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キャストQ&A: 竜三役レオナード・ウー編 抄訳

日本時間で2020年10月4日、ダイスケ・ツジ(境井仁役)とアール・キム(典雄役)が週一で行っているジョイント配信に、『Ghost of Tsushima』竜三役レオナード・ウーがスペシャルゲストとして参加しました。
トーク内容は『Tsushima』制作中の裏話、役者を目指したきっかけやこれまでの出演作、おすすめの本まで多岐にわたり、数時間があっという間の盛り沢山ぶり。初めて聞く話も多かったので、例によって面白かったところをちまちま訳していこうと思います(ところどころ音声が途絶していたり不明瞭な部分があり、話の流れから推測で補っている場合があることをお断りしておきます)。ゲーム本編ネタバレあり。実際の動画はこちら


◆はじまりはじまり

ダイスケ・ツジ、以下D: あ、人が来はじめてる。みなさんどうもー!

アール・キム、以下E: どうもー! 今日来てくれてるこの人見てみてー! レオナードが来てくれたよー!!

(レオナード・ウーの画面を示す)

D: ダイスケとアールのDandE Saga特別配信、今日のスペシャルゲストは竜三役、レオナード・ウーです。わが宿敵の(笑)

レオナード・ウー、以下L: 呼んでくれてありがとう。

E: 仁の「元」親友のね! まずはレオナードのお気に入りのイベントシーンを見るところから始めます。

(ハーンに降った竜三の「門を開けろ!!」のシーン映像が流れる)

E: 鳥肌が立つシーンだね。拍手ー。あ、ちょっとボリュームあげてもらえれば。みんな君の声をもっと聴きたがってるからさ。

L: こっちの声聞こえるかな。ハロー?

D: OK。で、レオナードは『Tsushima』は未プレイなんだったよね? まだ20分くらいしかやってないとか。イベントシーンは全部見終わってるの?

L: うん、目は通してある。嘘は言わないでおくけど、Nintendo64の『ゴールデンアイ007』(日米ともに1997年発売)以来、ゲームをプレイしてなくて(笑)。Twitchでのふたりの配信はよく見てたから、イベントシーンは見終わってるよ。友達が「コレは絶対やっとけ!」って自分のxboxを持って来てプレイさせてくれて、すごい、傑作だ、と思った。うちの大画面テレビで最初の20分はプレイしたんだけど、そこからちょっと再訪の機会がなく(笑)

E: 無理もないよ。奥さんがいて、お子さんがいて、生活があって、色んなことやらなきゃいけないんだから。未婚の俺たちとは違うもん(笑)

D: 今は「DandE Saga」名義なもんだから、内輪ネタで「ダンディー・ダディ」を自称したりしてるんだけど、ふたりとも実際はダディーでも何でもないからね(笑)。そこいくと君は本当のお父さんだから。

L: そうだね(笑)


◆『Ghost of Tsushima』、そして竜三との関わり

D: じゃあ質問に入ろうかな。君にとっての『Ghost of Tsushima』の旅の始まりは? 一番最初の頃の記憶って何なんだろう。

L: 実のところ元々は、パトリックの役(コトゥン・カーン)を狙ってたんだよ。

E: みんなパトリックの役狙いだったのかー!(笑)

L:『マルコ・ポーロ』(2014年よりNetflixで2シーズン制作された、モンゴル帝国の全盛期を描く歴史巨編。レオナードはチンギス・ハーンの係累に連なる王子オルスを演じた)に出演していた経験から、制作側の求めてるイメージはドンピシャでわかってると思ってたんだけど、役にはドンピシャじゃなかったらしくて(笑)。

D: (笑)

L: 長身でどっしり重量感のあるタイプがいいのかと思ってたんだよね。『マルコ・ポーロ』では、ベネディクト・ウォン演じるフビライ・ハーンの兄弟役だったアマル(アマルサイカン・バルジンヤム、フビライの弟アリク役)っていうモンゴル人俳優がいたんだけどさ。(声真似で)とにかくパワフルな人で、喋り方もこんな感じで(素の声に戻り)実際普通の時の声もこうなんだ。そういう雰囲気が欲しいんだと思って彼のイメージでやってみたら、あ、コトゥン役には合ってなかったか、という結果で。それからしばらく音沙汰なくて、牢人のサムライ役でコールバックがあった。それが確か……2017年の12月? だったかな。その時はちょうど、ふと思い立って『七人の侍』を見返してたところで、「制作側が求めるイメージはわかんないけど、三船敏郎でいこ」って思ったんだよね(笑)

