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私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(60)- ロケ・コーディネイターの仕事も受注して業務拡大 -

『肥龍過江 / Enter The Fat Dragon』の後は暫く香港電影の現場仕事が無かったのだけれど、その代わりのようにTV番組などの香港・マカオでの現地コーディネイターの仕事が入ってくるようになった。

日本の香港・マカオ専門撮影コーディネイション会社に現地コーディネイターとして登録した。

当時は私もまだ日本を拠点にしていた頃。現地入りする前にはクライアントの要求に沿った撮影準備を手伝った。コーディネイションについては会社側担当者がメインでやるのだけれど、相手が広東語しかできない人であった場合は私が広東語で連絡を取ってあげたり、会社側でどうしても見つけられない取材対象や機材などは私が自分のコネクションで見つけてきたりと現地に入っての現場通訳だけでないコーディネイターとしての仕事もこなした。これが私のキャリアの幅を広げることにもなった。来る仕事拒まず、何でもやってみることね。

某スペシャル番組 -香港ー

2018年、とあるネットTVが某超大物歌手引退スペシャル番組の為に香港で街頭インタビューを撮りたいという案件が入ってきた。

私は前日に現地に飛んでスタンバイ。初日は事前に手配をかけておいた車でディレクターを空港まで迎えに行き、そのまま街頭インタビューへ。なのだが、出迎えて驚いた。『肥龍過江 / Enter The Fat Dragon』以降どうやら私には「金毛縁」が出来てしまったようで、本番組のディレクターも金毛だったのだ。突然の街頭インタビューってなかなか受けてもらえませんよ、と言っておいたがとりあえずやってみたいと言う。

やってみた。やはり玉砕。

TVだから仕方がないのだろうけれど、ディレクターが「かわいい女の子」のみにアタックする。しかし金毛でバミューダパンツの小汚いオッサンなので脚を止めてくれる「かわいい女の子」がなかなかいない。当然私もアタックのヘルプをするが、「日本の」は良いとして「TV」と言うと「やだー」と拒否される。

半日街角でトライしたものの撮れたのは一人二人。しかもディレクターが使いたいと思うような「かわいい女の子」ではない。

事前にコンタクトしてあった超級迷(=かなりのファン)に急遽仕込みをお願いして、翌日、ファン仲間何人かに街に出てきてもらった。

日本の街頭インタビューでもそれ用のアクターを使っていることが広く世間に知れ渡っている(はず)なので賢明なる読者さんならもうお分かりだと思うが、香港でも例に漏れず街頭インタビューは「仕込み」であったり、思ったコメントが取れない場合は Voice Over でディレクターまたは番組の思うようなコメントを載せてあったりすることが多い。この点は気を付けてそれぞれの番組を観て頂きたいと思う。

ちなみにこの金毛ディレクター、どうしても「Champagne Court 香檳大廈」に行きたいので場所を教えてくれと言う。「一樓一鳳」が目当てなのだと。仕事が終わって個人の時間に何をしようが構わないけれど、そういうビルを女性コーディネイターに教えてくれというのはよろしくないことだ、と知ってもらいたいな、日本のこの業界の男性陣には。

実は私、昨今話題のこのビルのことを全く知らなかった。名前さえ聞いたことが無かった。と思っていたのだが、なんと、香港娛樂圈朋友に連れて行ってもらった「新記冰室」で「豬頸肉芝士麵」を食べ、隣をのぞき込んで「ここがよく香港明星が来たり映画の撮影に使われたりした「星座冰室」だよ」と教えてもらったビルだったようだ。

「新記冰室」も「星座冰室」も閉店。古き良き香港の消失が悲しい。

某会員用雑誌 -マカオー

某クレジットのゴールドカード会員用雑誌が「マカオの全世界遺産30箇所を2日間で回る」という企画を持ってきた。マカオはとても狭いし30箇所の世界遺産がかなり集中しているので、当初は1日で回りきる企画として始めたのだったが、自分達が撮影であちこち回ってみると1日はやはりキツイと感じて変更したそうだ。

その変更理由は
・ゴールドカードを持つような方はそろそろご高齢な方が多数なので歩みが遅いはず
・マカオには7つの丘があると言われるように市街地はアップダウンが多く歩き回ると結構しんどい
・せっかく世界遺産を観に来たのだからゆっくり鑑賞したいであろう
・流しのタクシーがなかなか捕まらないので徒歩のみで1日で回るのは無理

