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私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(17)- 香港運輸業界で働く -

そして、ひらりと転職。コネクションがあるというのはやはり強い。

また運輸業界へ

日本で入社したのは国際航空貨物の会社だったが、香港法人は航空貨物(Air Cargo)だけではなく陸海空全ての貨物を扱っていた。日本での配属は輸入部だったので、香港法人でもてっきり Air Cargo の Import/Export 部署に配属されるかと思っていたら、実際に配属されたのは China Division だった。

まだ返還前の1994年のこと。香港と大陸の国境ボーダーも24時間オープンではなかったし、人の往来も自由ではなかった。香港人は回郷証という通行証を発行さえすれば自由に出入りできたが、大陸人はパスポートを取り、ビザを申請しなければならなかった時代。

当時、広東省など沿海地域は外国からの投資を呼び込むために「來料加工(=外から来た材料を加工する)」「進料加工」といった形態での市場開放を始めていた。広東省においては「來料加工」用材料の輸入、加工後の製品の輸出は香港との陸送がメインだった。香港と大陸を自由に往来できるのは香港人ドライバーだし、Free Port の香港を通しての輸出入の方が大陸へ直接出し入れするより速くて安いので、陸送手配の窓口は当然香港にあった。ということで私が配属された China Division は香港と大陸の陸送の手配をする部門。なぜこの部門への配属なのかというのは、前職で大陸の工場に関する一切合切を経験しているし、日本企業の香港事務所や大陸工場には日本人駐在員もいるので日本人が対応するのが良いということもあっただろうし、言語的にもマルチに対応できるから、ということだったのだろうと今は思う。

大まかな業務内容

**香港 ⇒ 大陸 (材料)**
大陸に工場を開設している日本企業の香港支社から來料加工用材料輸入手配のオーダー
 ⇓
トラックの手配
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香港に輸入されてきた貨物と報關單(通関書類)をトラックドライバーに渡して出発(国境ボーダー税関にて抜き打ち検査に当たることがある)
 ⇓
工場管轄地税関にて報關員(通関士)が輸入通関
 ⇓
香港を出発してから大陸工場に無事到着するまでの貨物とトラックの全過程サポート&トレース

**大陸 ⇒ 香港(加工済み製品)**
工場もしくは日本企業の香港支社から出荷手配のオーダー
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トラックの手配
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貨物を積み込んでから工場の報關員(通関士)が工場管轄地税関にて輸出通関
 ⇓
工場を出発してから香港指定場所に無事到着するまでの貨物とトラックの全過程サポート&トレース

業務で新しい単語取得

これで陸送のあらゆる単語がボキャブラリーに増えた。
兩地牌=香港と大陸両方を走れるダブルライセンス
三頓車=3トン車
麵包車=ハイエース系のバン
平板車=平積みトラック
尾板=パワーゲート
吊雞=クレーン
拖頭=コンテナトラクタ
大櫃=40フィート・コンテナ
細櫃=20フィート・コンテナ
櫃貨=FCL
散貨=LCL
などなど。数え上げたらきりがない。陸送だけじゃない。陸海空の運輸に関するあらゆる業務が関連してきてボキャブラリーが飛躍的に増えた。運輸業界特有の業界用語かと思っていたら、後に映画の現場に関わるようになってからも、車の手配だのなんだのに使っていたりして、この時に多くのボキャブラリーを取得しておいて良かった、なんて思うこと多々あり。自分の経験が後にひょんなところで役立つことがあるのだから、あらゆる経験はプラスになるものだと思って良し。

車内で一番大変な部署だった

1)休みが取れない
China Diviion は年中ほぼ無休。大陸の祝日は香港の祝日ではないから China Division は香港的通常業務で休めない。香港の祝日は大陸が祝日ではないから貨物は動く、つまり China Division だけは休めない。Head Quarter / Air Cargo / Ocean Cargo / Courier と他の部署は全部香港の祝日を満喫している日でも China Division と倉庫だけは通常営業。なんで私達だけずっと働いてんねんー!休みくれー!と何度叫んだことか。