(一同笑い)

見事役を射止めたレオナードは、三船をイメージの出発点として竜三役を肉付けしていったという(コメント欄にいた『Tsushima』アニメーション・ディレクターのビリー・ハーパーによると「竜三はより腹ペコになった三船だったよ!」とのこと)。前述のお気に入りシーンを挙げた理由については、以下のように語る。

L: ふたりもわかると思うけど、ビリーやネイト(・フォックス)、イアン、Sucker Punchのチームとの仕事は、LAまで飛行機で来てくれたりして、かなり共同作業的だった。彼らと話すなかでも強い共感をもって語られていた竜三は、誤った方向に導かれはしたけれど、決して典型的な悪役じゃない。ダイス、君との場合でも──同意できなかったら訂正してもらいたいんだけど──僕らが表現しようとしていたことのひとつは、互いをかけがえなく思っているふたりの友情だったでしょ。繰り返しになるけど竜三は典型的な悪役じゃなく、志村殿に(小茂田での召集に応じて)散々な目に遭わされた後、一番仲間のためになることをしようとしてただけ。彼の行動原理はそこにあるし、立派なところでもあると思ってる。で、あそこをお気に入りに選んだのは竜三がいかに道を誤り、もう後戻りのきかない道に入ってしまったかを自覚するシーンに仕上がったからで、本当に満足してるんだ。

D: 撮影当日の様子をよく覚えてる。現場で見てても、ゲームでプレイしても感動した。竜三は好きになりたくないタイプだったとしても、気にかけずにはいられないキャラだよね。

E: 見事だなって思ったのは、刀を構えて再会した瞬間にお互い「え、おい待て、お前生きてたのかよー!」ってなる場面からの流れだな。彼らの間のエネルギーというか、パッと明るくなる感じで「ああこのふたり、大切な友達同士なんだな」ってことがわかるのに、後に続く共演シーンでは常に「お前のこと大好きだけど大嫌い」って空気があるんだよね。

仁と竜三の愛憎関係に話が及ぶと、ダイスケ・ツジからもこんな指摘が。

D: 最初に竜三と再会するシーンで、仁は竜三も小茂田の浜にいたことを知って驚いてたでしょ。馬に乗って同行するシーンだから、ボイスオーバーセッションで演じた部分になるんだけど。竜三は自分の仲間と小茂田に行って酒を呑んだりしてたのに、友達であるはずの仁には声をかけなかったんだよね。身分が違うとか、そういう理由で。仁っていうキャラクターはそのへんの機微に鈍感で、「えっ、なに、どうしたの竜三。俺ら友達だったじゃん、何で言ってくんなかったんだよお」って調子なんだけど。

竜三というキャラクターについてのレオナードの認識は以上が基本線。以下、ハイライト的に面白かった部分を列挙。


◆背後が気になる司会2人

仕上がりの想像がつきづらいモーキャプ撮影中と比べ、ゲームの出来を見て一番驚いたことは何か、という質問に対してものすごく真面目に回答しているレオナード。だが司会2人の目は背後に現れたレオナード宅の飼い犬へ釘付けに。

L: ……とにかく見事だよ。みんなの軽快な動きときたら。君らふたりにしても、ローレン(・トム、政子役)、スマリー(・モンターノ、ゆな役)にしても、パトリック、フランソワ(・チャウ、石川役)も実物そのもので、現実感がないくらい。

D: で、君んちの犬の名前はなんなの?

L: 犬?(振り向いて初めて気づく) あ、この子のことか。気づかなかった(笑)

D: 気になり過ぎて、答えの最後の方は全然耳に入ってなかった(笑)

E: ゴメン、つい盛り上がっちゃって(笑)

L: 名前はペニーだよ(笑)

E: ペニー! 可愛いなあー。

D: よし、配信の残り時間はあと全部ペニーのことだけやろう(笑)

L: キツネでもいれば良かったんだけど(笑)

