえ、いつも人助けをして回っておるのだ。俺に割くような暇はないか。

ゆな、以下Y: もしもし?

J: ふぉ!

Y: 仁かい?

J: ああ、俺だ、境井仁だ。

Y: 大丈夫なの?

J: 大事ない、もうお主の声を聞いたゆえ。……いやその! お主のことが気がかりでな。俺を心配しておったのか。

Y: そうだよ、どうだかわかんなかったしさ。本当に大丈夫なんだろうね? 加勢が要るとかない?

J: いや、問題ない。健康そのもので気力も溜まりきっておる。だがお主はどうなのだ? お主は自立した女ゆえ、常に俺の助けが必要なわけではなかろうが、俺は──我らは行動をともにしておるし、困った時には力になっておるからな。

Y: 何言ってんのさ、仁。

J: うん?

Y: だってさ。今日、土曜はあたしのセルフケアの日じゃないか。あんただって知ってるだろ? 今フェイスマスクをつけてもらおうとしてたとこ。

J: ああー。そうであったか。

Y: だから何かあったんじゃないかと思ったのに、大丈夫だってぇからよくわかんないんだよ。

J: セルフケアか、なるほど。うぅむ。そうか、そうであったなぁ……。そう! ゆえに気がかりになったのだ。セルフケアなるものは温泉に入ったり、あるいはマッサージを受けたりと高くつくのだろう? その支払いに充てる物資などに不足がありはせぬかと──

Y: なんだってそんなおかしな感じなのさ?

J: 何?

Y: なんかちょっと様子がおかしいよ。どうしたってんだい?

J: いや、左様なことはなかろう。日頃と何も変わらぬぞ。俺は、……(咳払い)いつも仲間を気にかけておる。あらゆることに、その、(また咳払い)俺が守る対馬のあらゆる人々を気にかけておるからな、お主も含め! 俺にとってお主は特別な人間で、それは俺以外の者にとっても同じことであって……。

Y: あんた以外のって誰のことさ?

J: 対馬に住む者たち、民草やゴースティーのことよ。知っての通り、互いに助け合う仲である以上は、お主のセルフケアにももしや俺の力が必要なのではあるまいかと思うてな。よくはわからぬが、たとえばマッサージやら、温泉の──

Y: (おかしそうに笑い出して)あんたがあたしにマッサージをしてくれるってのかい?

J: ……! ごく戦略的な按摩だぞ。戦略的極まりない、その……。

Y: (また笑い出す) あんた、呑んでんの?

J: いや、呑んではおらん。

Y: 酔ってるだろ。

J: いいや。まあ俺に今日、そういう疑いをかけたのはお主が初めてではないのだが、本当に酔ってはおらんのだ。普段通りだぞ。お主は日頃の俺を知っておるだろう?

Y: ああ、だから絶対変なんだって──いったい酒何本空けたのさ?

J: 酒は呑んでおらんと言うに。今飲んでおるのもカフェイン入りの飲み物で、イェルバ・マテとかいう代物だぞ。味はなかなか──

Y: あ、ソレ今いる店で出してくれるのと同じヤツだよ! 驚いた。

J: ほう、まことか。お主はセルフケアの習慣についてはかなり秘密主義であったな。

Y: セルフケアの土曜日ね。

J: セルフケアの土曜日か。うむ、肝要なことだ。であればこそお主を尊重したい。「セルフ」ケアと申すからには、男の関与は遠慮したいところであろうし、一緒になどともっての外やも知れぬ。であるからしてお主を煩わせまいと……

Y: あんた、あたしに何かカミングアウトしてんのかい? 混乱しちまうね。

J: いや! そうだ、つまりお主がそう望むのならば、あるいは。ようわからぬが。何?

Y:(笑いが堪えきれぬ様子で)あんたが呑んでる酒、あたしも呑ませな。

J: それよ、ともに酒を飲み交わそうではないか。何しろ今日は、とても特別な日なのだからして。

Y: そうなの?

J: そうだとも。だろう?

Y: セルフケアの土曜が?

J: セルフケアは大事だからな。お主も呑め、酒は送り届けよう。で、思うたのだがな。セルフケアも良いが、その、時には互いのケアをしてみるというのはどうであろう。そう、たとえば月に一度程度。4週間のうち3回はセルフケアで、1週間は相互ケアにするとか。お互いのケアにしたって、セルフケアと同じように肝要ではないか? うむ、とりとめのないことを言うてしもうたが。

Y: なんか今まで聞いたことない感じのあんたの話、ちゃんと聞いて、受け止めてはいるよ。あんたの案も考えてみてる。

J: そうか。うむ、というのも互いをケアすれば──

Y: 「お互いをケアしようの土曜日」って感じかね。

J: そうさなあー! いや、そうだな。

Y: (笑)なんでその、「そうだな」を「そうさなあー!」みたいな言い方すんのさ? 呑んでんじゃないかと思ったのもそのせいだよ。

J: 「そうだな」と言うつもりが、口から出たらああなってしもうたのだ。実は今、同時並行で蒙古と戦っておってな、そのせいだろう。動き回っておるゆえ。

Y: 加勢が要るかって最初に訊いたろ、はなっからそう言ったらどうなのさ!?

