【感想】THE FIRST SLAM DUNK 感想
(THE FIRST SLAM DUNKおよび漫画版SLAM DUNKのネタバレを含みます)
この記事は2023年8月31日に終映を迎え、2024年1月23日に1日限りの復活上映、2024年2月28日にはビデオグラム商品の発売予定と、あれっ意外とまだコンテンツ展開が続いているな? という嬉しい戸惑いのある『THE FIRST SLAM DUNK』に関する感想を語るものです。随分前に終映したにも関わらず、今更ながら感想書いている周回遅れ感については何卒ご容赦ください。
観たきっかけ
何故今更になって映画の感想を書いているのかと言えば、もちろん遅筆であるというのが最大の理由ではあるものの、そもそも観に行った時期が非常に遅かったからというのもあるからです。公開が2022年12月3日からだったにもかかわらず、映画館に初めて観に行ったのが2023年の7月に入ってから。そろそろ終映アナウンス出るんじゃないかなってタイミングで観に行くことにしたのは、諸般の事情――ここではドハマりしていた『すずめの戸締まり』の終映と『水星の魔女』の最終回が相次いだことによる二重ロスを指します――により人生のモチベを奪われどん底で絶望していた私に友人が囁いた一言が切欠でした。そう、「良い沼あるよ」と――……。
スラダン自体はかーーーなり昔に完全版を全巻揃えたくらいにはハマっていたものの、ここ数年は全然読み返してすらいなかったし、大体の話の展開とラストは覚えてるけど細かい部分はほぼ忘れてるってレベルの知識量。ザファ自体は公開当初からの盛り上がりや評判の高さ自体は勿論知っていたけれども、山王戦と宮城の話らしいというのも何となく知っていたので、漫画版の主人公だった花道のアフターストーリーなら観たかったけど山王戦の焼き直しならいっかな……くらいでずっと見送っていたというのが正直なところでした。というのを酒の席でくだを巻きつつうだうだ言い訳していた私に対し友人が「お前を沼に沈めるためなら一緒に観に行ってやる」と言い放ち、有言実行とばかりにすぐにチケットを取り映画館に連行されたというのが観たきっかけです。そしてそこから終映までの1ヵ月半余りで計4回リピートするというね、フラグ回収と沼に沈められるまでのスピードが速すぎる。あのトンデモ手腕は一体何なんだろうな……。
ストーリー全体や構成についての感想
しかし友人の勧めに従って劇場まで観に行っておいて良かったなって心底思いました。ストーリーとして普通に面白かったし何よりも臨場感がすごい、劇場の大画面かつ万全の音響設備で味わう試合展開のダイナミックさが素晴らしかったです。
あと、構成と展開の妙を感じました。全体的にかなり思い切った構成で、映画という所要時間の限られたコンテンツにおける時間の使い方が上手い。試合シーンをダイジェスト複数展開にせず山王戦に絞って描き切ったのと、回想シーンもほぼ宮城のバックストーリーに絞って展開したのはやっぱり流石というか、取捨選択に迷いがない。いきなり山王戦、唐突に宮城の回想でも映画として充分成り立ってしまうのはもちろんスラダンの元々の知名度の高さがあるからで、でもその知名度を上手く使った上で更に映像としてブラッシュアップされているのが見事でした。それと、作者兼監督が漫画版と映画版はスラダンという同じ根っこを持つコンテンツから生えている別々の木である的なお話をどっかでしていたと思うんですけど、映画序盤で宮城のパスを受けた花道がそのままアリウープ決めたシーンで「映画は漫画とは別物だぞ」って相当明確に提示された感がありましたね。あれ確か漫画版だと宮城の意図を花道が汲み取れずに失敗していた筈だったので。漫画版ファンで公開前に再読して予習していた組とかは余計にそう感じたんじゃないかなって思う。
二時間程度の映画の中で、一分一秒の争いをする“今”と、宮城の今に繋がる“これまで”の生い立ちが交互に描かれながら進んでいく訳ですけれども、この描かれている時間の尺度の違いが中弛みを防いでいるというか、観客を飽きさせない緩急を生んでいる感じがしました。ただ、初見だと試合と回想が交互に来るのは心が追いつかないというか、上手く咀嚼と切り替えができない部分があって大変だったかな。余韻とかもう少し味わいたかった……。
試合シーンの感想
これは今の技術すげぇの一言に尽きる。随分前からモーションキャプチャの有用性は知ってたけれども、こんなに臨場感ある試合映像お出しされるとは思わなかった。すっごい動くじゃん実写みたいと思う反面、要所要所で線画風の表現が入るのが漫画派へのサービス感あってニクいというか、元が漫画であることの旨味を活かしてるのが良い。展開も結果も知っているはずなのに、手に汗握って観てしまったのは見せ方の上手さだよな。山王戦で観たかった部分が余すとこなく入っていた感じがしました。栄光時代〜辺りのあの下りをスクリーンで観れたのはデカい。あと最後の花道の一言が無音なのはずるい……漫画版の最大の山場を敢えて映画版では見せない辺り、宮城の物語として締めるという一貫性があってこの辺も良かったです。それにしても安西先生のもちたぷ感しゅごい。今の技術だとあんなにタプタプできんの?