D: ペニーのこと撫でてあげて(笑)。ゲームの外の話で一番驚いたことは何? ファンダムとか、誰かから感想を寄せてもらったとか。

L: たくさんあったよ。ファンの皆さんからのファンアートとか、(今度は背後から幼いお子さんの声。ちょうど『Tsushima』撮影中に誕生し、育児で睡眠不足だったレオナードが「ゾンビみたいになって現場に行って、すんません寝てなくて、と謝っていた」という娘さんは、そろそろ2歳になるそうだ。ちなみにディレクターとツジ氏は当時、「演技に活かせばいいよ。竜三は空きっ腹を抱えて子供が生まれたばかりってことで」と返していたという) ──今のは娘です。ダディに挨拶してます。

D: ゴメン、娘さんの名前はなんていうの?(笑)

L: ライリー(笑)。ちょうど寝る準備中。

D: ペニーとライリーかあ(笑)

E: かあわいいー(笑)

目尻を下げる司会2人であった。


◆『マルコ・ポーロ』と『Tsushima』のニアミス

前述の『マルコ・ポーロ』はシーズン2までで制作が終了したものの、幻に終わったシーズン3では日本侵略の顛末が描かれる予定で、『Tsushima』脚本のイアン・ライアンなどにもその話をしていたという。

L: 『マルコ・ポーロ』の第2シーズン終了の数年後、まさに日本侵略編の第3シーズンが作られる予定だったんだよね(番組は2016年に終了したので、その数年後にシーズン3制作が始まっていたら、まさに『Tsushima』の撮影期間と丸かぶりだった)

また長年ムエタイなど格闘技を習ってきたというレオナードは、2作品のバトルシーンの違いについてこう語る。

L: 『Tsushima』でやったサムライの戦いには、刀の持ち方ひとつ、武器の使い方のアプローチにしても伝統的なやり方があった。でもモンゴル史の記述を読んでみると、彼らの戦い方は勝つためなら何でもありで、誉なんか問題じゃない。ちょうどコトゥン・ハーンが松明の火を投げつけてたみたいに。オルスは敵側の一族の出で、女戦士たるクトゥルン姫の兄なんだけど、彼女は素晴らしいレスラーなんだよね。家族がレスラーという設定だから、柔道や柔術の基礎固めに時間をかけてたよ。だから、サムライの戦い方とはかなり違うね。


◆原点は京劇俳優

モーションキャプチャー撮影時に着るボディスーツについて。たとえば政子役ローレン・トムなどはなかなか慣れることができず苦労していたようなのだが、レオナードは違ったようだ。

L: とくには気にならなかったかな……。子供の頃京劇をやってたから。着心地の悪い衣装に慣れてたのもあるかも。(しばらく音声途絶)アレを着てセットに現れるのがダイス1人だったら笑っちゃうけど、みんな着てたわけだしね。役に入ってれば、アホみたいなスーツを着てる自覚すらなくなるし。

D: 京劇をやってた時は実際に舞台に立ってたの?

L: うん、大してうまくもなかったんだけどさ。(しばらく音声途絶) ワシントンD.C.で育ったんだけど、全米から子供が集まってくるティーンエイジャーの京劇劇団みたいなのに所属してたんだよ。どういう経緯でやることになったんだっけかな、姉がやってたから僕もやる羽目になったような。気温40度の蒸し暑い中、フルメイクでワシントン・モールを練り歩いてパフォーマンスしたりしてたから、不自由な格好には慣れてたかも。大変は大変だけど。

インタビューの後半部分で語っていたところによるとレオナードの両親は演劇関係者というわけではなく、「空き時間は安全な場所にいて、トラブルに巻き込まれないよう」習い事としてやらせたかったのではないかとのこと。最初は嫌々始めた京劇だが、元々ジャッキー・チェンが好きだったため武器を持って戦うことができる格闘パフォーマンスの面白さにはまり、12歳頃から高校を出るまで毎週末リハーサルなどに励んでいたという(本人がインスタにアップした当時の写真がこちら)。おかげで振り付けの覚えが早くなり、動きのひとつひとつに意味をこめる京劇特有のスキルも歴史ものの出演時に役立っているそうだ。


◆竜三との最後の対決シーン

日本の『ファミ通』インタビューにおける「竜三との最後のシーンや、その前後は、撮影の最後の自由演技によって生まれたシーン」というツジ氏の発言を受けての視聴者からの質問は、「自由演技をするにあたっては打ち合わせがあったのか、あるいはぶっつけ本番の完全即興で行ったのか」。