マカオは屋外での撮影はやりやすい。三脚を立てなければ事前許可無しで街並み等の撮影が出来る。ただし世界遺産は文化局への事前申請が必要だし、世界遺産に登録されていない教会は当該教会へ直接申請も必要だったりするので、そこは事前に調査し、ルールを守っての撮影。

この時はマカオ観光局の協力もあって、申請さえすれば誰でも入れるわけではないような所にも入れたのはとてもラッキーだった。とはいえ、マカオ人は香港人の私からするととてものんびりしていて、現場であたふたすることも多々あった。

例えば定番「マカオと言えば」の「Ruins of St. Paul's 大三巴牌坊」。観光客が多いので撮影可能な時間に制限がある。朝8時からの撮影許可をもらった際に「現場に到着したら、今から撮影始めます、という電話を担当者に入れること」という約束があったので、現場に到着して電話を入れてみるも・・出ない。オフィスの電話番号なのでちょっと心配はしていたのだが、やはり始業時間前から電話1本の為に早出してスタンバイなどしてくれていない。万が一の時の為に、電話をしたという履歴はスクショしておいたが、結局問い合わせなども無くてズッコケた。それなら「絶対に電話しろ」とか言わんでもええやん。

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これも定番、セナド広場(Senado Square 議事亭前地)。この頃は人のいないセナド広場なんて撮れるわけもなく、ディレクターとカメラマンが朝に夕にとトライしたけれど結局人混みに沸くセナド広場しか撮れなかった。

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ギアの丘、Guia Fortress 東望洋炮台は確かこの時は改修だったかで入場禁止だったのよね。入り口のセキュリティのおっちゃんに観光局案件だからと書類見せて説明して入れてもらった。セキュリティのおっちゃんは広東語オンリーだけれど、私が港式広東語を話すのでガードも低くなり、すんなり仲良くなっちゃった。これが私の強み。

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そしてこの美しいステンドグラスの投射が撮れたのは龍哥のお導きとしか思えなかった。Lou Kau Mansion 盧家大屋。外だけ観ると「これが世界遺産?」と思ってしまうような見てくれだけれど、中に入ると息を呑む美しさ。

このステンドグラスは二階にある。週末と祝日の指定時間に1時間毎程度の頻度で10人限定で上がらせてもらえる。予約が必要なので行きたい方は調べてから行ってください。

この反射を撮ったのは5月頃だったと思う。何も知らずに朝から撮影に行った時に、予約受け付けのお兄さんがこの情報を教えてくれた。1時頃が丁度良いと言うので先に別場所へ撮影に行き、少し早いけれど待てばいいやと12時頃に再度上がらせてもらったら、なんと丁度良い時間でこんなに美しい投射が撮れた。お兄さんに言う通り1時に戻っていたら時間過ぎてしまっているところだった。本当にラッキーだった。多謝龍哥保佑。

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翌日、本来は再度行く予定ではなかったのだけれど、あまりにキレイな情景だったので、もう一度撮りに行きたいとディレクターが言い出した。もちろん時間はキチンと計算して行った。しかしミラクルは続かなかった。曇り空で太陽光が無くて投射が全く出なかったのである。『チャンスは一度』なのね。

ここの入り口のセキュリティの兄ちゃんとも仲良しになってしまった。そりゃそうだ。毎日何度も行けば顔も覚えるさ。数か月後にマカオに行った時に傍を通ったのでちょっと顔を出してみたら、やはりそこにいて「お!久しぶりやん!」と(もちろん広東語で)にっこりしてくれた。今もいるのかな。

この雑誌では急遽モデルも務めた。そんなことがあり得るならもう少しマシな服装をしたかったのに。現場コーディネイターや通訳は機動力が物を言うので、とにかく動き回りやすい格好で仕事に臨む。オシャレからは程遠い。とはいえ着替えに戻る時間も無いし、それより何よりまともな服が無いので諦めてそのままの格好でモデルになった。

マカオと言えば「葡撻」=ちょっとおこげの付いたエッグタルト。そのクローズショットを撮るのに手に持って欲しいというリクエストや、前出のステンドグラス部屋でのモデル。「いやー、ソフィさん、エッグタルトの持ち方にしろ、窓への寄りかかりにしろ、勘が良くて助かるわ!」とディレクターからお褒め頂いた。無駄に時間を取られなくて済むから。エッグタルトをサッと手に持った瞬間に「それ!その持ち方!」とディレクターの思う持ち方が出来たり、ポーズがすんなり取れるのは映画の現場をやったおかげかな。

広東語通訳があくまでもメインだけれど、撮影のコーディネイションをやったり、モデルまでやったりと、出来ることの幅が広がっていく。(続)

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