なぜコロナが蔓延すれば検査対象を狭めるのか

 新型コロナウイルス感染症が中国で発生し、日本に上陸してから早2年が経過した。この間、国内外を問わず様々な機関・組織・コミュニティ、そして個人が目の前に迫りくる感染拡大や次々と現れる変異株への対応、そして社会機能の維持によく言えば臨機応変に、悪く言えば場当たり的・右往左往して対応してきたのではないか。

最新の変異株であるオミクロン株は、これまでより重症化する症例は少ないと言われているものの、感染力が非常に強くわが国でもいわゆる第6波が到来し、見たことのないようなスピードで感染が拡大、各地で過去最多の陽性者数をはじき出している。

そのような中、政府分科会に所属する専門家から若者は検査をせず症状だけでコロナ診断を行うことという提案が出されたことがニュースとなった。

この提案には反発が多かったためか(私の観測範囲内でもyahooニュースのコメント欄やTwitterなどでは批判が多く見られた)、政府はこの提案を却下し、若者も検査対象とすることを発表した。

しかし、本当にこの専門家の提案は誤りなのだろうか。NHKの記事によると、後藤厚労相も専門家会合の脇田座長も、今後については若者を検査なしで症状のみでコロナ診断をすることに含みを持たせている。

また、一方で、新型コロナウイルス感染症を、感染症法上の5類相当に位置づけるべきだという議論も再度持ち上がっているが、現政府は見直しに慎重姿勢のようである。

今回、ほぼ同時期に、若者世代の症状のみでの診断可不可の議論と感染症法上の取り扱いの議論が巻き起こったため、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を積極的に抑制すべきという側も社会を回すためには一定程度のリスクを取り感染拡大はやむを得ないという側も内容を混同し批判しあっているように見える。
筆者は、若者世代の症状のみでの診断は可としてもよいと考える立場であり、これが何を意味する提案なのか以下述べたい。

そもそも、新型コロナウイルス感染症が確認される前に定められていた新興感染症への対策はどのようになっていたのか。これは、旧新型インフルエンザ等対策特措法に基づくものである。新型インフルエンザ等対策特措法は何度か改正されているが、新型コロナウイルス感染症確認後には、2020年3月に改正されたものと2021年2月に改正されたものがある。前者は、新型コロナウイルス感染症を本特措法の対象とするという改正であり新型コロナウイルス感染症の蔓延に対して緊急事態宣言を出せるようにすることが主眼であった。後者は、緊急事態宣言が重すぎるというような批判を踏まえ、まん延防止等重点措置などを創設する改正であった。
ここでややこしいのは、旧新型インフルエンザ等対策特措法(コロナ確認前のもの)も新興感染症に関する定めはあり、新型”インフルエンザ”でない感染症に対しても緊急事態宣言等の措置を取ることは可能であったが、当時の政府は新型コロナウイルス感染症は新興感染症ではないとの立場であったため、このような改正が必要とされたのである。
長くなったが、このような経緯をたどってきた本特措法であるが、新型コロナウイルス感染症確認以降は冒頭で述べたようにその時点での状況に応じて”臨機応変”に対応してきており、もともとわが国が予定していた新興感染症(政府は”コロナ”を新興感染症と認めていないが)に対する原則的対応に立ち返って今後を検討すべきときに来ているのではないかと考える。
ここに、新型インフルエンザ等対策政府行動計画というものがある。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/keikaku/pdf/h29_koudou.pdf

これは、旧特措法に基づいて、”コロナ”前に定められていた新型インフルエンザ等が発生した時の政府の対応マニュアルである。同様のものが各自治体でも定められている。”コロナ”確認後、ちょうどプリンセスダイヤモンド号での船内感染が広がっていたころであろうか、筆者はTwitterでこの政府行動計画を読みこみ、今後の政府の行動を予測したことがある。長いツリーになっているが、以下に掲載しておく。

続くツリーにも書いているが、「あくまでも新型インフルエンザ等対策特措法に基づくものであり、指定感染症である今般の新型コロナウイルスはこれに縛られるものではない」との前提で書き込んだものである。
これが先ほど述べた、政府が”コロナ”を新興感染症と認めなかった故のものである。感染症法上の新興感染症と認めていればこの計画を適用していくべきだったのであるが、なぜか新興感染症としなかったため、この計画通りには進められることはなかった。