J: 相手は若い蒙古ゆえ、といっても子供ではないぞ。若いひよっ子の蒙古を退治しておるのだ、俺ひとりで対処できる程度の敵ということよ。だから問題ない、ただしきりに動き回るせいで、話し方がいささか妙になるまで。蒙古と戦うとそうなるのはお主も知っておるだろ。であるから、うむ。そういうことだ。で、返事は承諾だな? 「お互いをケアしようの土曜日」は。

Y: 月イチでならやってもいいよ。お互いをケアするんだろ。できるよ。

J: うむ。戦略的にも、本質として互いを大事に思えば思うほど戦いでの連携もより良うなるであろ。

Y: ……これまでだってあたしらは、いつでもお互いの背中を任せ合ってきたと思うけどね。何言ってんの?

J: いやなに、背中を任せ、また友にもなるのも良いのではないのかというまでの話でな? つまりだ、全方位での防御を固めるという意味で──

Y: (笑い出す)境井仁、あんたからそんなセリフが出てくるとはね。どうやらよっぽど酒を過ごしたようじゃないか。

J: そうだな。とはいえ、酒は真実を引き出すものではある。酔っておるから、全部が本音でもないが。

Y: 何か、他に言おうとしてることでもあんのかい?

J: ない。ある。ない。ある。いや、ないぞ!

Y: あたしのセルフケアの土曜が、あんたのおかげでこんがらがってきてるんだけど?

J: その上心労もかかるが、興味も惹かれよう。心にはよいぞ。俺はパズルのようなものだな。

Y: あんたはあたしにとっちゃずっと、パズルみたいなモンだよ。それは間違いないね。

J: そうだな。

Y:(やはり可笑しそうに笑っている)

J: えー、さて。愉快な話であったぞ。セルフケアの特別な日だ、お主はお主をケアしてくれ。来週あたりには俺がお主の前面をケアしよう。あるいは背中を。お互い全面的に。

Y: あんたなんだか興味深い一日を過ごしてるようだねえ、仁。その、幸運を祈ってるよ。

J: かたじけない、ゆな。

Y: どういたしまして、仁。じゃ、あたしセルフケアに戻るけど、いい?

J: わかった。

Y: はいよ。あのさ、あたしはあんたのこと、すごい大事に思ってるかんね。

J: おお。……俺もだ、お主のことは大事に思うておるぞ。

Y: うん。そんじゃまたね。

J: ああ。うむ。そうさなー!

Y: (笑)そら、また「そうさなー」になってるよ。

J: うむ、またやってみた。天丼というやつでな、こちらの世界の者たちがやっている冗談なのだ。(後ろでゆなの笑い声)よし、ではな。愛してるぞ、また会おう。

Y: うっわ。

J: 何だ?

Y: そっか。えーと、あー……あたしもさ。

J: そうか。

Y: あたしも愛してる、じゃね!(返事を待たずに電話を切る)

J: オーケー。友として、あるいは思い人として、同志として。でなくば、うむ。よし、オーケー(咳払い)。よき一日だ。うむ、よき日だ何をするにしろ。オーケー……(深呼吸して、チャットに) お主らはどうか知らんが、いや参った。すっかり肩の力が抜けてしもうたな。今度は良き紅毛人たちに連絡をとってみるとしよう。

(ゆな役スマリー・モンターノのゲスト回アーカイブはこちら)



◆ネイト&ビリー編: メーデーと赦免とキャラ崩壊

次のゲストは、なんと次元の壁を超えた相手だった。『Tsushima』開発元Sucker Punchのアニメーション・ディレクターのビリー・ハーパーと、クリエイティブ・ディレクターのネイト・フォックス。ダイスケ・ツジらキャスト陣とはとくに接点が多かったふたりなのだが、どうやら彼らは制作過程の初期の段階で「原作者」である仁とも知遇を得ていたらしい。

J: もしもし、ビリーか。

ビリー、以下B: おー、どうしてた?

J: 元気だ。いや、先程から朋輩たちに電話をかけてたんだがな、お主らだって俺の友ではないかと思い当ったのだ。であろう?

B: だな。

J: 皆の者、こちらはビリー・ハーパーだ。今配信をしておるのだが、チャットの衆は俺が己の体験談を話し、お主らがそれを傑作ゲームに仕立て上げたことを知らなかったやも知れぬな。あ、その節の礼ならいらんぞ。俺とてお主らに諸々の礼を言いたかったのだ。変わりはないか?

B: 俺なら絶好調だよ。今は暇してたとこ。5月1日ったらメーデーだろ、とくに何もない日じゃん。

J: メーデーと言えば特別感はあるがなあ。「警報、メーデー、メーデー」などと申すくらいだ、間違いなくただならぬことが起こるのだろう。何かしら、とても特別なことが。実はネイトが──ネイトは近くにおらぬよな?

