【連続小説】騒音の神様 48 垂水、ボコボコの後で立ち上がる。

垂水は必死で体をガードして守り続けた。ドカドカと蹴りが当たる。体を丸めて亀のように縮こまって耐える。意識が飛ぶような攻撃は無かったので「このまま無事に」と思いながら体を守り続けた。垂水を取り囲む男達が、何か言っていたが垂水は何も喋らなかった。「あやまらんかい、おい兄ちゃん。」「大人なめたら大怪我すんど。」垂水は必死で腕で頭をガードしながら黙って我慢し続けた。そのうち相手の男達が「もう行こか。」「気ぃつけや兄ちゃん。大人舐めとったら大怪我するで。」と言うと立ち去って行った。垂水は安堵した。息を大きくついた。自分の手で足や腕、背中、顔、頭をまさぐる。「たいした怪我はないな。」何度も大きな息をついてから、ゆっくり立ち上がった。腕を動かす、足を動かしてみる。首を回す。ところどころ痛い所はあるが全部動く。「どうする。」垂水は自分に問いかける。垂水の頭に強烈に浮かんできた思いは、「このままでは帰れん。」だった。「あかん、このままやったら、仲間の前に胸はって立たれへん。帰られへん。行かなあかん。戦わなあかん。負けたふりして、しゃがみ込んで怪我もしてへん。こんなんで、胸張って帰れるか。」垂水はそれから考えるのをやめて動きだした。走り出した。「どこや、あいつら。俺はこのままでは帰られへん。見つける。」垂水は息を切らして走る。「どこや、どこに行った。まだ間に合うやろ、間に合え。」垂水はキョロキョロしながら走り、時折り振り返る。繁華街の端のほうで、「見つけた、おった。」男達、六人は何かの店に入ろうとしている所だった。立ち話をして、何人かが店の入り口に向かっている。「間に合う、」垂水はダッシュして一番体の大きな男の背中から走りながら蹴り込んだ。「オラーーー」垂水は叫び声のような声をあげて大きな男に殴りかかり、蹴りを入れた。大きな男がうずくまる。まわりで怒鳴り声が聞こえてくる。「さっきのあいつやんけ、なめとんな。」「いてもうたれ、」そんな声がなんとなく垂水に聞こえた。垂水は角刈り男に拳を見舞った。顔面に直撃し、角刈りが後ろに吹っ飛ぶ。垂水は「こっからや、こっからや、行ける、行ける、」そう思いながらとにかく、がむしゃらにパンチを繰り出した。

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