D: モーションキャプチャーって僕にとってはかなり舞台的で、制作側の理由がどうであれクリーンなショットが求められるでしょ。クリーンで精確、みたいなショットを。でも最後のテイクでは自由にやらせてもらえることになったから、話し合って決めたんだ。僕が刀を抜いて、ああしてこうしてって。「冥人のお前が言えばどうとでもなるだろ」のシーンでは、クリーンかつ安全第一で最後のテイクを進めてたんだけど。君がずいっとこっちに向かってきたんだよね。竜三は仁が誉を重んじる男で、友達を殺すはずないと思ってるから。で、刀の先で刺しちゃいたくないから、僕がちょっと後ずさって。

L: そうだね。

D: だから、事前の打ち合わせはしてたよね。体の動き主体のシーンではとくに刀を持ってるってこともあって、共演する役者が驚いてしまうような真似はしたくないし。

L: だね。サプライズ要素は好きな方だけど、この作品はやっぱり歴史物だから、動きのひとつひとつが精確じゃない。体を使った即興演技ができる範囲にもおのずと限界があるし、当時の人の動き方という特異性のある動きだから。やりすぎるとあまりにも現代風になってしまう。要は極力無駄のない動きを心がけるってことかな。


◆『Tsushima』撮影現場のリハーサルが楽しかった話

『Tsushima』が初のビデオゲーム出演作になったというレオナードにとって、ドラマや映画とは異なる作業の流れも興味がつきないところだったようだ。

L: よく人にも話してる逸話があって──ダイスはその場にいたかな、って出演シーンは全部君と一緒だったから、いないわけないか(笑)。聞こえてたかどうかはわかんないけど──僕さ、ネイトにこう言ったことがあるんだよ。「撮影前にリハーサルのプロセスが入るのってすごくいいですね」って。

(共感した様子で笑い出す司会2人)

L: ネイトはこっちを見て「えっ、どういうこと、ハリウッドじゃやってないってこと?」って。「いやー現場に行ったらすぐ本番なんで」って言ったら「ひどいね」という返事が返ってきて、僕は「そう、ひどいんですよ! リハーサルやらせて欲しいです!」って(笑)

E: 僕の場合もリハーサルのあった現場って『シェイムレス』だけだ。その時の監督が年輩のイギリス人で、舞台畑の人だったから。リハをやるって聞いて「えっマジ? マジであるの? はわ、はわああー(拍手)」ってなったもん。嬉しくって。

L: (『Tsushima』の現場では) 舞台の仕事を10年近くやってなかった分の飢えを満たしてもらったような気がしたなあ。リハーサルやって、作品の世界を考察して、みんなで話し合ってさ。しかも漫然とじゃなく、あくまでパフォーマンス本位の下準備としてやれてる感じ。ひたすら共同作業的な、めったに出会えない感じの現場だった。映画やテレビでは予算とスケジュールの兼ね合いで、とにかく機械的に進み続けなきゃいけないことが多いから。ゲームの仕事にもそういう側面はあるけど、最高のパフォーマンスをものにするのが第一義になってるもん。役者としては、自己中心的にも「ぜひお願いします」でしょ。

D:ほんとに。結局は予算の都合なんだろうけど、テレビや映画の現場はなんでもっとリハーサルやらないんだろね(笑)。一日だけでもいいのにな。

E: せめて半日でも。

また、制作中頻繁にキャラクター設定が変更されていった経緯も、レオナードには興味深かった様子だ。竜三はもともとここまで大きくフィーチャーされる予定のキャラクターではなかったのではないか、というのが彼の印象で、アール・キムも自分の演じた典雄が当初予定からはかけ離れたキャラクターに仕上がった、と証言。テレビドラマや映画では脚本通りに演じるのが基本だが、ディレクター、脚本担当、演者が同じ現場で話し合いながらキャラクターや物語をどんどん広げてゆく『Tsushima』の作劇スタイルは、大変心躍るものだったという。ビリー・ハーパーの「レオとアールのおかげで2人のキャラ設定をもっと拡げたくなったんだよ!」というコメントを見るに、俳優の演技が制作チームを触発した部分もあったらしい。石川役フランソワ・チャウがプロデューサーに「ゲーム制作では守るべきスケジュールみたいなものはないの?」と尋ねるに至った理由の一因もこのあたりにありそうだが、作品の仕上がりを見るにおそらく必要不可欠なプロセスだったのだろう。