B: ネイト? いるよ!

ネイト、以下N: 私の声も聞きたいって?

J: 何と、ネイトもいたのか! 話は聞いておったわけか?

N: ひとつ指摘しておくとさ、「メーデー」って一般的には乗ってる飛行機が燃えながら墜ちる時に使う言葉だから、私的には忌避すべきもの、警戒すべきものって印象があるんだよな。

B: 俺も同じだな〜。

J: ああ、だが意識はせねばならんだろ。メーデーがやって来ること、やってきたらやってきたでそうと承知しておくこと、メーデーに起こりそうなことに備えておかねば。

B: うん、そんで巻き込まれないように全力回避な。

J: うむう……。しかし日だぞ、起きてどうやって日を避けるのだ? 今来ているのなら避けようがあるまいに。わかるか? 趣深い会話だな。

B: 今日みたいな日はセルフケアに徹するとかだよな。

J: いかにも。我が友、そして思い人たるゆなも、先程そのように言うておったぞ。

B: ん!? いま思い人って言った?

J: いや言っておらん。我らは同志、昵懇と言うても同志のそれだ。まあ俺のことは良い。何でもこのほど、対馬の「あんばさだー」になったと聞いたぞ。それはお主ら全員がそうなのか?

B: どうだろ、ネイト、俺もアンバサダーなの?

N: この電話の間は、ビリーだって断然アンバサダーなんじゃないか?

B: うわマジ? そっか。

J: なるほど。

N: アンバサダーの身分を証明する巻物を手に入れたから、次に国外へ旅する機会にはこれ、隠し武器を仕込むのに使うつもりなんだ。

B: イエア! 犯罪だー。

J: 何の武器を隠すつもりなのだ?

N: そうだなあ、猥雑五行詩かなー。

J: ほー。猥雑五行詩とな。

N: めっちゃパワフル。仁はまだあの刀持ち歩いてんの?

J: ああ。今は手元近くにはないが──

B: なあみんな。いま知ったんだけどさ、俺たち権限があるみたいよ。

J: そうか。

B: 赦免を与える権限だって。

J: そうでもあろう。

B: そうなんだろ、ネイト?

N: どうだろう。というか、仁。わかっておいた方がいいと思うんだけど、現状、対馬で君の名前は「毒」の代名詞になってしまってるんだよな。殺虫剤まこうとする人が「庭中サカイしまくってやる!」とか言うレベル。

J: 良きことではないか! 時々はやらねばならんことなのだろう?

N: 自分がサカイしまくられるとしたら、されたい?

J: ああ。俺の見方としてはだ、お主の言い様は、俺が言わんとする点をまさに証明しておるぞ。すなわち、俺が成し遂げたのは実に有用かつ、必要なことだったと。

N: その点に異論はないよ。私は君のこと、本当に信頼のおける人間だと思ってるしな。君がいなければ、そして君のアクションがなければ、もちろんツシマの歴史は違ったものになってたはずだ。

B: なあなあふたりとも、悪いんだけど。聞いてくれる?

J: なんだ。

B: 赦免を出す権限があるってわかったから、やってみちゃったんだけどぉ。

J: 何をしたと言うのだ?

B: 俺さ、たった今──コトゥン・ハーンを赦免してあげた!!

J: 何だと……!

N: わぁお。

J: いったい全体どういうつもりで、そんな真似をしでかしおったのだ!?

B: サイッコーじゃん!?

J: あまりのことに俺は自分の地声もつくれなくなっているではないか!! 大ショックだぞ!?

N: その赦免の理論的根拠は何なの、ビリー。

J: そうとも、理論的クッソ根拠は何だと言うんだ、ビリー!?

B: いやあ、やっぱりどこかではさ──

J: ハーンめはお主と連絡をとっていたのか? 奴は番号を知っておるのか!?

B: あっ待って待って、ゴメン。気にしないで。勘違いしてた。赦免したのは竜三だったわ。

J: !! 何なの、どうしたの!? そんなことしたら俺が傷つくってわかるよねー!? もう俺っぽくも喋れなくなったじゃんか! もう自分に戻れない気がするんだけど!?

N: あの、仁さ。

J: 何!?

N: ちょっとした社会奉仕活動とかやる気ある?

J: (声がひっくり返って) 俺!? あるよ!? てかやってきたよ? 奉仕活動、ずーっとやってきてるよ!?

N: わかったわかった。地域社会に復帰するために、どういったことならやれそう? もちろん、蒙古兵を退治する以外にだけど。

J: 蒙古退治ではなく、それ以外で?

N: うん。今は2021年だろ? 君が社会に提供できそうな新しいことが、色々あるかもしれないからな。本来ものすごく多芸多才な人だしさ。君の短歌読んだよ。まあ極めて凡庸な出来じゃあるけど、いまの社会に必要なのはそういうものだったりするんだ。

J: 凡庸な短歌? というのは──

N: とっつきやすいってことね!

