千日手

少年と老人が将棋を指しながらあーだこーだ言っている。
「じいさんはいつだってこの手でくるね。ぼくにはもうお見通しさ。ほら、4一金だよ」
と少年はいって、パチンとした。
老人も間髪おかずにパチンとして、「お前さんはいつも詰めが甘い。俺はおまえの数倍に知恵と経験がある。」と笑う。
少年はにやりとして「おじいさんはさすがだね」といった。それをきいて「おまえはかわいいよ」と。スっパチン。
少年は顔をつぶして、ちゃぶ台が震える。老人は手元の駒をすっと少年の足元にやった。
しばらくたって、少年は笑みを噛み殺しながら、パチンとやった。老人は朗らかに微笑んで「立派になったな」とつぶやいた。少年はそれがうれしくてたまらない様子で背筋がのびた。「ほら、4一金だよ」

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