◆ミフネになるはずだったのに

キャラ設定の変遷にまつわる流れで、こんな話も。

D: (デラックス・エディション特典のコメンタリーを見ていて) ネイトが制作プロセスについて語ってたとこで驚いたんだけど、当初は仁役に三船敏郎みたいなタイプを探してたんだって。そこへ現れた僕がアホの子みたく(変声で)「わぁ〜キツネちゃんだぁ〜、きゃ〜わいいキツネちゃんだねぇ〜」みたいなことやったら、「それだ!」ってなったらしくて。

(隣の画面で爆笑しているアール・キム)

L: まだ観てないわ、観てみよ(笑) 。え、それやったら「これぞ仁だ!」ってなったの?

D: うん(笑)。一応ストイックにやってはいたけど。

L: でも僕も確かに見かけた。仁がかわいい動物に気を散らされてるとこ(笑)

D: そしたら出演することになっちゃった(笑)

断るまでもなく「きゃ〜わいいキツネちゃんだねぇ〜」とは言っていなかったであろう仁役の選考プロセスについては、前掲の『ファミ通』インタビューと、後日出演したDechart Gamesゲストインタビューも参照のこと。


◆仁は竜三を助命するべきだったのか?

D: 仁は竜三を生かしておくべきだったと思う? 僕自身も一方で「おい、ここだけの話にしといてやるから、二度とふざけた真似すんじゃねーぞ」って話を丸く収めることもできなくはなかったと思うんだよ。政子にもちょっと似たようなことしてたみたいに。でしょ? それとも、彼を殺した仁は正しかったと思う? もし君が仁だったとしたらどうしてたかな。

L: ああ、政子と比べてみようとしたことってなかったな、ちょっと考えさせて。そうだなぁ…………。

D: 好奇心で聞いてるだけなんだけど。もし何だったら──

L: いやいや、すごくいい質問だって! 仁ってすごく利他的なキャラクターで、この2020年という年が必要としてるヒーローじゃない。いま『Tsushima』がこうまで人の共感を集めてるのにも、大きな理由があるんだよ。みんなが行動自粛期間に入ってやるゲームが必要だったからじゃなく、大変な傑作だったからだ。僕らには利他的なヒーローが必要で、彼のようなキャラクターの中に逃げ込むことが、心の浄化作用をもたらす経験になってるんだよ。
とはいえ、仁は為すべきを為したと思う。再三にわたって努力はしてきてたからね。人の過ちに寛大で、自分の道徳的指針に従って生きようと最大限頑張ってたし、竜三のこともぎりぎりまで楽観視していたし。最終決戦のはじめに「俺と来い、投降しろ」ってチャンスを与えてたのも、だからだよね。やっぱり仁はやるべきことをやったんじゃないかな、って思うけど。

D: だと思う。それでもやっぱり、まだ悲しい気持ちだなあ。

L: そうあってしかるべき。撮影中にも話し合ったように、なるたけ感情移入しやすいキャラクターに仕上げるのがキモだったわけだし。ただの分かりやすい悪役だったら、寝返ったってどうってことなくなっちゃうでしょ。同じさやの中の豆ふたつ(peas in a pod)のような、似たもの同士の一方が裏切るからこその、あの恐怖感なんだもの。


◆役者を目指したきっかけ&俺たちUCLA

アール・キムからの「これまで会ってきたアジア系俳優の全員について知りたいと思ってきたことを質問させて。役者の道に進んだきっかけは? そして、親御さんはそれをどう思ってたの?(アジア系の家庭では子供に対する親の意向が、他人種グループの一般家庭より強めに働く傾向がある)」という質問から始まったこの話題については、飛び飛びに追加情報が出ていたためひとまとめで記述する。
「役者になりたいと思っていなかった時を思い出せない」ほどの昔から役者志望だったらしいレオナード。京劇、とくに舞台での格闘パフォーマンスに熱心に取り組んでいたものの、本格的に演劇を始めたのは大学進学後だったという。

D: で。その進学先っていうのがー。どの学校なんだっけかぁ?(ネタふりの顔つきで)

L: UCLAでーす(笑)

D: ブルーインズー!(UCLAの学生スポーツチームの総称。バスケ、サッカー、ソフトボールなどの強豪校で、全米選手権での総優勝回数は1、2を争う。ツジ氏もUCLAで演劇学を学んだ) なんか、なんだっけ。ブルーインズを応援する時のハンドジェスチャーってあるんだっけ?