J: ああ、そこが狙いだからな。芸術家を気取り過ぎると誰も意味がわからぬだろうし、読んだ者の気分が落ち込んだりするであろ? 俺が短歌で目指しているのは、誰もが背伸びせぬような──

B: ちょっと、ちょっとちょっとみんなさ! 聞いてくれる?

J: (ややうんざりした様子で) 何なのだビリー!

N: みんな、今度は大丈夫! 次はさ、巴を赦免しといた!!

J: 俺が対峙した悪者を並べてるだけではないか! なんで? (再び盛大に裏返る声) なぁあんで悪い奴らを赦免すんのー!?

B: そりゃあ、あの連中にだって救いになるような見所があるからさ。彼らなりに意義あることをやろうとしてたんだよ?

J: あーそう。あーそう! カチンと来るわぁ! 俺だってやってるぞ?? (元のトーンに戻る声) 他にも言うと、あのな、あのな? 俺は自分の個人的な話を山ほどお主らにシェアしたよな? それだって奉仕活動じゃないか? で、お主らは俺の話を使ってビデオゲームを作り、今度はそれが映画にまでなるんだろ? だから、俺が寄与した部分ってかなりおっきい気がするよ?? あ、ときにだな。俺の映画で俺を演じる役者について提案しとくぞ。キアヌ・リーブス。あやつが都合つかなかったら、ニコラス・ケイジで手を打ってもいい。

N: オーケー。私は完全にニコラス・ケイジ派だな。

B: キアヌはFBIのエージェントであってサムライじゃないぞ。

J: いや、だからこそ──FBIとサムライは体捌きが同じだぞ。ゆえに俺も問題なくFBIが務まろう。

B: (笑いをこらえている)……もし君がFBI入りしたら、もしかして赦免も──いや、やっぱりいいや。

J: うむ、深く考えなくて良いぞ。

N: 仁、気になるんだけどさ、赦免を得て実現しようとしてることって具体的に何なの? その後の生活に何を期待する?

J: ただ潜伏せずに済むようになりたい。ただ自分のままでありたいのだ。

N: 潜伏生活について聞かせてくれ。今はどこに住んでる?

J: 普段は対馬だ。小さな小屋を住まいにしておって、まだ戸はないが、おいおい自作するつもりだ。うむ。屋根も修理せねばならんがな。折り紙はたくさんある、自由時間は大半折り紙に興じているぞ。でもまあ、自分では森に隠れ住むのではなく、日の当たる場所に値するだけのことはしたように思う。

B: みんな、みんなぁ! やったよ俺! ちょっと聞いて!

J: 何だビリー。

B: 今度は、花を赦免してみた!(訳注: 政子の姉の名前である)

J: あやつは死んでおろう!? 今日はよう死人に出くわしておるから、この分だと他の者ら同様、まだ生きているやも知れぬがな。

B: うん、本人からDM来た。

J: DMだと? 世も末だ。しかし、なるほど。ようわかった。俺以外が皆、赦免を得るという寸法なのだな。俺の誕生日に。

B: は!?

N: え!? 誕生日だったの?

J: (唐突に裏返る声) そーだよ俺の誕生日だよー!

B: おおー!

N: そうなのか……メーデーに生まれるとは不憫な奴(訳註: ダイスケ・ツジによると、仁の誕生日が5月1日だと言い出したのはネイト本人とのこと。2020年秋、配信にゲスト参加した際にチャット欄でそう発言していたらしい)。信には?

J: 信に言ったか? 馬の? 信なら死んだぞ。

N: !!(息を呑む音)

J: ネタバレであったか?

N: 人生辛すぎだろー!!

J:(また裏返る声) そーだよー!? お主はそのへん全部知ってなきゃおかしかないか、ってまあいい。別の馬に信と名付けたゆえ、今は別の信がおるぞ。さっき話したのは初代の信な。

B: 誕生日は浜で死んだと思ってた。

J: 誕生日は浜で冥人を生んでくれもしたぞ。だから、あるいは死んでばかりではないやも知れん。

N: どっちの誕生日も浜で孕んだとか。

J: そうだな。いや、ないか。

N: よし。ビリー、どんなもんだろ。私としては仁を公式に赦免する準備ができてるんだけどさ。ツシマの民を救うために身を削って頑張ったのはわかるし。人知れず掘っ立て小屋で暮らして、私のためにも貢献してくれたし、刑期を全うしたような気もする。

J: ああ、それに今日は誕生日だしな。

B: オーケー、わかった。ちょっと待ってネイト。

N: となれば、君が完全赦免を勝ち取るために超えねばならないハードルはあとひとつ。

J: オーケー。それは何だ? どんなことでも──

N: 今からうちの8歳の娘に電話を渡すから、彼女を笑わせるジョークを言ってみてくれ。そしたら赦免してあげよう。

J: 俺はジョークなぞ言わん!

N: おお? ほっほーう、ワオ。じゃ、掘っ立て小屋暮らし楽しめるといいよな!