2)物理的に無理だってのに
国境税関の営業時間は一番長い税関で朝9時から夜10時だというのに、「必要な部品が足りない!工場始業の9時までに持ってきてくれ!」などと物理的事情を無視したオーダーが入ることも多々あり。

いやいや、ボーダーが開くのが9時、そこから工場まで2、3時間かかる、ってのに9時までに持ってこいと言われても無理やし。「じゃあボーダーに7時から並んでくれ!万が一早目に開いたらすぐに抜けてくれ!」いやいや、開くの9時なんだから7時から並んでも意味無いから。朝6時にトラックに積み込め、ウチの社員を監視に行かせる、と命じられ意味なく朝6時から出社して積み込みやらされたこともある。

3)日本人駐在員の無理難題
「部品が足りない!あとx時間以内に持ってきてくれないと生産ラインが止まる!」とか言い出す工場も多々。

まずは空いている車を探す。朝一番よーいドンでボーダーを越えて大陸に行って管轄税関で輸入通関してから配達し、戻りの貨物をピックアップして輸出通関終えて香港へ戻ってくるのは一日仕事。途中でそうそう簡単に空きの車は見つからない。

「何が何でも今日中に工場へ届けてくれ」と言われて一番早く戻って来た車を確保するが、夕方に香港を出発してもその日のうちにボーダーを抜けられるとは限らない。夕方から道路込むんだよ。税関にはその日のうちにボーダー抜けたいトラックが殺到するんだよ。兩地牌車はローカルの配達の車みたいにたくさんあるわけじゃないんだよ。しかも3つあるボーダー税関のうち、通れる税関が車両ごとに決まっていてどこでも通れるわけじゃないんだよ。

税関に並んでいる間に営業時間終わって抜けられない可能性も十分ある。抜けられなかったらオーバーナイト・チャージかかりますよ。「いや、何が何でも今夜中に持ってこい!」「オーバーナイト・チャージなんか払わん!」みたいな無茶な日本人の多かったこと。

自分は大企業だから無理言っても最後には従うだろうと高をくくっていたオッサン駐在員も多かったけれど、残念でした。私は日本人マインドが無いので、無理なものは無理ってハッキリ言う性質。物理的に出来ない理由をちゃんと説明して、こちらで出来ることのうちで最大最高の代替案を出すけれど、それを呑めないのであればオーダーは受けられない、ときちんと交渉する性質なのよ。

そして、夜10時直前。私の携帯にドライバーから直接電話が掛かって来る。「ソフィ姐、ごめん。抜き打ち検査って言われた。明日の朝一番から検査するらしいから今夜のうちには配達できない。工場側には電話入れといた。ごめん。」と。
「やっぱりねー。そうなるんじゃないかと思ってた。あなたのせいじゃないから謝らないでよ。検査って言われたら仕方ないじゃん。こちらこそごめんね。」そういうもんだよ。

また別の時には、突如急ぎの輸出品が出たから今すぐピックアップしてくれと工場からのオーダー。15cm四方の小さい箱が一つだという。ところが3トン車の空きがない。見つかったのは10トン車。トラック屋の老闆(オーナー)は「そんな小さな箱一つを10トン車に載せるのは危険だからやめたほうがいい」と言う。それも伝え、10トン車料金は高いから翌日3トン車が空いた時のピックアップの方が良いと言っても聞かない客。

仕方なく10トン車でピックアップしたら、案の定税関で検査を言い渡された。「こんな小箱を10トン車で運ぶなんていうのは怪しすぎる」との理由。そりゃそうだ。結局、急ぎなのに貨物は足止め食らうわ、10トン車料金は高いわ、検査費用だのオーバーナイト・チャージだのかかるわでマイナスの結果。やっぱりプロの意見は尊重すべきだったのにね。

とまた脱線してしまったけれど、とにかくやはり何らかの仕事をするという経験を通訳者としてのキャリアを始める前にやっておくのはアドバンテージになる。(続)

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