L: Eight Clapっていうのがあったね。ブルーインズは。

D: なにそれ、知らないや。結局一度も参加せずじまいだったんだよなぁ。

L: 同じく(笑)

E: はははは!(笑)

UCLAでは主専攻を英語、副専攻をアジア系アメリカ人学とし、ランドール・パークが設立したアジア系俳優の劇団「Lapu, the Coyote that Cares(LCC)」に参加(出典)。在学中に将来の進路希望を打ち明けられた両親は、困惑しながらも反対はせず「じゃあ自分の能力を証明してみなさい。やりたいことなら頑張ればいい、ただし独力で。大学を卒業したら財政的なサポートはしないから」と応じたそうだ。キャリアが軌道に乗るきっかけとなった作品は『Veronica Mars』(2005年出演)で、レオナードがスクリーン・アクターズ・ギルド(映画俳優組合、通称SAG)に加入してからの(つまりちゃんと報酬が出る)初仕事でもあったという。


◆竜三との共通点

視聴者からの質問「竜三はどんな人物だと考えていますか。彼と性格的に似通った点などはありますか?」

L: どう生きていくか、どう振る舞うべきかの基準を高めに置いている人物、っていう風に考えたいところかな。社会的地位の低さのわりに、竜三は信じられないほど高潔な男だと思う。自分の仲間たちにとっての最善を尽くそうとする人なんですよ。しかも国や政府が定義したことによってじゃなく、ただみんなのため。そこを大事にしてるあたりに、一番心を打たれますね。僕にとっても大事なことで、友人と家族の意見を何より大切にしてるので。竜三のように生きるか死ぬかの経験はしたことがないけれど、彼らのためなら僕も何でもやると思います。たとえつらい選択であっても。

D: ……人を焼き殺す、とかでも?

E: (笑いをこらえきれず口元を覆う)

L: たとえて言えばね。あくまでたとえ(笑)


◆日本のファンの竜三に対する反応

視聴者からの質問「日本の男性プレイヤーは竜三に苛つく場合が多く、女性プレイヤーはより同情的な場合が多いように見受けられるのですが、あなた自身は彼のゲーム内での行動をどうとらえていますか」。米国では男女差を前提に物事を論じてしまうと性差別的にとられかねないからか、少し言葉選びが慎重になるレオナード。

L: 竜三についての意見が性別によって二分されてたとは知らなかったので、すごく興味深いですね(笑)。でもわかります。一歩引いて一連の流れを見てみれば、親友を裏切ったわけですから。ふたりが見てたかどうかは知らないけど、面白いんだよ。この2、3か月くらいの間に竜三のことを裏表のあるクズだと罵倒してたツイートって、かなりの量があって(笑)

E: そんなあ!(笑)

D: ええー(笑)

L: おー本当に毛嫌いされてるなあ、大したもんだって思ってた(笑)。繰り返しになるけど、やっぱり親友を裏切ったからには無理もないんですよ。それはわかる。でもあの時点での竜三が忠誠を誓ってたのは、生き延びるために自分を頼っている仲間たちだった。そして、自分が決して属することができないであろう階級を象徴する存在たる仁との間には、複雑ないきさつもあったわけですから。

D: さっきも触れたけど、小茂田の浜で竜三が仁に声をかけなかったという事実が、とたんに多くを物語ってくるよね。ふたりの友情はその時点でもう、微妙な雲行きになってきてたんだ。


◆撮影監督ビリー・ハーパーからの質問

『Tsushima』のアニメーション監督、撮影監督などを務めたビリー・ハーパー氏は、配信の途中で「子供と『アバター』見る時間だからー!」とコメント欄から落ちていったのだが、置き土産に質問を残していた。すなわち、「制作チームから言われた一番ヘンなリクエストは何でしたか」。彼がレオナード以外にもよく尋ねている質問らしいのだが、レオナードは「みんなすごく思いやりがあって、おかしなことやキャラクターの性格からいってありえないようなことを要求された覚えはないんだけどなぁ」と思いあたる節がなさそう。代わりにツジ氏がひとつ裏話を紹介する。