J: ジョークだと? ……おい、チャットの衆。俺にジョークを教えてくれ。(が、ネイトの携帯が娘さんに渡った様子) もしもし?

??: もしもし。

J: お名前は?

H: ヘイゼル。

J: やあヘイゼル、俺は境井仁だ。聞いてくれ。この会話、お父さんには聞こえないのだよな? お父さんの耳には。俺が面白いジョークを言ったかのように笑ってみてもらえぬか?

H: (可笑しそうに笑い出す)

J: (声をひそめて)そうだ、上手いぞ! ばっちりだ。よし、恩に着るぞヘイゼル。君はダイスケ・ツジなんかよりずっといい役者──

N: (電話をかわって)おい、どんなジョークを言ったんだ? うちの娘、口が耳に届きそうな勢いで笑ってたんだが。

J: おお! やった!!

N: これで正式に赦免だな。

J: よっし。やったぞ、よーーし!!(思わずガッツポーズ)

B: みんな、みんなちょって待って。あの、ほんと申し訳ないんだけど。ごめん、赦免可能な人数が花で最後だったわ。

N: (息を呑む)

B: 打ち止めだ。赦免できる残り人数はゼロ。

J: 赦免に上限があるのか!?

B: 俺も知らなくてさ。どうでもいい書類の中にあったみたい。

J: (呆然と。以下、明らかにテンション下降)

N: は!  いや、考えがある。花はもちろん死去してるわけだろ。仁が花に変装するとかは?

B: おー。そうかあ!

J: やれなくもないと思うぞ。普段は髪も長くしておるしな。

N: だよなあ。

J: そうさせてもらうとしよう。礼を言っておく。

B: あ、仁。証拠写真出さなかったら、この話なかったことになるから。

J: 何?

B: 写真だよ。花の格好した写真を確認しとかないと。

J: 写真か、心得た。というかお主の行く先々、対馬の地頭や幕府の現将軍、誰のもとだろうと、その出立ちで現れてやろう。

B: この時代の標準だから。

J: 標準か、よかろう。そうしよう。俺が出向くこては先触れをしておいてくれ。向こうもわかるようにな。

B: いいよ。あ、そうだ、コトゥン・ハーンと同伴だって言っときなよ。

J: なぜだ。

N: いいコンビだからさ。否定しきれないだろ、君ら相性がいいんだって。

J: 仏よ……。

N: ふたりが入ってくるとその場が明るくなるんだよな。まあ得物がぶつかる火花でだけど。

J: その火花のおかげでお主はビデオゲームを山ほど見てきたのだから、それも道理よな。

N: 相性の良さの話をしてるだけさ。ふたりでいれば注目度も急上昇して、赦免が下りる時期も早まるんじゃ?

J: そうか。では俺は、ドレスアップできるよう素材と物資を集めに行くとしよう(死んだ目で)

N: あ、あと誕生日が5月1日なんてな。散々じゃないか。

J: いや、良き日取りであろう。

N: まあ13日の金曜日よりかはマシだけどな。そこは認める。

J: それはそうだろう。

B: でも5月20日だって良かったのになぁ。

N: 5月2日とかでもな。

J: だが俺の誕生日は違うだろ。5月1日だ。

B: あ。あのさあ。

J: 何だ。

B: ちなみに5月12日って俺の誕生日なのね?

J: (食い気味に)知らんッ!

N: (笑)

J: 知ったことではない。今日誕生日なのは俺だ。

B: 待って、双子座?

J: 牡牛座だ、確か。

B: へー。誕生日の区分が変なとこで区切られてて、俺みたいに牡牛座じゃないかと思ってた。違うならいいんだ。

J: ともあれ、5月12日が来たら誕生日おめでとう。誕生日には皆そう言い合うものらしいから言ったぞ。ということはつまり──

N: 5月12日は楽しい日を過ごしてくれよ、ビリー。

J: (お返しを言ってもらえず、憮然)

B: わ、ネイトありがとう! 気持ちが嬉しいよ。

J: (かぶせるように)では俺はもう行くぞ。

B: あ、待ってみんな、待って! 今ちょうどゆなからメッセージが来た。5月12日の誕生日おめでとう、だって。嬉しいねー。

J: (心に追撃を食らって死んだ目に)……もう切るからな。さらばだ。

N: あのさー。

J: なんだ。

N: 趣味の折り紙に熱中できてるみたいで良かったよ。ノブのことは大変だったろうけどな。君らはいいチームだったから。穏やかな旅には出られたの?

J: 今際の際だけは穏やかだったがな。

N: オーケー、なら良かった。下ばかり向いてちゃだめだぞ、仁。君は闘志の人じゃないか。

J: (何やらカチンと来た様子で) ああ! 承知の上だ。言われるまでもない。

N: いやー、正直、景気づけの一杯でもないとしんどそうな様子に見えたけど?

J: 心配無用!

N: 返事になんか棘があるんだよな。

J: ああ、あまりに心配無用であるがゆえだ!!

