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『冬未來 Winter Chants』

『大藍湖 Big Blue Lake』(2011)の Jessey Tsang 曾翠珊監督作品。

Jessey 曾翠珊は『河上風光』(2009)、『大藍湖』(2011)、『河上變村』(2012)、そしてこの『冬未來』(2021)と劇映画、記録映画併せて4作品で自分のホームタウンである西貢蠔涌村を舞台にしている。

『河上變村』は村の変遷と共に生きてきた「人」を描き記録した、今回の『冬未來』では「村」とそこに流れる「歴史」を描き記録した、と監督が言った。

香港では各村で「太平清醮」という祭事が行われる。そのスパンは村ごとに違っていて、3年毎の村もあれば5年毎の村もある。ここ蠔涌村では10年に一度である。これまでに撮られていた映像も加えて、時の流れを細やかに記録してある。

Jessey は商業映画と記録映画を半々ぐらいの割合で撮っているせいか、いや、元からセンスが良いのだろう、本作も商業映画のようなスタイリッシュな雰囲気に仕上げてある。あっぱれ。

彼女の実力とセンスは『大藍湖 Big Blue Lake』で金像獎最佳新晉導演を受賞したこと、『非分熟女 The Lady Improper』(20018)でいち早く吳慷仁を起用したことで十分証明されている。

この作品、数年前のHAFで発表されていたし、trailer も出ていたのでとても期待していたのだけれど、期待を裏切らないどころか、非常に刺さる作品だった。

まず、story telling が上手い。内容の進め方も監督本人による voice over もとても心地良い。当初、voice over は自分がやるのもおこがましい気がしてやらないつもりだったのだけれど、結局自分でやろう!と思い立ってしまった、と語ってくれた。

そして「太平清醮」というなかなかに難解な行事がどういうもので、どう進むのかをとても分かりやすく仕立ててある。文章で読んだ時には複雑過ぎてよくわからなかった私も、映像で順を追って見せてくれたおかげで行事の流れがよくわかった。

そして、期してか期せずしてかは聞かなかったけれど、ホームタウンとコミュニティとアイデンティティの関係性を明確に見せてくれている。

鑑賞途中で私はハタと気付いた。私が日本を自分の祖国、ホームとして愛せないのはなぜか。それはそこに私の「根」が無いのだと悟った。子供の頃から長年、家族と共に住んだ場所だけれども、その家もコミュニティも私の「根」になっていなかったのだと悟ってしまった。だから私はあちこち移動することに何の躊躇もないのだと。

私個人の問題に気付かせてくれた作品としてだけでなく、劇映画のような雰囲気をまといつつも香港の貴重な記録を残してくれる映画として、素晴らしい作品。最後にアニメーションを加えたのも一つの手法として面白い。

素晴らしい作品。大好き。高先電影院にて鑑賞。★★★★★

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