イチゴミルク男

苺みるくと書くと愛らしい感じ、イチゴミルクとするとちょっとカタコト感。苺みるく男子はなにやらかわいい。

イチゴミルク男となるとぎょっとする。

通勤の車内、今やどこで売ってる?な、レトロなピンクのパッケージが視界に入ったので、朝練前の高校生かなくらいの気持ちでさりげなく目を向けてみれば、左手にイチゴミルク、右手にスマホの大の大人。

人工的な甘ったるい香料に耐えかねたので、隣の彼が日々世知辛いサラリーマン生活を送り、いかに毎朝のイチゴミルクに救われているかという妄想をすることにした。

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今日もスマホのけたたましい電子音で重い身体を引きずり目を覚まし、早朝からさして意味のない会議が2つ、日中は顧客先を周り頭を下げてお願い営業、終電で家に帰れば家族は寝入っており2歳になる娘が起きているところを見ることは週末にしかないので、見る度成長している気がするが、父親にはいっこうに懐かない。

そんな僕の生きる糧、それが毎朝最寄りの24時間営業スーパーで買う、イチゴミルクだ。
まさにイチゴをミルクで溶いたときの薄ピンク色のパッケージは、何度手に取ってもうっとりする。

現代ではブリックパック形のそれは、かつては三角牛乳と呼ばれ給食の定番だったが、最早それも昭和の遺産。

備え付けのストローを取り出して飲み口に差し込めば、ふわっと広がる甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

右手のスマホで社内チャットに返信しながら左手に握るブリックパックをそっと口に運べば、糖分が染み渡り、朝の身体に血糖値が漲る。

最後の一滴までズルルと音を立てて飲み干したところで、会社の最寄駅だ。

今日も機嫌よく、僕は勢いよく立ち上がる。

#妄想 #通勤 #ショートショート #イチゴミルク

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