N: オーケー。ならいい。じゃ、話せて良かったよ。

B: なあみんな、いま花の赦免が撤回できたぞ!

J: は!? 何ゆえ貴殿はそう話を行ったり来たりさせるんですか!?

B: ひとつ撤回できたから、ひとつ枠に空きができた。

J: で、俺はもう赦免されたのか?

B: ヘイゼルを笑わせてたしな。どうだろ、ネイトに聞いて。

N: (娘さんと何やらやりとりしている模様) ヘイゼル。仁のこと赦免するべきだと思う? ……仁は投獄される心配なく、同胞のみんなの間を自由に出歩けるようになるべき? ……彼は監獄に入れた方がいいと思う?

H: ううん。

N: あ、ううんって言った。はい、自由の身ね。

J: やった!! よし、俺は今の答えだけ受け取って帰るぞ。今のがファイナルアンサーだからな!! 取り下げは効かんぞ!!(通話終了、遠い目で) 楽しい……ひと時だったな。

(ネイトとビリーが配信にゲスト出演した際の抄訳はこちら)


◆ダイスケ・ツジ編: 夢の共演

J: む、もう一件かかってきたか。誰だ。

FaceTime的画面で登場したのは、ダイスケ・ツジ。何やらスナックをパクつきながら片手間感丸出しである。

ダイスケ・ツジ、以下D: ヘーイ、仁。ダイスケだよ。

J: よう。

D: 君のこと演じた俳優。

J: ああ、存じておるが。

D: 調子はどう? 今日は誕生日なのに僕の代わりに配信してくれてありがとねって言いたくてさ。

J: (伏し目がちでテンション低く) 大したことではない。気にするな。

D: あとどんな様子かなーと思って。どう、チャットの皆や友達と楽しくやってる?

J: いや。最悪だ。

D: そーなの?

J: 最悪だ。俺は誰からも好かれておらん。誰も俺の誕生日を覚えておらんし、おめでとうとも言ってくれなんだ。こう、皆が俺には困った時だけ来てもらえればいいと思っているかのような扱いだったぞ。で、俺がどうしてるかなど気にも留めておらぬ様子でな。もう奴らが本当に俺の友なのかどうかもわからぬようになってきた。

D: それは残念だなぁ。気休めにしかならないかもだけど、僕は君のこと好きだよ。

J: 気味が悪いな。

D: 尊敬もしてるし、

J: 当然だ。

D: 君には元気で、人生ハッピーでいて欲しい。蒙古襲来とか色々、大変なことがあったのはわかるけど……。

J: (背後からのノックの音が) 待て、誰か参ったぞ。

D: (構わず)まあわかるんだけどさ。よく言うじゃん。自分を大事にってやつ。それを忘れないようにしようよ。自分を大事にしなよ、仁。

J: オーケー。もう行くぞ、誰ぞ玄関に来たからな。

D: 僕は君がそうしてくれることを願ってるからさ。

J: (刺々しく)わかったわかった。メッセージに感謝するぞ、ダイスケ。

D: それじゃ、僕はちょっと演技してくるんで。気をしっかり持って、配信は最後までやってくれよ。じゃ、バーイ。(通話終了)

J: 誰か参ったから見てくるぞ。



◆典雄編: 絶望の底には

席を立ち、玄関へ向かった仁。画面外からの声だけが聞こえる。

J: 何方か。

??: ご機嫌いかがですか。お誕生日おめでとうございます、境井様!

J: これは……何と!

??: 本日は境井様のお誕生日ですよね。

J: お主、覚えていてくれたのかー!

??: お慶び申し上げます! もちろん、覚えておりましたとも。

J: (画面内に戻って来ると、二人の姿が) すまんがお主は典雄か、それともアール・T・キムなのか? 瓜二つで見分けがつかぬゆえ。レイシスト的なアレではないのだが。

典雄、以下N: あ、典雄にございます(笑)。

J: 典雄か、会えて嬉しいぞ! まこと祝着。何と、ケーキまで……。

N:(画面に向けて、馬型のチョコレートクリームケーキを披露) いまひとり、あなた様のご友人をお連れしました。我らがノブ・デラックスにございます。

J: これはすごい。お主が拵えたのか、いや、かたじけない……何ということだ!!

N: (日本語で)誕生日おめでとー!!

J: よくぞ配信へ参った、典雄さん。衣服が青だけに背景に溶け込んでしまっておるな。

N: そのようですね。ブルースクリーンな私です! あ、あと髪も。

J: 髪型を変えたのだな、 見てみろ我らを(中腰になり、二人で画面内に並ぶ) 。すっかり21世紀ボーイズではないか! 良いぞ!