D: じゃあまだ言ったことない話を追加するよ。(レオナードの方を見て)僕らの最後のバトル前の、あるシーンで──言っちゃダメかもだけどまあいいか、チームから城が炎上するっていうアイデアが出たんだよね。「じゃあ火元はどういう風にしよう?」って話になったんだけど、結局いい案が出なくって。僕が「じゃあこっちで考えときますよ」ってなったのね。で、あるテイクでやってみたことっていうのが、どシリアスなシーンの後に燭台んとこまで行って、それを刀でどついて倒すこと(笑)

E & L: (笑)

D: 笑えると思って(笑)

E: 気難しい猫がヘソ曲げたみたいに?(笑)

D: うん。(キメ顔で)「戦うぞ!」そしてシュッ。あの映像、とっておいてくれるといいんだけどな。秘密のテイクがたくさんあるから。

E: 仁猫のDLCね(笑)。テーブルの上のものをなぎ倒すやつ。人んちのものをひっくり返してめちゃくちゃにすんの(笑)


◆好きな戯曲は?

L: え、これはダイスとアール向けの質問のような気がするなぁ。うーんと……。

D: 自分が出た舞台ならどう? 覚えてる作品で。

L: 最後に出演した舞台が『去年の夏、突然に』なんだよね(南部の富豪一家のある事件に巻き込まれてしまうクックロヴィッツ医師役、2008年出演)。だからテネシー・ウィリアムズは大好きだよ。『熱いトタン屋根の上の猫』も。でも本当の本当に好きな作品っていうと、正直戯曲は長いこと読んでないからわからないかな……あ! でもね。出任せでもなんでもなく『Tsushima』にキャスティングされて、ダイスと仕事するようになる前、『Cambodian Rock Band』を観に行ってたんだよ。友達のレイモンド(・リー、テッド役)も出てたから。

ローレン・イー作『Cambodian Rock Band』(YouTube内トレイラー)は、クメール・ルージュによる大虐殺の歴史を、カンボジア系アメリカ人女性とそのサバイバーたる父親が振り返るという筋のミュージカル劇。ダイスケ・ツジは強制収容所S-21の所長だったドイクことカン・ケ・イウとして悪役兼狂言回しを演じ、複数の演劇批評家賞を受賞した。ちょうど今月下旬にツジ氏の古巣Oregon Shakespeare FestivalがDare To Dream ガラというオンラインイベントを開催することになっており、オリジナルキャスト再集結が予定されている。また来年2月には出版予定もあり、日本でもkindleで購入できる模様。

L: その時君にも「今度一緒に仕事をする予定で」って挨拶させてもらったんだけど、周りにものすごく人が多かったから覚えてないかも。過去10年の観劇経験のうちでお気に入りの作品っていったら、今でもたぶん『Cambodian Rock Band』だよ。声をあげて笑ったり、ニンマリさせられたり、ダイス、君はとにかく素晴らしかった。キャラクターに起こるまさかの展開もよかったし。ダイスのシーンから劇が始まるんだけど「この人最高だな、めっちゃ楽しいじゃん」って思って。

E: で、その直後にまがまがしさ全開になるんだよね(笑)

L: うん、かなりまがまがしいけど、ものすごく心がこもってた。あれは名作だよ、出演者全員素晴らしかったし。間違いなく過去10年で観に行った舞台のベスト。

D: 僕自身もバイアスがかかってはいるけど、今まで出た中ではお気に入りの作品なんだ。


◆好きなニンジャ・タートルは?

L: (笑)名前がレオだから、どうしてもレオってことになっちゃうかな。あと仲間内でやってたネタでは、X-MENだったらどのキャラかっていうのもあって。他のみんなはイケてるキャラを選んでもらってるのに、僕だけ「お前サイクロプスな」って言われて(笑)。僕は「は!? なんであんなクッソつまんないださいキャラなんだよ!」ってなったんだけど、「うんでもサイクロプスみたいな奴だし」って返されて、「あっそう、じゃあいいよそれで」と。思えばレオっていろんな意味でサイクロプスみたいで、物事を深刻にとらえすぎる奴なんだよね(笑)。

E: でも誰かはリーダーになんなきゃじゃん?

D: だよね。友達からは君はそういう人だと思われてるわけ?

L: うん。一緒にいて楽しくないとまでは言わないけど、物事をまじめに考えすぎる奴だとは思われてるかな。

D: 自分では自分のことどう見てるの?