宮城の回想シーン
原作の連載終了してこんなに年月が経った今、こんな人の心を抉ってくるタイプのバックストーリーお出ししてくるの??? 今更キャラクター背景を爆速で深化させるの??? 正気か??? というのが初見時の感想です。今でも大体こう思っています。案の定、古のオタクは蘇るし新規も増えるという結果になっていたのはまあ当たり前ではある。
いつから彼の生い立ちを考えてたんだろ、連載中? それをその時は描かなかったの??? 正気か??? というのが二回目以降に観に行った時に感じていたことなんですけど、この辺はCOURT SIDE in THEATER FINALである程度語られていましたね。確か、沖縄出身なのは連載中もふんわりと考えていたけれどもキャラクターの背景はある程度付き合いが長くならないと見えてこない、飲み会の二次会みたいに時間が経ってから君はどんな背景があるんだって聞き出すようにして初めて見えてくる、的な話をしていたような気がするんですけど、すごい長期連載作家的な発想とキャラクターメイク手法だなってしみじみ感じました。この辺クリエイターによってそれぞれ特色が出るから聞いててとても面白い。
宮城の回想については、三井に兄が重なったシーンはすごく印象的だったし、慟哭したシーンはやっぱり胸が痛んだし、破り捨てた手紙の一行目に呻きました。彼の抱える憧憬や喪失や悔恨というものは、もちろん彼自身のものであることに変わりはないけど、すごく特別だったり特殊だったりするものばかりではなくて、多かれ少なかれ誰もがちょっとずつ同じように抱えて生きているのだとは思う。どの年齢でそれを経験することになるのかという面はあるけれどもね。でも、宮城自身が自らの境遇をどのように受け止めて、そして未来へと進む一歩を踏み出したのかは、宮城にしか成し得ない、それこそ宮城の“物語”なのであって、その過程、心の動き、人々とのやり取りをバスケットボールという競技を主軸に据えながら劇中で細やかに描いていたのは完成度が高かったと思いました。銀幕の向こう側、窮地でこそ何ともないフリして笑う宮城リョータという男はサイコーに格好いいやつだったよ。願わくばこれからも、陽の当たる道を笑いながら歩いて行ってくれ。
その他の感想あれこれ
なんか今回スポーツ漫画の良さを再発見したというか、再認識した気がしました。手に汗握る試合展開に、登場人物の生い立ちを同時に味わえるのは醍醐味だよね。あと、何より安西先生の“良さ”を再確認しました。安西先生と花道とのやり取りがすごく好きだなって改めて実感したし、だからこそやっぱりどうしても花道のアフターストーリーが諦めきれないんだわ……。こんだけ売れたんだから続編ほしいです、出来れば湘北スタメン全員分やってくれ(強欲)。けど次回以降は構成的に完全新作じゃないと難しそうなのがなんとも。でも期待しています。
以上です!