感染症法上、新興感染症は”人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの”であり、
指定感染症は”既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの”である。
要は、新型コロナウイルス感染症は全く新しいウイルスというわけではなく、コロナウイルス(SARS関連ウイルス)の一種であるから未知ではないため、新興感染症ではなく、指定感染症にしたという建付けなのである。(当初、政府もこの計画に基づいて対応しようとしていた節が見られるが、それはまた後日の記事としたい。)

しかしながら、法律上の定義の是非はこの際置いておき、未知であろうが既知であろうが、何度も緊急事態宣言を出さなければならず一部地域においては医療崩壊も招いたウイルスの蔓延という事態であるから、やはりこの政府行動計画に立ち返って、”コロナ”の特性に応じて計画の変更もしながら対応策を示すことが政府が実行しなければならない施策であろう。前置きが長くなったがいよいよ本題である。
2年前のツイートの繰り返しになるが、今後の医療体制・検査体制をどうすべきなのだろうか考えてみたい。

行動計画を見てほしい。p24、25で発生段階を5段階に分けている。 即ち、未発生期→海外発生期→国内発生早期→国内感染期→小康期である。

国内発生早期とは、”国内のいずれかの都道府県で新型インフルエンザ等の患者が発生している が、全ての患者の接触歴を疫学調査で追える状態”、
国内感染期とは、”国内のいずれかの都道府県で、新型インフルエンザ等の患者の接触歴が疫学 調査で追えなくなった状態”
のことである。

第1波~第5波は、地域的な偏りや疫学調査の範囲などに差はあったものの保健所の努力によりなんとか調査は続けてこられたという一定の評価が可能であろう。接触者不明が増えたものの、その後、様々な対応によりいずれも波は収束した。
しかし、今回の第6波はこれまでを大きく超える感染者数をはじき出しており、早晩、全国で接触者調査の意味がない状態、あるいは、保健所のキャパオーバーとなる状態になることが予想される。

そのような状況、つまり、国内感染期には、政府行動計画は以下の取り組みを想定していた。政府行動計画の61ページを見てほしい。

国内感染期では、
”・国内のいずれかの都道府県で新型インフルエンザ等の患者の接触歴が疫学 調査で追えなくなった状態。
・感染拡大からまん延、患者の減少に至る時期を含む。
・国内でも、都道府県によって状況が異なる可能性がある。”
とされる。

対策の考え方として、あげられる以下の8項目がある。
特に6)は第6波の急速な拡大、特に学校園の休校園による欠勤者の増大は英米や沖縄などでも発生した状況であり、まさに現状と合致している。ここまでくると、感染拡大を止めることは困難であるということを明言しているのが特徴である。

”1)感染拡大を止めることは困難であり、対策の主眼を、早期の積極的な感染 拡大防止から被害軽減に切り替える。
2)地域ごとに発生の状況は異なり、実施すべき対策が異なることから、都道 府県ごとに実施すべき対策の判断を行う。
3)状況に応じた医療体制や感染対策、ワクチン接種、社会・経済活動の状況 等について周知し、個人一人一人がとるべき行動について分かりやすく説明 するため、積極的な情報提供を行う。
4)流行のピーク時の入院患者や重症者の数をなるべく少なくして医療体制へ の負荷を軽減する。
5)医療体制の維持に全力を尽くし、必要な患者が適切な医療を受けられるよ うにし健康被害を最小限にとどめる。
6)欠勤者の増大が予測されるが、国民生活・国民経済の影響を最小限に抑え るため必要なライフライン等の事業活動を継続する。また、その他の社会活 動をできる限り継続する。
7)受診患者数を減少させ、入院患者数や重症者数を抑え、医療体制への負荷 を軽減するため、住民接種を早期に開始できるよう準備を急ぎ、体制が整っ た場合は、できるだけ速やかに実施する。
8)状況の進展に応じて、必要性の低下した対策の縮小・中止を図る。”