L: 間違いなくムカっとは来るけど、おそらく本当なんだろうなって(笑)

D: そっか、認めるんだ(笑)


◆満を持してのあの質問

ダイスケ・ツジの『Tsushima』初通しプレイ配信中に生まれたバーガーネタはすっかり熱心なファンの間に定着しており、一部ではもはや「竜三といえばバーガー」と言っても過言ではない状況。それを受けての質問が大トリにやってきた。すなわち、「お気に入りのハンバーガーショップはどこですか?」

L: すごい面白いな〜(笑)。じゃあ配信を見てなかった人たちのためにいきさつを説明するね。以前、ダイスが配信をしてた時に(リアルタイムで)Sucker Punchの人たちもたくさん視聴しにきてたんだけど、ダイスと僕が出演してるあるシーンでネイトがこう聞いたんだ。「レオナード、このシーンでの竜三のモチベーションって何だったの?」って。僕が「バーガー食いたさ」って答えたらそれがネタになっちゃって、ファンの人たちがバーガーを追いかける竜三のすてきな絵なんかを描いてくれたりするようになったんですね。でも僕、実はベジタリアンなんで(笑)。肉類はもう長いこと食べてません。なつかしくは思ってるから、どこか選ぶとしたら「In-N-Out」かなあ。

D: ビーガン・バーガーの店には行ってみたことある? フェアファックスにあるやつ。

L: そこは知らないかも。

E: 「Impossible Burger」は試した?

L: うん、「Impossible」と「Beyond」(どちらも100%植物由来の代替肉、バーガーショップでビーガン向けのパテとして使われている)はたくさん食べてきたよ、どっちも美味しいよね。もう赤身肉の味もちゃんとは覚えてないんだけど、それっぽい味を思い出させてくれるから好きで食べてる。食べたくないわけじゃなく、食べるのをやめたんだよね。

数年前から「最初は牛肉と豚肉、それから鶏肉と段階を踏んで」菜食主義に移行したのは、アニマルシェルターを手伝うなど動物福祉活動に熱心だったためで、「動物好きとビーガンはセットみたいなもの」なのだという。ただし、

L: 大袈裟に聞こえるけどほんのささやかなことだし、他の人に自分の信条を押し付ける気もないんだ。妻は「そう。それじゃダメだけどね」って意見かもしれないけど。本当にちょっとしたことだし、だんだんそういう風になっていったんだよね。動物の屠殺場の映像や記事を見過ぎて「あ、もうだめだ! もう肉食やめよう」ってなっちゃった。シーフードを消費した方がまだ気が楽だったんだけど、友達に「魚だってあんま可愛くないだけの動物じゃん?」って言われて。それからは魚もやめたよ(笑)

D:僕もいま「No Beef, No Pork」の段階にいるよ。(着用中のブタちゃんTシャツを示して) 皮肉にも今「君のこと大好きだからお願い、食べないで」Tシャツ着てるけど。昔は皮肉の意味で着てて、いまは文字通りの意味で着てるかも。もう豚肉は食べてない。


◆しめくくりの言葉

最後に何か言いたいことは? と問われると、それまで答えの前にまず真面目に考え込んでいたレオナードが、即座に口を開いた。

L: 「みんな、続編でまた会おう」。(と口にしてから、まずい、言い過ぎたかなといった表情)

D: ははは! イェーイ(笑)

E: ビリーあてにウィンクしとこ。

D: 前日譚でもいいんだよ。

L: 冗談、冗談だよ。それはおいといて、ダイスと、あとパトリックと仕事するのが本当に好きだった。他のキャストメンバーとは現場では会えてなかったし、アールとも実際に対面したのはみんなと一緒の機会に一度だけだけどね。アーティストとしても、人間としても素晴らしい人たちと同じ仕事に携われて、幸せだよ。アジア系アメリカ人俳優にとってこんな機会はめったに巡ってこないし、特別なプロジェクトで仕事をさせてもらえたこと、そしてそれを広く一般にも、ゲーマーにも前向きに受け入れてもらえたこと、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。みんなにお礼を言いたい。君たちと一緒に素敵な旅ができたよ。

D: いつも言いあってるんだけど、都市封鎖や隔離がなかったら今頃、キャストパーティーとかランチパーティーとかやってたと思うんだよね。まだ先送りにはなるだろうけど、そのうちあるはずだから。楽しみにしてる。

E: じゃあ、今日はありがとう!

L: ありがとう、みんなありがとう。