N: はい、新しいスタイルなのです。禅寺もリブランディングを推し進めておりまして(笑)

J: 杉寺がな。よし、一口味見をして宴を始めようではないかー。

N: (セッティングを整えようとする仁からケーキを受け取り)お持ちします。

J: (カメラのピント合わせ、座り直す)これでいいんだかよくわかんないけど(笑)。オーケー、ではケーキを……形を崩しちゃいたくないな。えーとじゃあ……。

N: どこに置きましょうか(笑)

J: えー、あっそうだ。これはこっちによけてと。さて皆の衆、来席に感謝するぞ。サッと準備をしてしまうので待っていてくれ。

N: 私は跪いた方がいいですかね。

J: (スペースを作りつつ) こうやってるうちにケーキ崩しちゃいたくないな。絶対避けたい。

N: (デスク上に置かれたケーキのアップを見ながら) あー、やっぱちょっと不恰好になったちゃったかな(笑)

J: いや、不恰好はこのデスクの配置だからな。

N: (笑)いえ、とてもよく整頓されて見えますが。

J: この配信用セッティングは俺とダイス以外、誰も目にしたことがない(笑)。さて、我らは双方ワクチンを摂種済だ。俺はタイムトラベル前に済ませてある。

N: 私もタイムトラベル前に済ませましてございます!

J: (ワイプ操作しつつ)お主も画面に入れるぞ、すまんな。上に来るようにっと。よし。あと部屋が蒸し暑いのもすまんな(笑)

N: たしかに暖かいですね。でも車の温度を低くしてきたせいもありますから。ケーキが溶けたらと心配で。(フォークを取りに席を立った仁が、遠くから「馬のようなものか」と車のことを聞いている) はい、境井様。からくりの馬のようなものにございます。が、どちらかといえば船に近いかと。

J: (二人分のフォークをそれぞれ持って)お主もどうだ。食べてみようではないか。

N: 特製のケーキですよ。境井様のお誕生日ですから。

J: 特製か。うむ、そうであったな。さて典雄、あるいはアール。どっちでも同じで違いなどないが(笑)

N: 典アールですかね?

J: 典アールよ、我が誕生日を忘れておらず、祝ってくれたことに礼を言うぞ。

N: おめでとうございます境井様!

J: 先程まで誰も電話して来ぬわ、返事も寄越さぬわで喧嘩しておったからな。お主こそ今まで俺が知らずにいた真の友と思うたぞ。

N: 境井様のお電話、ずっとお話中でしたよ。まったく繋がらなくて。番号を入れれば良いとは教わっておりましたが、通じなかったのです。

J: なるほど、そこでもう直接出向いてやれとなったわけだな(笑)。車をかっ飛ばして、Wazeに──Wazeとは何だかよくわからんが。

N: アプリですね(笑)

J: オーケー。よし、ではケーキを一部だけ食べでみようではないか。これの写真はもう撮ったのか?

N: ええ、もう撮ってあります。はい。

J: よし、では俺も撮っておかねば! これは撮らぬわけには参らぬものな。この大事な……(二人揃って顔を斜めに傾け、撮影中) バカだな(笑) うん、これは……我らの写真としてもケーキの写真としてもイマイチになった(笑)

N: ホントだ(笑)

J: 少々待て。(立ち上がって、見下ろしアングルからもう一枚) よし。まあどっちみち配信に乗せてるわけだし、いいか。

N: みんなに見られてますしね。

J: 今や我ら、仁とアールはPwoストリーマーでもあるわけだからな。片足んとこ食べても良いか?

N: お望みなら。

J: では足をいただこう。味はチョコレート?

N: 色んなフレーバーが組み合わさってますね。あと今ちょうど見えましたが、その……赤い中身が。

J: (チョコレートクリームの内側のスポンジは、色が赤であることに気づき、食べながらしかめっつらに) 典雄ぉーー!! やめろぉお!! 何てことをぉーー!!

N: おお傷を負ったか、わが忠実なる友よー!(笑)

J: (まだ頬張りながら) 辛い記憶が蘇るではないかーー!!

N: ケーキで心の傷が刺激されるかもとは思いましたが(笑)。

D: (まだまだ頬張りながら)でもおいひいー!

N: ここを見るとね。(カメラのアングルを調整して) 中身はレッド・ベルベットケーキでーす(笑)

J: レッド・ベルベットか! 血の色だから?

N: 血の色だから!(笑)

J: まあ冗談は置いて、我らはまだキャラに入っ、というか仁と典雄のままなのだが。

N: (キメ顔で) 私は典雄です。

J: 直接顔を合わせるのは本当に久しぶりだな。

N: ですよー。同じ部屋にいられて、実際にお互いに触れるなんてー(笑)

J: 1年以上ぶりだものなあ。ただ、時々仮のねぐらまで出向くことはあって、肘と肘をな。

N: そう、肘と肘を合わせて挨拶をね。

J: 手と手はなしだった。今日、この後時間はあるか?

N: ええ。

J: よし、では一緒に飯を食おうではないか。

N: 遊ぶよ〜、遊んじゃうよ〜。この一年がまるでなかったかのように! ゴーストがいよいよ姿を現す時が!

J: ただ、これまでに学んだ諸々の教訓もあるのでな。

N: そう、色々学んだし、僕ら今Pwoストリーマーだから!