さて、このような場合の医療体制については66ページに書かれている。
国内感染期でも、地域によってその状況は異なることがあるが、第6波の現状では、どの地域も感染期に入っていると考えたい。
すると、その場合は、
① 帰国者・接触者外来、帰国者・接触者相談センター及び感染症法に 基づく患者の入院措置を中止し、新型インフルエンザ等の患者の診療 を行わないこととしている医療機関等を除き、原則として一般の医療 機関において新型インフルエンザ等の患者の診療を行う
入院治療は重症患者を対象とし、それ以外の患者に対しては在宅で の療養を要請するよう、関係機関に周知する。
③ 医師が在宅で療養する患者に対する電話による診療により新型イン フルエンザ等への感染の有無や慢性疾患の状況について診断ができた 場合、医師が抗インフルエンザウイルス薬等の処方箋を発行し、ファ クシミリ等により送付することについて、国が示す対応方針を周知す る。
④ 医療機関の従業員の勤務状況及び医療資器材・医薬品の在庫状況を 確認し、新型インフルエンザ等やその他の疾患に係る診療が継続され るように調整する。”

このような対応をとるのは、感染拡大を止めることが困難な状況に入っており、受診者が非常に多人数になると想定されること、基本的に患者は蔓延している新興感染症と考えられるため一般の医療機関においても診療せざるを得ない状況となること、入院はベッド数やマンパワーの問題から対応できる医療機関は限られるため重症対応に絞らなければ重症者が自宅に放置されるなど被害が増大する恐れがあること が理由であると考えられる。

実際、第4波における関西、第5波における関東は事実上この状況に突入していたと考えてよいと思う。第6波では全国的にこの状況になりつつあると見てよい。

それでは、今回のタイトルにした検査体制はどうなのだろうか。
実は、感染期ではなくその前段階の国内発生早期にその記載がある。
57ページを見てほしい。

都道府県等は、国と連携し、必要と判断した場合に、地方衛生研究所に おいて、新型インフルエンザ等の PCR 検査等の確定検査を行う。全ての新 型インフルエンザ等患者の PCR 検査等による確定診断は、患者数が極めて 少ない段階で実施するものであり、患者数が増加した段階では、PCR 検査等 の確定検査は重症者等に限定して行う。

政府行動計画 57ページ

お分かりだろうか。国内発生早期の段階で計画上はPCR検査は重症者に限定して行うとされている。
この点、現在においても”コロナ”に対する検査は行われ続けており、計画と大きな齟齬をきたしている。この理由は判然としないが、筆者は以下のように想像している。
・(新型)インフルエンザと異なり、潜伏期間が長く、また、当初に多い事例であるが重篤な症状が一見しては分からないがCTやレントゲンを撮ると重症だという事例が相次いでいたこと
・インフルエンザと異なり、タミフルなどの初期に投与できる薬が存在していなかったこと
・当初はPCR検査以外に有効で迅速かつ信用のおける検査が不明確であったこと

さて、計画は計画、実際は実際であり、実際はPCR検査等は行われ続けている現状がある。しかし、各種のニュースにもあるように第6波においては各地の発熱外来では、発熱していれば”コロナ”、喉が痛ければ”コロナ”、それどころか喉の違和感程度でも”コロナ”という状況である。この状況では、検査しなくてもコロナとみなしていくほうが、医療資源の節約となり、ひいてはそれで余った余力を院内感染防止や重症者・中等症者への対応に当てたほうが被害の軽減になるのではないか。

何も、検査をしないから”コロナ”ではないというのではない。冒頭の記事にもあるように、専門家の提案はあくまで検査なしで症状のみでの診断を可能とするというものである。これだけ”コロナ”が蔓延している状況では、一定の基準を定め、”コロナ”と診断し、重症でなければ投薬治療や自宅療養に切り替えていくべきときであるのではないか。検査をせず、”コロナ”ではないと診断をするのではない。重症になりにくいとされる若者に限り、検査をせずとも、”コロナ”の診断をするという提案である。政府行動計画にも沿う対応であるのではないか。

なお、筆者はコロナは風邪論者ではない。反ワクチンでもないし反マスクでもない。コロナは非常に社会にとって個人にとって非常に脅威を感じる感染症であり、今も社会機能のマヒが近づいていると感じている。
だからこそ、限られた資源を有効に使うべきではないかと考えている。


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