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私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(18)- 日本人マインドと香港人的マインドセット -

社長の一声で「Customer Oriented Mind」が社是となった時期があった。

当時の香港で
「お電話ありがとうございます。A公司でございます。」
なんて電話に出る会社は皆無だった。

掛かってきた電話に出る時は
「喂!(=もしもし)」
だけで自社名は名乗らず、掛けてきた方も
「xx、唔該!(=xx(電話に出てもらいたい人の名)、お願い!)」
だけで自分の名前も名乗らず、その電話を
「xx、搵你!(xx、あんたに電話)」
だけで繋ぐのがデフォルトだった。

無意味な日本人的マインド空回り

ある日、何を勘違いしたか社長が
「わが社は今日から Customer Oriented Mind でいくぞ!」
とか言い出し、電話に出る際は
「Hello, xxxxxxxx(英語の弊社名), may I help you?」
と言え!との令が下った。

なんで英語?日本人顧客はウチの会社の日本人営業マンの携帯電話を知っているのだから直接電話を掛ければ良いし、会社の総務には日本人もいれば日本語に対応できるスタッフもいる。

各部署の担当スタッフに電話掛けてくるのは顧客側もほぼ香港人スタッフのみ。お互い広東語のままでええやん?誰も英文を必要としてませんけど?とキツネにつままれながらヘソで茶を沸かす状態だった。

当初は China Division の若手スタッフも素直なもんだからちゃんと号令に従ってやってみた。
「Hello, xxxxxxxx, may I help you?・・・電話切られた!」
と雄たけび。
すぐにまた掛かってきたので再度
「Hello, xxxxxxxx, may I help you?」
とやってみたところ、また光の速さで電話を切られた。

トラック屋のボスに違いないと思い、若手スタッフ君が電話を掛け直してみた。「ボス、今電話してきたのボスでしょ?」「あー、やっぱりお前んとこやったか。突然英語が聞こえたから電話番号間違えたのかと思って速攻切ったがな!」

私達 China Division が相手にするのは、トラック屋のボス、トラック・ドライバー、腕から背中から足にまで龍だの虎だの観音だののタトゥーの入った倉庫のオッサンや兄ちゃん達。そんな人たちが英語ペラペラなわけなかろう。てか、それまで「喂!xxxx!」だったのがある日突然「Hello, xxxxxxxx, may I help you?」とか聞こえたらビックリして当然よね。

なので私も相変わらず「喂!xxxx!」とまるまる広東語で電話に出る日々を続けていた。

China Division は相変わらず広東語で電話に出ていると誰かがチクったのか、ある日、日本人駐在員がわざわざ外から電話をしてきた。電話を取ったのは幸か不幸か私。

「喂!xx!」と電話に出た私の声を聴き分けた駐在員。
「ソフィ!xxxx(社名広東語読み)って出るな!!Customer Oriented Mind やろ!」と激おこ。

「は?ウチは China Division ですよ?英語できる人が電話掛けてくるとこと違いますよ?私達の相手はトラック屋ですよ?さっきもトラック屋のボスが掛け間違えたかと思って電話速攻切ったんですよ?緊急事態のドライバーが電話掛けてきて英語が聞こえたからって電話切って再度電話するの躊躇したらどうするんです?逆にお客に迷惑かけるかもしれませんよ?我々 China Division は従来通り全部広東語でいきますから!」って言うたった。

そして晴れて我々は全部広東語(大陸の報關員が普通話しか話せない場合は普通話)での業務遂行となる。

香港人の言葉遊びのセンスは最高

香港の法定言語は広東語と英語。広東語がメインで、英語もかなりミックスして使っていた。当時はまだ強制的な國語(=普通話)教育も始まっていなかった。その中でも私がそのクリエイティビティに舌を巻いたのは、Air Cargo Department のマネジャーの独り言。

「今日係Wednesday、聽日係星期Thur!」

これ、このセンス、日本語で説明するの難しすぎる。広東語学習者ならわかってくれると思うが、「星期〇」と「xxxday」をミックスしようなんて普通思いつく?「じゃあ明後日は星期Fri?」「そうだよ」「これから毎日それ使ってくれるの?」「もちろん」とか抜けしゃあしゃあと言えるのはさすが香港人。言葉遊びに関する香港人のテイストとセンスとクリエイティビティは世界一だとここに断言しよう。

香港人は言語能力が高い

香港人はえてして言語能力が高い。広東語は口語、文章を書く時は國語に近い形で書く。当時は広東語と英語の2言語、今は普通話も加えた3言語を使えるのがデフォルト。それ以外の言語が加わわって始めてアドバンテージが取れる。広東語と英語をミックスして話すのもデフォルト。だからこそ上記のマネジャーのような言葉遊びの感覚が出てくる。

同じ音で別の文字を使って暗喩をしたり、新しい単語を創り出すのも日常茶飯事。港式広東語は常に変幻自在。だから港式広東語の勉強はゴールが無い。一生かけて学ぶ。だから面白い。

香港や世界で起きた事件を流行語に取り込むのも常態。広東語学習者は香港や世界事情も追っていかないと彼らの言葉の変化スピードについて行けなくなるということを肝に銘じておく方が良い。

さて、駐在員は偉いと勘違いして偉そうなこと言う頓珍漢以外の日本からの駐在員やトレイニーでやって来た若手たち、香港人スタッフやトラック・ドライバー達とは本当に楽しく仲良くやれて最高の仲間たちだった。次にはこの最高の仲間たちが私を香港人たらしめてくれたことを書こうと思う。(続)

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