(訳注: ワクチン接種の進んでいるイスラエル、米国、英国等はパンデミック後の規制を急速に緩める方向に進んでいるものの、日本ではワクチン接種完了後も引き続きマスク着用、手指衛生、三密回避等の基本対策を怠らぬよう厚生労働省が注意喚起している。米国でも接種完了から数週間後のブレイクスルー感染事例が報告され始めており、ワクチン接種完了=警戒解除の合図ではないことをご留意されたし)


J: そうだな。お主も俺の馬を食べてみるか?

N: ですね、じゃあ少し。こう、切って境井様に心の傷を負わせたくはないのですが。(自分のフォークで足の先を切り分けようとするが、皿の外に落ちて)おっと。おー!

J: (それを手でキャッチして、自分で食べる) まだ注意はした方がよさげな気はするな。手で触ったものは。

N: あー。かわいそうな馬をズタズタにしてるみたいな気分。ノブ・デラックスかわいそう。

J: どっちもワクチン接種してるとはいっても、体液を交換しだすのはまずいよな(笑)。ありとあらゆる体液において。一度につき一種類の体液までくらい?

N: (ケーキを味わいつつ) うん、うん。ちょっと馬肉っぽさある(笑)

J: 美味しい(笑)。

N: (笑)

J: じゃあ、来てくれたみんな、本当にありがとう。配信はこのあたりで終わりです。ACつけよう。あ、これは違う、Pwoゲーミング画面だった。ありがとう、そして誕生日おめでとう自分。境井仁でした。

N: 典雄でした(笑)


この後、視聴からのハイク朗読コーナーを挟み、仁と典雄が画面内でダンスを披露するエンドロールをもって賑々しく配信が終了した。が、冥人の面頬姿で踊りながらチャット欄を見ていた仁が一言。

J: 皆に誤解のないように言っておくと、今日はダイスケの誕生日じゃないからね? ごっちゃになってる人もいるような感じだけど。

N: (笑) ダイスケの誕生日じゃありませんよー。

J: 俺の、境井仁の誕生日だからね。実在するキャラクターの。ダイスケの方の誕生日配信はまた別にやるので。

N: ちなみに典雄の誕生日は教えな〜い。秘密で〜す。

J: 誕生日いつなの?

N: 秘密です!!!





◆おまけ: ダイスケ・ツジによる舞台裏解説

数日後の2021年5月4日(日本時間5日)、ダイスケ・ツジの通常のゲーム配信内で境井仁誕生日配信の裏側についてコメントがあったので、ついでに抜粋する(動画はこちら)。

D: 前回の配信に参加してくれたみんなにも感謝したい。普段は自分の配信を見たりしないんだけど──好きじゃなくて。でも(誕生日配信の)電話のとこはもう何度か見返してる(笑)。はっとするくらい良かったもんねぇ。僕よりできた人なら舞台裏のことは一切言わずに通すんだろうけど、ざっと説明すると、まずみんなにメールで出演をお願いしたんだよね。で、ノってもらったらもらったで──他のキャストからは、「そんなおふざけに付き合う暇ないよ」って反応が返ってきても無理ないと思ってたんだ。だって依頼の文面が「境井仁の誕生日なので、役になりきって電話してもいいですか?」だもん(笑)。お願いしたのは「キャラクターになりきった上で、僕がそうさせようと仕向けても、仁に『誕生日おめでとう』って言葉を言わないで欲しい」ってこと。各キャラクターについては、1センテンスか2センテンスの「このアイデアいけるかもな」程度の指定しかしてなくて、コトゥン・ハーンの場合なんか「ひたすら電話かけてきて」だった(笑)。そのへんは安達殿が「酒甕に首が入ってる」って言い出したのが始まりで。でも、みんなものすごくノリがよくて、おかしくってしょうがなくて、それぞれに独自の面白さがあったよね。
で、見返してみて驚いたんだけどさ。配信中の僕は自分が大部分はちゃんと役に入れてると思ってたのに、キャラが崩壊してたというか、大部分において全然入れてなかった(笑)。本っ当ハッピーな気持ちにさせられたから。あとみんな、思いもよらないような面白いこと言うんだもん。とくにカレン(笑)。ブラとか言い出したり、ご年配だからiPhoneの使い方がよくわかってない様子とか。あ、そうか、そういう主旨ですね、了解ですっていう感じ。でも驚きの内容だったせいで、すっかり意表を突かれた(笑)。最たるものが「鯉」だよ。まああの「鯉」は手の意味で言ってたのかわからないけど、僕はその意味じゃないだろうと確信してた。それか、百合は手だと思ってても実は違ったとかね。でも手にしては「のたうって」たんでしょ? (笑) あれ冴えてたよねー、ひとえに彼女の発案。ゲストのみんなが言ってた具体的な話、たとえばスマリーのセルフケアなんかも僕は事前には知らなくて(笑)、やっぱり意表を突かれたなあ。